完全勝訴!役員付運転手Dさん過労死裁判【横浜地裁】


被告セーフティに約3800万円の支払い命じる 会社は控訴

 15年10月に心筋梗塞で亡くなった役員付運転手Dさんの過労死損害賠償裁判で、横浜地方裁判所は4月27日、被告会社セーフティーに対し、ご遺族らに約3800万円の支払いを命じる判決を言い渡した。Dさんの過重労働と発症との因果関係や会社の安全配慮義務を認めると共に、Dさんに一切の過失はないとする完全勝利判決である(残念ながら会社は東京高等裁判所に控訴した)。裁判所の判断の概要を解説する。【川本】

【争点】特に過重である

 Dさんは勤務時間を控えめに記載して日報を作成していたが、それでも発症前3ヶ月間の時間外労働時間数の平均は月150時間を超え、発症前6ヶ月間の平均も月147時間を超えていた。給与管理表によると、発症前6ヶ月間に休日出勤が多く、土曜と日曜を連続して休めるのは月1度程度。平日は終業が午後10時を過ぎて翌日も勤務する日が相当数あり、長期間にわたり十分な睡眠時間を確保できず、疲労が回復しない状況だった。

 会社は自宅近くの車庫から取引先会社役員宅までの往復は通勤時間だと主張するが、Dさんの業務は車両の管理全般なのだから採用できない。また、待機中の時間を休憩時間だと主張するが、待機中も役員の要望に応えて運転業務等を行う可能性がある中で待機しているので労働から解放されていたとは言えない。日報の記録からも、事前のスケジュール通りではないことは明らかである。

 発症前6ヶ月間の業務は著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務であったと認められる。

【争点】因果関係がある

 厚生労働省の脳・心臓疾患の労災認定基準やそれを検討した専門検討会の報告書を踏まえて検討する。Dさんは業務との関連性が強いとされる時間外労働時間を優に上回る時間外労働があり、相当な労働密度があったといえ、業務が発症の原因となったと推認できる。たしかにDさんは基礎疾患を有し、高血圧、喫煙歴、高脂血症、糖尿病等の心筋梗塞のリスク要因を抱えていた。しかし、通院治療を継続し、主治医は、病状は安定していたと判断しており、業務の過重負荷がなければ直ちに心筋梗塞を発症する状況にあったとは考えられない。

会社は、業務と心筋梗塞との間に因果関係がなく、基礎疾患等による発症可能性が高いとするが採用できない。その主張に沿う医師の意見書は、業務の過重性について考慮したことがうかがわれない。

【争点】会社の安全配慮義務違反

 Dさんは、著しい疲労の蓄積をもたらす過重な業務についていた。会社は、心身の健康を損なうことがないよう業務を適切に管理し、負担を軽減する措置を採るべき義務を負っていた。日報や毎月の給与管理表等を確認すれば、Dさんは疲労が蓄積して健康を損なう恐れがある状況にあったことは容易に知り得た。会社の証人らも、Dさんから申告がなかったという説明に終始しており、本人から特段の要望がなければ負担軽減措置などは必要性ないと考えていたものと言わざるを得ない。

【争点】過失相殺(素因減額)

 Dさんは心筋梗塞のリスク要因があるが、健康管理に留意していた。通院治療していることも会社に報告しており、落ち度と言うべき事情は認められず、過失相殺すべきとはいえない。
 
 残念ながら、会社は控訴した。Dさんが亡くなってからまもなく7年が経つ。会社側は判決を尊重して早期解決を図るとともに、裁判所が指摘した通り、適切な労務管理に努めるべきである。

お連れ合いのコメント

 夫が亡くなった当初は、突然のことで私は呆然とし、しばらくショック状態で何も手に付かず、その後の葬儀、労災申請の手続き、会社との交渉全て娘夫婦に助けてもらいました。愛する家族を突然失う悲しみは言葉では言い表せません。

 セーフティとの交渉の中で、夫の死は会社の責任だと確信を持ちました。私達はただ真面目に働いてきた夫を過労死させてしまった責任をとり、今後このようなことが起きないよう対策を取ってほしいとの気持ちでいましたが、セーフティのあまりにも不誠実な態度に、許せないという気持ち、怒りの感情を覚え、判決が出るまでは納得できないという気持ちに変わりました。

 この度の判決を受けて、私たちの主張がすべて認められ、今まで信じてやってきたことが正しかったと改めて感じました。この判決に導いて下さったのも小宮弁護士や裁判所に来て頂き支援して下さった方々のおかげです。本当にありがとうございました。何も分からない私達に寄り添い、助言や支援をいただき本当に心強い限りです。何か悩み事があれば、一人で悩まず、詳しい方に相談することも大切だと思います。

長女のコメント

 22年4月、父が亡くなってからもうすぐ7年というところで、ようやく地裁での判決が下されました。遺族にとってはとても長く苦しい闘いでしたが、小宮弁護士をはじめ支援して下さった沢山の方々が居たからこそここまでこられたと、やはりその方たちに何よりお礼を申し上げたいと思います。

 遺族としては、提訴に対し、はじめは消極的だった部分もありました。和解をしようと歩み寄りましたが、会社側は一貫して責任を認めず、労基署からの是正勧告にも真摯に対応していないということが明らかになり、裁判所の判断を仰ぐことが必要だと感じ、気持ちが次第に変化してゆきました。そこからは父の死を無駄にしてはいけないという思いで、分からない事だらけでしたが、サポートを受けながら真剣に向き合い一つ一つ進めてゆきました。その努力が今回、完全勝訴という結果に繋がったのであれば本当にやってよかったと、最後まで諦めないことの大切さと真実の重みを感じた判決となりました。

 会社側は控訴しており、高裁の判決もしくはその先までまだ終結した状態とは言えません。ですが今回、地裁でこの様な判決をもらえたことは大きな成果であり、遺族としてもやっと一区切りがついたと心をなでおろしました。これを次につなげて皆さまのサポートの下、今後とも気を引き締めて頑張っていきたいと思っております。