石綿健康被害救済法改正に向けた取り組み:澤田慎一郎(中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会 事務局)
目次
リーフレットを作成
中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会(以下、患者と家族の会)では現在、石綿健康被害救済法(以下、救済法)の改正に向けて国会議員などへの陳情を進めています。
本来であれば、昨年のうちに救済法の制度見直し議論がされる中央環境審議会環境保健部会石綿健康被害救済小委員会(以下、小委員会)が開催される予定でしたが、新型コロナウイルス感染症などの影響で開かれず、議論が開始されていません。
昨年、私たちは小委員会の開催に向けて以下の3つの基本的な要求事項をまとめてリーフレットを作成しました。その3つとは、①「格差」のない療養手当と「すき間」をなくす認定基準の見直し、②治療研究促進のための石綿健康被害救済基金の活用、③待ったなしの時効救済制度の延長です。簡単にそれぞれの項目について説明します。
「格差」のない療養手当と「すき間」をなくす認定基準の見直し
療養手当(現状は月約10万円)の倍増、遺族年金などの新しい給付の創設を求めています。患者さんの中には家計を支えている真っ只中に発病される方もおられ、そのような方が現状の療養手当の金額では生活を維持することが難しい状況があります。また、患者さんが他界されたあとに実質的に遺族の生活を支える給付が救済法にはなく、労災保険制度にある遺族年金や一時金の創設が必要です。認定基準に関して、現行の肺がんの認定基準では救われるべき方が救われない状況があります。労災では認定の判断において、石綿のばく露歴の基準が採用されているのですが、救済法では医学的所見のみ採用した基準となっています。アスベストに関係ある肺がんか否かを現在の医学において医学資料のみで判断することには限界があり、レントゲンやCT画像などに所見が十分に出てこない被害者を切り捨てることにつながっています。救済法では不認定になったものの、労災では認められたという肺がん患者さんが少なからずいます。労災認定の可能性がある被害者はまだ良いかもしれませんが、アスベスト被害を多数出している建設業において、自営業者などは原則として労災の適用はありませんので問題は深刻です。
治療研究促進のための石綿健康被害救済基金の活用
石綿による健康被害を受けた方に支給する医療費や療養手当てなどの救済給付費用に充てるために石綿健康被害救済基金に財源が積み立てられていますが、この基金を治療研究の支援に使えるよう法改正を求めています。現在、残高が800億円となっていますが、5年ほど収支がほぼ変わらず、残高が横ばいとなっています。「寝かせたまま」(某与党議員)となっているお金を、「命の救済」に結びつける治療研究の支援にふり向けてほしいと考えています。詳細は省きますが、現場の医療者は、「できること、やりたいことはたくさんある」という状況で、「あとはお金だけ」の問題です。
待ったなしの時効救済制度の延長
労災保険制度は被災者の死亡から5年が過ぎると遺族給付の請求権がすべて時効になってしまう問題をカバーするために救済法では時効となった方を救済する枠組みがあるのですが、その請求権自体が22年3月27日で消滅してしまう問題です。本稿執筆時、すでに消滅してしまっています。また、労災時効救済の対象とならない救済法施行前死亡者の救済ですが、こちらも22年3月27日で、全ての救済法施行前死亡者の請求権が消滅してしまっています。
国会議員への陳情
患者と家族の会では、昨年後半から上記の要求に対して国会議員等へ陳情を進め、内容について「賛同署名」を各議員へ依頼して応援を求めています。2月には患者さんやご家族からメッセージや写真などをいただいて「確かな声でいまを変えたい 患者と家族、わたしたち121の声」の冊子を作成しました。字面上の課題に対して、当事者がおかれている実情をリアリティーを持って伝える資料としての活用を目的として作成しました。
22年3月31日現在、147名の与野党の衆参国会議員から賛同を頂いております。取り組みを進める中で各地の会員の方々からもご支援をいただき、政務三役クラスの議員とも個別に面談させて頂くこともできています。そのような中で、与党から法改正に向けた動き(③の「時効救済」の延長は過去2回、議員立法による法改正がされています)も出てきました。
ホットラインを実施
3月17日には時効になる恐れのある方を一人でも多く救済するために、神奈川で申請予定のご遺族の協力を得て厚生労働省で問題提起と緊急ホットラインの実施の案内について会見しました。3月18日から20日にかけて実施したホットラインでは700件以上の相談が寄せられ、各地で請求の支援を進めました。
今後も国会議員にとどまらず医療関係者や行政関係者にも働きかけ、すべての要求時効の実現に向けて取り組みを進めていきます。患者と家族の会のホームページに特設ページを設けていますのでそちらもご覧ください。