センターを支える人々:高橋祥夫さん(ユニオンヨコスカ執行委員長)

労職センターとの関わり

 1972年に高校を卒業した私は、神奈川県内の自動車組立工場に就職しました。当時はモータリゼーション、高度成長の真最中で工場は昼夜2交替で6000人もの労働者が働いていました。入社後3ヶ月が経ち、私は会社の労働組合に加入させられました。ところが自動車の労働組合は御用組合で、職場の労働者の要求を潰し、職場を会社に代わって支配する役割を果たしていました。職場でそんな労働組合はおかしいじゃないかと活動を始めましたが、組合から弾圧されてしまいました。そんな状況の中、県内で御用組合や会社と闘う造船労働者の人たちと知り合いになりました。その方たちが中心となり、神奈川労災職業病センターが作られ、私もいつの間にか会員となった次第です。

トヨタ生産方式と世界の自動車労働者

 日本の自動車産業は高成長し、1980年代から海外へ工場を進出し、現地生産を増やし、世界を席巻して行きます。トヨタ生産方式と言われるムダを排除し、在庫を持たない日本生まれの生産方式が世界中に広がり、世界の自動車労働者と労働組合に大きな影響を与えるようになりました。 1991年にスペインのバルセロナで「トヨタ生産方式と世界の自動車労働者」という国際自動車労働者会議が開催され、私は日本代表として参加し、日本の自動車生産の現場を、「トヨタ生産方式は日本だから、日本の文化・社会だから成功したというのは誤りで、労働組合運動がつぶされ、資本が思うがままにふるまえたから成功した」と報告しました。現在も日本の自動車会社は進出した海外の工場で労働組合を嫌い、労働組合の結成を妨害しています。

フィリピントヨタ労組の闘い

 2000年にトヨタ自動車のフィリピンの子会社、フィリピントヨタ社でフィリピン従業員たちがフィリピントヨタ自動車労組を結成し、組合承認選挙が行われました。フィリピン労働法では投票で多数を得ないと会社との労働協約、団体交渉権を持つ労組とは認められません。投票は組合が多数票を獲得し、勝ったのですが、会社が職制の票が入っていないと難くせを付けました。翌01年2月に公聴会が開かれ、組合員たちは有給休暇を申請し、公聴会に多数の組合員が参加しました。3月16日にフィリピン労働雇用省の裁定で労組が認められ、勝利しました。ところがその日に会社は公聴会に参加した組合員たちを無断欠勤したと称して不当解雇し、ただちに組合はストライキに入り対抗しました。当時のアロヨ大統領がストライキに介入し(当時フィリピンに進出していた日系企業12社がこのストを中止しないとフィリピンから撤退すると脅した)、組合はストを止め、職場復帰することにしましたが、会社は解雇を取り消しません。こうして233名(のちに237名)の組合員が不当解雇されました。私たちはこの大量解雇を日本のトヨタ社の問題として捉え、支援組織を結成し、フィリピントヨタ労組の闘いを支援し続けています。闘いは、もう24年目に突入しました。ILOにも訴え、ILOからもフィリピントヨタ社の大量解雇は、「あまりにも酷い労働者に対する権利侵害であるから、解雇を取消し職場復帰させるか、それともどうしてもそれができないなら適正な補償金を支払って解決するよう、フィリピントヨタ労組と交渉して解決すること」との勧告が6回にもわたり出されていますが、トヨタ社は無視し続けています。このフィリピントヨタ労組の闘いは海外では非常に有名なのですが、日本ではマスコミがトヨタ社からの広告収入が入らなくなることを恐れ、まったく報道しないのであまり世間に知られていません。

ユニオンヨコスカへ

 私は自動車会社を定年退職し、現在は横須賀にある個人加盟の労働組合ユニオンヨコスカで活動をしています。ユニオンヨコスカも労職センターの会員です。ユニオンヨコスカは誰でも一人でも入れるユニオンです。⼩さなユニオンではありますが、三浦半島の地域で、地域にしっかりと根を張り、弱い⽴場の⼈たちが排除されず、⼈間として毎⽇が希望をもって⽣活できる社会をめざし、活動をしています。昨年は生活保護の申請を巡り、横須賀市との交渉も行いました。また、年に3回、京浜急行線の横須賀中央駅頭でビラまき情宣活動も行っています。
 この1年間でベトナム人女性の労働相談が3件ありました。
 日本にいる外国人は昨年12月末で過去最高の376万人もいます。そのうちベトナム人は63万人います。外国人が日本にいるための在留資格別では、「技能実習」が45万7千人、「留学」が40万2千人、専門の技能があると認められた人に与えられる「特定技能」は28万4千人です。いずれも前年より5万人から7万人も増えています。 相談に見えられた一人は「特定技能」の資格で、一人は企業への就職を目的とした「技術・人文知識・国際業務」という在留資格でした。この「技・人・国」の資格の方たちは約40万人もいます。出入国在留管理庁のウエブサイトを見ると、「技・人・国」資格の人は、「機械工学等の技術者、通訳、デザイナー、私企業の語学教師、マーケティング業務従事者等」の仕事を行うことになっています。しかし、相談者はお好み焼き屋で接客の仕事をやらされ、日本語がそれほど達者でないため、社長兼店長のハラスメントで仕事に行けなくなってしまったのです。ユニオンは社長と団体交渉を行い、金銭解決で決着しました。お好み焼き屋からの離職票に、彼女の業務は「生産管理」とありました。出入国管理庁はまったくチェックもしないままで、そういったデタラメがまかり通っているのが現実です。
 横須賀では毎年10月に三笠公園で、基地の街横須賀から平和を呼びかけるイベント「ピース・フェスティバル」が行われ、ユニオンヨコスカも参加し、出店します。昨年行われたピーフェスでは、ベトナム人組合員からの提案で、ベトナム料理を出しました。料理は大変好評で、用意した食材がすべて売り切れました。ユニオンヨコスカはNPO横須賀国際交流協会とも連携し、外国人問題に取り組んでいます。