新型コロナウイルス感染症の労災補償について

緊急事態宣言による自粛要請・休業要請

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に流行し(2020年4月15日現在の感染者数173万人)、国内でも都市部を中心に急速に拡大している(同8405人)。政府は、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県を対象にした「緊急事態宣言」を発出し、個人には仕事、医療機関への通院、食料の買い出し以外の外出の自粛を、大学、商業施設、展示施設、遊戯施設などの業種には休業ないし営業時間の短縮などを要請した。
政府の新型コロナウイルス感染症に対する緊急対策として、マスクの確保と国民への配布、ウイルス検査の健康保険適用、オンライン診療の条件緩和、治療薬の開発に加え、学校の休校に伴い仕事を休んだ保護者に賃金を支払った事業所やフリーランスの個人事業主への給付金、事業所の休業手当を助成する雇用調整助成金の拡充などの施策が矢継ぎ早に定められた。
そして経済の急激な悪化に伴い中小企業や個人事業主に対する無利子融資制度などの資金繰り対策や、雇用状況の悪化を受け収入が減った世帯に対する給付金の支給などが検討されているが課題が多い。
既に現実問題として多くの労働者が雇用悪化の影響をまともに受けており、全国一般東京東部労働組合・ジャパンユニオンやひょうごユニオンなどの労働組合や労働弁護団などが「新型コロナ電話相談」を実施し、休業命令や派遣切り、内定取り消しや解雇等の深刻な相談が多く寄せられ、多くの生活困窮者が生まれている。

新型コロナウイルスに関する労災補償Q&A

厚生労働省は、「新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)」を作成。休業手当や年次有給休暇や傷病手当金について、テレワークや時差出勤などによる感染防止、と共に「労災補償」について、以下のQ&Aを公表している。(注1)

Q 労働者が新型コロナウイルス感染症を発症した場合、労災保険給付の対象となりますか?
A 業務又は通勤に起因して発症したものであると認められる場合には、労災保険給付の対象となります

更に2020年2月3日付で厚生労働省労働基準局補償課長名で「新型コロナウイルス感染症に係る労災補償業務の留意点について」という行政通達が各都道府県の労働局宛に発出された(基補発0203第1号)。
まず、「1、相談又は問い合わせ対応について」があり、一般的に細菌やウイルス等に感染した場合と同様に、新型コロナウイルス感染についても、特定の業種や業務について業務起因性が無いとの予断を持たずに、感染経路や業務や通勤との因果関係が認められれば労災給付の対象となる事を相談者に対して懇切・丁寧に説明することが記されている。
そして、「2、労災保険給付の請求について」と続き、新型コロナウイルス感染症による労災相談や労災請求があった場合、労働基準監督署や労働局内で留めるのではなく本省の補償課業務係に報告すること、そして業務上外の決定を行う前に本省の補償課職業病認定対策室による協議を必要とする旨が記されている。療養給付(保険治療)に際しては、補償課医事係の事前協議を求めている。

業務上外の具体的事例

また、別紙に「新型コロナウイルス感染症に係る労災補償の取扱いについてQ&A」をつけ、3つの事例について、業務上外となるケースを具体的に例示した。
まず、「海外出張中において、新型コロナウイルス感染症を発症した場合、労災保険給付の対象となるか」という問いに対し、出張行程全般は業務遂行性があり、感染経路や業務との関連を踏まえ、商談等の業務で感染者と接触し、私的行為で感染源や感染機会がなく、帰国後に発症した場合は業務上としている。一方で、私的な目的で感染が流行している地域に滞在した場合や、私的行為中に感染者と接触したことが明らかで帰国後に発症した場合は業務外としている。
続いて、「国内において、新型コロナウイルス感染症を発症した場合」については、業務又は通勤における感染機会や感染経路が明確に特定され、発症までの潜伏期間や症状に医学的な矛盾がなく、業務以外の感染源や感染機会が認められない場合、例えば接客などの対人業務において感染者と濃厚接触した場合など業務上としている。一方で、私的行為中に感染者と接触したことが明らかで、業務では感染者との接触や感染機会が認められない場合は業務外としている。
さらに、「出向などにより海外法人に雇用されている日本人労働者が、現地で新型コロナウイルス感染症を発症した場合」については、海外派遣に係る労災保険特別加入していれば、国内の労働者と同様の考え方に基づいて業務上とするとした。

テレワーク時の労災補償

新型コロナウイルス感染症の防止対策として企業に「テレワーク」が推奨されている。「テレワーク」とは勤務場所を離れて、自宅や移動中の車内、喫茶店内、サテライトオフィス等で仕事をする働き方で、ITの普及により近年増加している。
このテレワーク時に労災事故が起きた場合、労災補償の対象となるのか、厚生労働省による「テレワーク導入のための労務管理等Q&A集」に具体的事例が解説されている。それによると、どんな形態のテレワークにおいてもテレワーカーが労働者である以上、通常の労働者と同様に業務災害または通勤災害に関する保険給付を受けることができるとした。例えば「自宅で所定労働時間にパソコン業務を行っていたが、トイレに行くため作業場所を離席した後、作業場所に戻り椅子に座ろうとして転倒した事案」は労災と認められるとしている。
さて、新型コロナウイルス感染症に感染するリスクがある業種として医療従事者が筆頭に挙げられる。世界保健機関(WHO)は医療労働者の権利、役割および責任についての文書を出した(注2)。それによると、医療従事者への感染予防措置に加え、新型コロナウイルス感染症の対応による長時間労働など過重労働や心理的ストレス、身体的・心理的暴力に対しても措置が必要だとされている。
もちろんあらゆる業種において業務や通勤途上での感染はあり得るので、業務や通勤における感染が疑われる場合は相談を寄せて欲しい。【鈴木江郎】