死因が特定できず、アスベスト被害救済が困難に

横浜地方法務局が「死亡診断書」を5年で廃棄

石綿労災認定事業場公開ホットラインで電話相談

19年末の石綿労災認定事業場公開ホットライン電話相談に、あるご遺族からの相談が入った。23年前に父が中皮腫ないし肺がんで亡くなっているが、父は鉄道車両を製造する工場にて鍛造作業に従事しており石綿ばく露した可能性が高い。そして、その事業場が石綿労災認定事業場として新聞に掲載されているので労災請求したいとの相談であった。
労災保険の遺族補償の請求権は死亡日の翌日から5年経つと時効により消滅するが、石綿を原因とした死亡に関しては「石綿健康被害救済法」が制定され、死亡後5年経っていても「特別遺族給付金」が給付される(現行は16年3月26日までに亡くなったご遺族が対象)。そこでご遺族に、まずは死因の特定のため「死亡診断書」をお願いしたところ、思いがけない事態に直面したのである。

横浜地方法務局からの思いがけない回答

ご遺族の手元に「死亡診断書」は無かったので、戸籍法により死亡届出後27年間の保存が義務付けられている地方法務局に「死亡診断書」の写しを請求することにし、亡くなったお父様の戸籍を管轄する横浜地方法務局に連絡をとった。すると、横浜地方法務局から思いがけない回答があった。
「死亡診断書は死亡届出から5年経ったものは全て廃棄しています」
「えっ、でも27年保存が義務付けられていますよね」
「27年保存の規定はありますが、電子記録として複製すれば書類は5年で廃棄することが出来るという除外規定があります」
「では、その電子記録の写しを請求したいのですが」
「法務局で複製し保存している電子記録には死因情報は含まれていません」
「それじゃあ、死因の確認ができないじゃないか!」
「・・・・・」

「患者と家族の会」として関係省庁と面談

横浜法務局では届出後5年経った「死亡診断書」は全て廃棄しているという。そこで東京法務局にも確認してみると、同じく5年経ったら全件廃棄。これでは「石綿健康被害救済法」で死亡後5年でも救済するという制度を作った目的を損なう大問題であるし、かつ神奈川だけでない全国的な問題であるので、2月7日に「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」として関係省庁と面談を行った。
「患者と家族の会」からは当該のご遺族含め4名が参加し、厚生労働省からは労働基準局補償課業務係長、職業病認定対策室業務第2係長、人口動態・保健社会統計室長補佐他、法務省からは民事局民事第1課参事官、戸籍指導第1係長他が出席した。国会議員の山添拓参院法務委員(共産党アスベストプロジェクト事務局長)への説明の場である。

「死亡票」は遺族にも労基署にも情報開示しない

その場で明らかになったことが幾つかある。
①全国の50法務局のうち、5年で廃棄しているのは、東京、横浜、長野、徳島、前橋、金沢、水戸、広島の8法務局で、静岡、埼玉、千葉の3法務局が廃棄に移行しつつある。
②厚生労働省は人口動態調査として「死亡診断書」等の届出書類を元にして「死亡票」を作成しており、この「死亡票」に死亡者の死因が記載されている。しかしこの「死亡票」は人口動態調査の目的で作成したものなので、労災請求など目的外使用のために、遺族であっても情報開示はしない。
③「死亡票」の情報提供について定めた統計法第33条が07年に改正(09年4月1日施行)され、以前は行政目的によって利用できたが、現行では統計作成以外には利用できないので情報開示しない。死因の特定のための労働基準監督署の調査にも応じない。
④「死亡診断書」が廃棄された遺族に対して、12年の厚生労働省の中皮腫遺族に対する労災請求勧奨(周知事業)の対象から抜け落ちている。

今後の要求課題

そこで、問題点を整理して今後の要求課題として挙げてみたい。
①5年廃棄を実施していない法務局に対し、今後も5年廃棄をしないように要請すること(面談時に民事局民事第1課参事官には口頭要請した)。
②そもそも戸籍法では「死亡診断書」の27年間保存を義務付けているのだから、「死亡診断書」に記載されている死因他の情報を複製していないにも関わらず、5年で廃棄できる除外規定が適用されるのは違法ではないのか。
③「死亡票」に死亡者の死因情報が記載されているのであれば、それは遺族や労働基準監督署の調査においては情報開示すべきである。
④環境省は09年4月21日に「死亡票」を元に、中皮腫で死亡した遺族に石綿救済給付制度の周知事業を行っている。それは「死亡票」を行政目的で利用しているのだから、目的外使用はできないという説明と矛盾する。
⑤すべての中皮腫遺族に対し、「死亡票」を元にした「周知事業」を改めて行う必要がある。

実際の労災請求の過程で解決に結びつけていく

ご遺族とも相談し、この問題は、実際に労災請求し、その調査の過程で解決に結びつける事とし、2月18日に事業場を管轄する横浜南労働基準監督署に「特別遺族給付金」の請求を行った。今後は、厚生労働省本省とも交渉しながら、横浜南署には「死亡票」の調査を実施させるなどして問題の解決を図っていきたい。【鈴木江郎】