アスベスト肺がん労災不支給裁判の現状
故Tさんの肺がん労災不支給裁判の現状
弁護士 古川武志
旧国鉄・JRで働き10年以上石綿粉じんを浴びた故Tさんが肺がんで亡くなったのは12年12月でした。それから私が代理人となり労災請求をしましたが、労基署は12年の石綿肺がん認定基準に従い、石綿小体が1g当り5000本に満たないとして不支給としました。
12年の認定基準以前には、10年の石綿曝露と、数に関わらず石綿小体が認められれば石綿肺がんと認めていたのですが、国は曝露期間10年の基準を撤廃し、石綿小体1g当り5000本の要件を代わりに定め、基準を改悪して石綿肺がんの認定数を減らす策にでたのです。しかし石綿小体1g当り5000本の基準は本来アモサイトやクロシドライトなど角閃石系石綿の基準で、Tさんが吸ったクリソタイルにはあてはまりません。クリソタイルは角閃石系石綿と違って石綿小体を作りにくく、検出される石綿小体の数が少ないのです。クリソタイルは全ての石綿量の9割を占め、クリソタイルに曝露した人の方が圧倒的に多いのですが、角閃石系石綿の石綿小体数の基準をクリソタイルに曝露した人にも無理矢理当てはめ、この圧倒的に多い被災者を救済の範囲外としたのです。
そこで、労災の不支給処分の取消を求める裁判を16年2月24日に提訴。17年4月25日までに6回の裁判が行われています。
厚生労働省は12年基準以前も認定基準を実質的に改悪して1g当り5000本以下の労災を認めない方針を打ち出して裁判になり、すでに「5000本基準をクリソタイルに曝露した人に当てはめるのはおかしい」という国側敗訴の判決が数件でています。それらの裁判で国側は、①クリソタイルが肺がんを発症させる力は角閃石系石綿の10分の1と低い、②クリソタイルは角閃石系石綿より何倍かのスピードで肺から消えていく、だから5000本基準はクリソタイルにも使える、と主張したのですが、裁判所はこの理屈を全面的に否定して国側を敗訴させたのです。
Tさんの裁判では、先行する裁判での国側の学者証人の証人尋問調書や論文などの証拠を出して国の認定基準がおかしいことを主張しましたが、国側はまともな反論ができない状況です。国側はこれまで6回の裁判で、以前の裁判で証人に出た学者などの意見書を何本も出してきましたが、その学者の証人申請をするのかと問うと「その予定はない」とのこと。意見書は出せても法廷には出てこられない体たらくです。また、意見書の内容も以前の国側が敗訴した裁判の焼き直しに過ぎず新味は全くありません。
次回6月27日の裁判では当方が国側の主張に反論します。その後もう1度国側に反論させて結審する可能性が強いです。とすると、以前の同種の裁判では提訴から一審判決まで3年弱程度かかったのですが、それよりも短く17年年末か18年年初頃に一審判決が出る可能性が出て来ました。何としても早期に勝訴判決をとるべく努力します。今後とも御支援をよろしくお願いします。