台風19号被災現場のアスベスト対策強化を!

長野県アスベスト対策センターが被災現場を視察 県や市と意見交換も

長野県アスベスト対策センター事務局長 喜多英之

昨年の台風19号は長野県に多くの被害をもたらし、いまだ復興にはほど遠い状態である。現地では、18年4月に長野県平和・人権・環境労働組合会議が中心となり長野県アスベスト対策センターが結成され、横須賀の「じん肺・アスベスト被災者救済基金」もアドバイザーとして支援しながら被災現場のアスベスト対策について積極的に取り組んでいる。現況を寄稿していただいた。【池田】

■「災害協定」を使わない長野県当局

昨年10月12日、長野県に最接近した台風19号は、長野県の東北信地域、千曲川流域に甚大な水害を引き起こし、現在、官民が連携し被災地の復旧に向けた取り組みが連日続けられています。

このなかで被災した建築物に使用されているアスベストについて、長野県や長野市などの行政当局は、ホームページなどで注意喚起を呼び掛けているものの、被災住民や業者、ボランティアが建築物の解体や搬出・運搬作業に従事する際に、建材に含有するアスベストの取り扱いを規制するなどの措置は取られていません。

県議会、長野市議会でアスベストの取り扱いに関する質問があり、長野県は18年9月に締結した、専門的な技術者団体と災害時の建築物のアスベスト問題に関する「災害協定」を発動して調査を行わない理由として、「飛散性のアスベストが使われる可能性の高い06年以前建築の鉄筋コンクリート造りが対象」であるとし、「被災した建物を調べたところ使用がないと分かった」ので調査していないという答弁でした。また、長野市は、被災地区で吹き付けアスベストに関して、「アスベスト台帳」に基づき7つの事業所で調査(目視)し、損壊はないと確認、台帳にない300㎡未満の事業所も調査して損壊がないことを確認したので、長野県に対し災害協定に基づく調査を申請しなかったなどと答弁しました。

被害が特に深刻だった長野市の千曲川沿いの地域には全国から6万2千人を超えるボランティアが駆けつけていただき、住宅内の清掃や泥出し、家財搬出などの作業に従事しています。アスベストを含む床・壁の建材の解体、運搬などもボランティアが行うケースがあり、アスベストばく露対策が求められています。

長野県アスベスト対策センター(代表=鵜飼照喜・信州大学名誉教授)は、昨年12月23日、中皮腫・じん肺・アスベストセンターの永倉冬史事務局長を招き、地元の県議会議員、長野市議会議員とも連携して、被災地やがれき置き場の現地調査、長野県及び長野市の担当部局との懇談・意見交換を行いました。

■がれき置き場の赤沼公園大気中アスベスト濃度は詳細検査で基準値以内

最初の調査地は千曲川堤防決壊地点に近い「赤沼公園」です。
発災直後から、地元地域の被災者宅の災害廃棄物の「勝手置場」となっていたものですが、途中から長野市の「指定仮置場」となり、基本的に9分別された災害ゴミが集積されてきたところです。長野市職員の説明を聞きながら一回りしました。

昨年12月15日でがれきの受け入れが中止となった赤沼公園は現在、山積みになっていた災害ゴミが富山県や三重県の民間事業所へ搬出され、ガソリン類や農薬などの危険物が残存しているのみとなっています。アスベスト含有が懸念される「石膏・ボード」置場には、破片が散在しています。

赤沼公園では、大気中アスベスト濃度のモニタリング調査が11月13日に実施され、繊維数濃度が2・0本/ℓと基準値を超えたことから詳細検査を行い、アスベスト繊維数が0・68本/ℓと環境基準値以内であったことが公表されています。

■堤防の決壊地点
長野市長沼支所の体育館はケイカル板を使用

長野市長沼支所や体育館は1992年の建設で、吹付アスベストは使用されていませんが、壁材にアスベストが含有する「押出成形セメント板」が使われていることが多く、また、屋外のひさしの天井や駐車場の天井に「ケイカル板」が使われている可能性があります。
堤防決壊の周辺は、まるで津波に襲われたような破壊された家屋が立ち並び、被災当日のままの状態です。復興への道のりは長いと感じます。

■アクアパル千曲
石膏ボードやスレートは隔離・被覆して保管

長野県の下水道最終処理場の一つである「アクアパル千曲」(長野市真島)は、災害廃棄物の指定仮置場の一つ。土砂がれきのほか冷蔵庫やテレビなどの電化製品も集積されています。

