三菱電機が、労働時間管理を改善-メンタル労災患者のリハビリ就労を認める

三菱電機が、労働時間管理を改善-メンタル労災患者のリハビリ就労を認める

よこはまシティユニオンは、3月17日の神奈川春闘共同行動において、JR大船駅頭で朝からビラまきを行った。Aさんも堂々とアピールをしたが、その際配布したビラを紹介する。
ちなみに、政府が発表した働き方改革実行計画で、時間外労働の上限規制が実現する見通しとなったが、Aさんのような研究開発業務については、なんと「除外」。三菱電機のかたくなな姿勢は、そもそも研究開発業務に労働時間規制はなじまないというポリシーがあるのだろう。規制がないとすればなおさらきちんとした労働時間の把握と健康管理が重要になる。言うまでもなく、研究者も労働者だ!【川本】

■長時間労働による精神疾患で労災認定、解雇撤回

三菱電機情報技術総合研究所で働いていたAさんは、14年4月頃、上司のパワーハラスメントや長時間労働が原因で、精神疾患を発症し、同年7月から休業を余儀なくされました。同研究所では職場の入退室のIDカード記録があるのですが、Aさんの職場では、月の残業時間が40時間前後となるように自己申告するように強いられていたのです(このことについて、労働基準監督署が違法残業として書類送検したことが報道されました)。

会社は、16年6月までに復帰しなければ休職期間満了だということで、解雇を予告してきました。Aさんは治療に努めてきたのですが、まだ職場に戻れる状態ではありません。当時所属していた労働組合に相談しましたが、「規則だから仕方がない」という対応だったため、一人でも入れるよこはまシティユニオンに加入しました。労災請求中でもあり、実は規則でも休職期間を延長することがあるという条項があるにもかかわらず、会社は解雇を強行しました。

16年11月、労働基準監督署がAさんのメンタル労災を認定しました。ユニオンの要求に応じて、会社が同年12月に解雇を撤回。さらにユニオンは、二度とAさんのような労災を起こさないために、Aさんへの補償、職場復帰に加えて職場改善の要求をかかげて団体交渉を続けています。いくつかの成果を紹介しましょう。

当初会社は、Aさんのメンタル労災について、「遺憾に思います」=「残念に思います」、という無責任な回答でした。しかし、「申し訳なく思います」という、一定責任を認めた回答になりました。損害賠償についても、当初は無回答でしたが、今は、「具体的な内容をご提示ください」とし、内容によっては検討するというところまで前進しました。
■未払い残業代と合わせて、具体的にユニオンは要求していきます。

実は研究所では14年4月から、IDカードを活用した労働時間の「客観把握システム」を導入しました。しかし、実際の入退室記録と、自己申告する始終業時間や実労働時間の差異については事実上容認状態でした。16年5月、ユニオンが労働時間管理の徹底を要求しました。その後から、ようやくそれらの差異のチェックを上長に周知徹底したとのことです。さらに17年2月からはアラーム表示(入力時に数字の色が変わる)される差異時間数を短くして、入退室記録と始終業時間の差が30分超、始終業時間と実労働時間の差が1時間超にしたとのことです。ちなみに職場の上長への労働時間管理の徹底は、大体年に1回程度とのことで、このやり方だけでは、Aさんの職場で横行していた労働時間の過少申告は防げません。ユニオンは、上長への確認も大切ですが、やはり本人への確認こそが重要だと主張しています。

Aさんは元の職場に戻れる状態ではありませんが、少しずつよくなっています。出身大学のご厚意で、研究室でのアルバイトを希望しています。会社にリハビリ就労の一環としてのアルバイトを認めることを要求し、実現しました。精神疾患で休業に至り、退職に至るケースは少なくありません。休んだら戻れないという焦りから症状を悪化させ、自殺したような大変残念な事例もあります。休んだり、戻ったりを繰り返すことも多いです。
Aさんのように労災認定を勝ち取り、自ら希望する形でのリハビリ就労は、一日も早い職場復帰、社会復帰の理想形です。

■まだ交渉は続きます

会社の回答は十分ではありません。とりわけ三菱電機の秘密主義は異常です。例えば、どのぐらいの人が精神疾患で休んでいるのか、さらには精神疾患や脳心臓疾患で労災認定された数すら、「対象者を想定されかねない」として、明らかにしようとしていません。ホームページによりますと、三菱電機の連結従業員数は16年3月末現在で、13万5160人です。数字を出して、どうやって想定できるというのでしょう。事実をきちんと共有して改善策を話し合うのが労使交渉ですが、驚いたことに労使交渉はもとより、安全衛生委員会でも、そうした疾病別の数字を出していないというのです。
サービス残業についての調査も、Aさん以外に「未払いがあるとの認識がない」という理由から行おうとしていません。未払いがあるかないかを調査すべきだと言っているのに、開き直り以外のなにものでもありません。労働基準監督署の是正勧告を受けて、未払い賃金の調査や支払いに加えて、業務のあり方まで見直しを進めるヤマト運輸とは大違いです。書類送検されたことを「真摯に受け止めている」(本社のコメント)とは、到底言い難いのではないでしょうか。
そもそも労働時間の自己申告というあり方自体がユニオンは問題だと考えます。労働時間も「自己啓発時間」ということにしてしまっているのが実態だと思います。それが問題になることを恐れているのか、書類送検までされているのに、労働時間の実態調査の要求を会社は拒んでいます。

労災にせよ、労働時間管理にせよ、職場の生の声を、会社にぶつけることでしか、何も変わりません。すでに何人かの労働者から、あるいは残念なことにご遺族から、ユニオンに相談、情報が寄せられています。ぜひ多くの皆さんが、あきらめずにユニオンに情報提供、相談されることを期待します。