第2電離則(除染則)施行

今年1月1日より「第2電離則」と言われる除染則=東日本大震災により生じた放射性物質により汚染された土壌等を除染するための業務等に係る電離放射線障害防止規則(仮称)が施行された。この規則の作成過程と問題点について記す。【西田】

●拙速な作成
除染則は、福島第1原発事故で放出された放射性物質の除染作業従事者が対象で、原発で働く労働者や放射線業務従事者対象の「電離則」=電離放射線障害防止規則(昭和47年労働省令第41号)とは別に作られたものだ。除染則の対象作業区域は、先行して制定された「放射性物質環境汚染対処特措法」により、除染特別地域、汚染状況重点調査による除染実施区域とされている。
この除染則の制定まで、専門家会議が4回程開催され(10月21日~11月21日)、11月28日に報告書が出された。そして12月5日からわずか8日間のパブリックコメント期間を経て、12月12日に労働政策審議会で規則案要綱が審議され、厚労省大臣に答申された。このような短期間では専門家会議のおいても十分に議論されたとは言い難い。パブコメ期間もアッという間で、関心のある人でもほとんど意見を言えなかったであろう。センターも、第2回専門家検討会から傍聴に努めたが、傍聴者のほとんどが業者側と見受けられる人で、組合など労働側がいないのがかなり気になった。
●一人歩きする除染作業
この拙速な作成経過からも、国が、いかに福島第1原発の冷温停止と周辺の避難区域解除を急いでいるのかがわかる。そのためには避難区域の除染をハイピッチで行わなければならない。現在、同原発周辺の高線量地域は特措法の除染特別地域に指定され、国が膨大な予算を投じて大手ゼネコンを大々的に参入させ、原子力研究開発機構の委託モデル事業として除染事業を展開している。
特措法で汚染状況重点調査による除染実施区域に指定された比較的低線量の地域については、市町村が、環境省の除染関係ガイドライン(平成23年12月)に従って除染作業を行っている。
福島から避難している人々は、除染が進まなければ元の居住地に戻れない。しかし、除染により放射能が完全に除去にされるかと言うと、チェルノブイリ原発事故の経験からも必ずしもその保証はない。セシュム137の半減期30年のように、放射性物質は何十年もエネルギー源(線源)として環境に拡散し、自然の循環サイクルに取り込まれ移動している。除染により一時的にその場所の放射線量が低減しても、放射性物質そのものは無くならないのだ。除染は、長期的な放射能の低減化計画の中で、生活環境に限定して考えねばならない。その意味で、自然生態系を破壊しかねない広範囲な森林除染など、国策としての大規模な除染作業には危惧を覚える。

●難しい線量管理
除染則は空間線量を3レベルに分け、それぞれの管理方法を規定している。①平均空間線量率が2・5μシーベルト以上には個人線量計による測定や内部被曝測定の義務付け、②平均空間線量率が0・23μシーベルト以上2・5μシーベルト以下は代表者測定で個人線量計は使わなくてもよい、③平均空間線量率が2・5μシーベルト以下、かつ年間数十回(日)の除染作業は線量管理不要(社内の除染、自営業者、住民、ボランティア)。
しかし、屋外の除染作業で、このように明確に区分して実施できるだろうか。除染場所の空間線量率は事前に測定するが、1回でホット・スポットとなるような所をすべて調査できるわけないし、作業中に想定外のホット・エリアに踏み込み被ばくすることもあるだろう。つまり、除染作業自体、偶発的出来事が起きやすい作業現場なのだ。専門家検討会でも「除染対象区域を、電離則で規定する管理区域の概念を使うことは困難」という考え方を示している。にもかかわらず、除染則は、「線源が管理できない状況(現存被ばく状況)」に対応した規則にはなっていない。特に、前述のレベル②の規定については、一人作業の多い除染作業では問題がある。津波で線量計を流され代表者の線量管理で間に合わせた福島第1原発事故直後を思い起こせば、それがいかにズサンな線量管理であるかわかるであろう。
また、労働基準監督署への作業届出義務は、レベル①以外課せられていない。レベル②でも作業者の線量管理が業者任せでズサンにならないよう発注者責任の規定を明記すべきだろう。当初、除染則の対象予定だった下水汚泥処理施設なども、放射線管理が必要となる焼却灰のフレコンバッグ詰込作業などは下請化されているので、いずれの規則でも発注者の監督責任が明確にされるべきだ(下水汚泥処理施設等は線源管理できるとして電離則適用となった)。

●低線量被ばく問題
除染則は被ばく線量の限度を「5年間で100ミリシーベルト、かつ1年間で50ミリシーベルトを超えないように」と規定している。これはICRPの1990年勧告に従ったものだが、この勧告の二重基準には「下請け労働者の使い捨て」というカラクリがある【中川保雄著「放射線被爆の歴史」㈱技術と人間発行】。年間被ばく限度50ミリシーベルトを据え置き、5年100ミリシーベルトという集積限度を併設することで、あたかも被ばく限度が下がったかのような印象(5年で100ミリシーベルトの年間平均は20ミリシーベルト)を与えるからである。

実際、福島原発事故の復旧作業中に電離則で規定された緊急時の被ばく線量限度は年間100から250ミリシーベルトに引き上げられ、さらに別枠になった。こういう経産省や電力業界の対応を忘れてはいけない。原発で働く下請け労働者は、短期間に高線量で働かされ使い捨てられる。その労働者使い捨ての思想は除染則にも踏襲されているのだ。
除染則で、作業者の健康診断(雇入れ時、配置換えの際及びその後半年に1回)の項目は以下の通りだ。
1.被ばく歴の有無の調査及びその評価
2.白血球数及び白血球百区分率の検査
3.赤血球数の検査及び血色素量又はヘマクリット値の検査
4.白内障に関する眼の検査
5.皮膚の検査
この5項目全部を実施するのは除染特別地域(平均空間線量率2・5μシーベルト以上)の作業者だけで、線量率がそれ以下の場合、医師が必要と認めなければ2~5は要しないと規定している。内部被ばく検査も、高濃度粉じん発生作業区域しか認めていない。これは電離則同様、内部被ばくを軽視し低線量被ばくを認めない考え方である。電離則は、高線量職場で働く作業者を対象として作られたものだが、今回の福島原発事故では、福島を中心に広範囲に放射性物質が降下し「広域的な低線量被ばく」という難題を私たちに突きつけている。除染則には、この難問と向き合うという視点が欠落しているのだ。
11月16日、センターは、労働者の放射線障害防止のための要望書を専門家検討会事務局に提出したので参考にしてほしい。