福島原発被ばく労災損害賠償裁判(あらかぶさん裁判)「どこでも行きますよ」交流学習会も好評

 10月28日、福島第一原発事故の収束作業の被ばく労働が原因で白血病になったあらかぶさん(ニックネーム)が、東京電力などに対して損害賠償を求めている裁判の第22回口頭弁論が東京地裁で開かれた。翌29日には、よこはまシティユニオンが、あらかぶさんと、除染作業や福島第一原発で働いた池田実さん(被ばく労働を考えるネットワーク)をゲストに招き、交流学習会を開催した。【川本】

因果関係を認めようとしない東京電力

 北九州市で生まれ育ったあらかぶさんが福島第一原発で働いたのは2012年10月で、白血病になったのは14年1月。労災認定が15年10月で、裁判提訴は16年11月である。それからすでに6年が経過している。労災の損害賠償裁判は時間がかかるとはいえ、電力会社の原発被ばく労災の場合は、「原子力損害の賠償に関する法律」で、安全配慮義務違反とか不法行為といった責任の有無や所在とは関係なく、因果関係さえ認められれば、全て電力会社が賠償することになっている。労災認定されているから因果関係ははっきりしている。どうしてこんなに時間がかかっているのか。

 最も大きな理由は、労災認定されているにもかかわらず、東京電力が因果関係を認めないからである。例えば、過労死の裁判でも、労働時間認定をめぐって会社と被災者の主張が大きく食い違うことから事実認定に時間がかかることもある。しかし、被ばく労働の場合、どのくらい放射線を浴びたのかは計測されている。そしてあらかぶさんは、白血病の労災認定基準である年間5㍉シーベルトを上回る被ばくをしていることに争いはないのだ。

専門家の意見書の応酬

 あらかぶさんの白血病に限らず、あらゆる職業病がさまざまな原因で生じ得るのであり(例えば肺がん、脳・心臓疾患、精神障害など)、それを医学的な検査で調べることは不可能である。だからこそ、厚生労働省が労災認定基準を作成しているのであり、あらかぶさんに限らず、被ばく労災の場合は本省で必ず専門家による検討会を開催して、決定するようになっている。ところが東電は、あくまでもあらかぶさんの被ばく線量では、白血病になったことは証明できないと言い張っている。

 裁判は相手の主張に反論するしかない。厚労省が認めているから、だけでは不十分で、具体的にあらかぶさんの被ばく線量で白血病を発症すること、あらかぶさんの被ばく量は記録に残されていたものよりも多いことを、主張することになった。東電側が専門家の意見書を提出してきたので、あらかぶさん側も、疫学や物理学の専門家の方々にお願いして意見書をまとめてもらい提出してきた。

労組との交流学習会

 よこはまシティユニオンのあらかぶさんとの交流学習会は2回目である。前回は、あらかぶさんがどんな作業を行ったのかを中心にお話ししてもらった。今回は、白血病になってからのことを中心にお話してもらった。死を覚悟したこと、労災認定に時間がかかったこと、裁判後の東電の嘘に怒りが強まったことなど。

 最も興味深かったのは、提訴前のあらかぶさんに対する、東電の下請けである塩浜工業の発言。「左と右ってわかりますか。左が労働組合とか、今あなたが付き合っている人たち。右が東電とか国。右にいればこれからの生活をずっと面倒見ますよ」というようなことを言われたそうだ。あまりにもわかりやすい不当労働行為的発言である。

 池田さんは今秋、あらかぶさんと一緒に大阪、京都、福岡で被ばく労働や裁判の話をしてきた。大分県内の市立中学校では2年生の生徒に話す機会を得た。東日本大震災や原発事故は10年以上前の話であり、中学生が覚えているはずがない。ましてや、今も事故収束作業による被ばく労働が続いていること、裁判を闘っている人がいることなど、全く知らない。池田さんは、真剣に話を聞いてくれた生徒全員の感想文を手に、きちんと継承していくことの大切さを痛感したと語る。

裁判の今後と支援活動

 裁判は、11月に進行協議が開かれ、今後の口頭弁論日程等が決まる予定。来年は証人調べ、結審、来年度中には判決も予想される。

 あらかぶさんを支援する会では、各地での交流学習会を計画している。「呼んでもらえればどこでも行って話をしますよ。自分だけの問題じゃないですから」とあらかぶさんは語る。それが、裁判勝利に向けた大きな力となることは間違いない。