ここでは、「石膏ボード・スレート」が含まれるがれきが一カ所に集められ、特にアスベスト含有が懸念される「波型スレート」や「壁材などのスレート板」が「危険物」として、一カ所に集められ、ブルーシートをかけて保管されていました。がれきの中から手分別で処理、回収しているとのことです。アスベストセンターの永倉氏は「モデル的な取り組み」と評価していました。分別・排出作業を管理受託している事業者は、「アライブ」という神戸市内の事業者で、これまで阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震災害、倉敷市真備町の災害などで災害廃棄物の処理を担ってきているそうで、アスベスト含有が疑われる危険物の分別管理を自主的に行っているとのことでした。まさに経験とノウハウが活かされていました。

これらの現場視察で、改めて問題が浮上しました。一つめは、他のがれき仮置場では、アスベスト含有建材が分別処理・保管されていないということ。二つめは、結果としてですが、アスベスト含有が疑われる建築廃材が災害ボランティアの手により処理され、仮置場に集積されているということです。

■長野市環境部と意見交換
公費解体・自費解体 着手に向け万全の対策を

こうした現地調査の結果を踏まえて長野市の環境部環境保全温暖化対策課及び長野県の担当課と意見交換を行いました。

長野市では、被災した建築物にはアスベスト含有建材使用の可能性があり、それらの除去にあたりアスベスト飛散が懸念されることから、建築指導課で所管するアスベスト台帳により吹き付けアスベストが使用されている長沼地区の民間7事業所を調査、目視で「飛散の恐れなし」と確認したほか、台帳にない300㎡未満の事業所を調査し損壊がないことを確認してきたとしています。また、「災害時における石綿飛散防止にかかる取り扱いマニュアル」により大気中アスベスト濃度のモニタリング調査を長沼支所周辺、災害廃棄物仮置場(6カ所)、指定避難所(7カ所)で実施、異常なしと報告されました。

長野市が単独で調査している点は評価できますが、レベル1の吹付アスベストへの対応が中心で、レベル2の保温材や断熱材、レベル3の床や壁、天井などの建材への対応は手がついていない現状が明らかになりました。

被災家屋の片付け等に従事する住民、ボランティアに対し、アスベストを遮断できる防塵マスク(DS2マスクなど)の配布や告知、アスベスト対策の啓発が行われてこなかったことは教訓とすべきです。長野市担当者も「指摘はもっともであり、アスベスト対策の認識をより深め、反省点としたい」と述べました。

問題はこれからです。被災建物の「公費解体」が2月頃から始まります。また、公費解体の実施時期が不明なことから自費解体を選択し、解体に着手する被災住宅もあります。公費解体には、全国から解体業者が集まることになり、事業者へのアスベスト対策の徹底、被災住民への徹底が不可欠となります。

長野市では環境部生活環境課内に「公費解体対策室」が設置され住民への説明会が始まりました。十分な事前調査や解体工事にあたってのアスベスト飛散防止策など万全の対策を準備していくことが重要です。

■長野県と意見交換
「災害時における被災建築物のアスベスト調査の協定」の運用が課題に

長野県では、環境部門と建築部門の担当課と意見交換しました。
長野県は18年9月に「災害時における被災建築物のアスベスト調査に関する協定」を「一般社団法人建築物石綿含有建材調査者協会」など専門家3団体と締結しました。しかし、今回の台風災害で、県は「飛散性のアスベストが使われる可能性の高い06年以前建築の鉄筋コンクリート造りが対象」に限定したうえで、「損壊家屋が発生した長野市では、市の独自調査により飛散の恐れがない」との報告を踏まえ、協定を発動しなかったと改めて述べました。「協定」では吹付アスベストなどレベル1対応に限定はしていないのですが、運用上「限定」しているということが判明し、改めて「運用の改善」を求めました。

また、県でアスベスト簡易検査機アナライザー(1台約750万円)を購入し公費解体等に備えるよう求めました。担当課では予算要求はしているが「未定」と答弁しました。

■行政責任で被災者・ボランティアにアスベスト対策の徹底を

今回の現場視察と長野県・長野市との意見交換会を通して、総じてアスベストの規制対策が、災害の緊急性を理由に置き去りにされている実態が明らかになりました。長野県がアスベスト関連の専門家団体と締結した「災害協定」も今回の事態で発動しなければ何のための協定かと言わざるをえません。また、建材に含有するアスベスト対策がほとんど実施されていない事実も確認されました。

今年になっても長野市ではボランティアが活動しています。長野県アスベスト対策センターは、被災住民やボランティア、関連業者に対し、行政責任で十分なアスベスト対策を実施するよう強く求めていく方針です。