中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会 神奈川支部が発足
4月5日に「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」(患者と家族の会)の神奈川支部が発足した。神奈川県内では、横須賀支部が、患者と家族の会の発足当初から活動してきたが、県全域でアスベスト疾患の患者が増えている実態を踏まえて、神奈川支部を設立する運びとなった。神奈川支部の事務局は神奈川労災職業病センターが担い、支部の定例会は港町診療所で行う。【鈴木江郎】
患者と家族の会から18名、一般参加11名、関係諸機関13名の計42名が参加
発足の集いには、患者と家族の会副会長、関東支部、横須賀支部、そしてはるばる尼崎支部から患者と家族の会から18名、一般参加として、神奈川県在住のアスベスト被災者の患者と家族11名、その他、医療機関など関係諸機関から13名の計42名が参加した。また、患者と家族の会の全国各地の支部からも多数、励ましのメッセージを頂いた。
患者と家族の会は、名実ともに患者と家族が中心になって、患者と家族による、患者と家族のための組織運営や対外的な活動を担っている。その意味で、患者と家族から選出される支部世話人は重要な役割となるが、神奈川支部の世話人にはOさん(患者)とMさん(家族)が就かれた。
名取医師による記念講演「埋もれている肺がん患者のアスベスト労災問題」
記念講演として、名取雄司医師(患者と家族の会相談役/アスベストセンター所長)が「埋もれている肺がん患者のアスベスト労災問題」についてお話しされた。
石綿の輸入量の推移とその後10~40年の潜伏期間を経て発症する中皮腫死亡者数の推移を示すグラフを基に、今から石綿被害のピークがくることを説明。一方で、労災補償・石綿救済法の救済率は、中皮腫は7割に留まり(3割は全く補償・救済を受けていない)、肺がんに至っては2割に満たない(8割以上が全く補償・救済を受けていない)点を指摘した。そして、石綿肺がん患者が補償・救済からなぜ埋もれてしまうのかを、次の5つの考察にまとめられた。
? 日本は胸膜プラーク等の医学所見に依存した認定基準になっている。石綿ばく露歴で認定しないため、肺がんは埋もれる。中皮腫は「1年ばく露」のみで認定。肺がんは「医学的所見の証明」が付加的に必要となる。
? 過去に勤めていた会社や同僚に協力を求める「煩わしさ」「非協力」で被災者や家族が諦める方向になる。
? 医師の石綿関連医学所見(胸膜プラーク等)理解の不十分で、肺がんの石綿ばく露原因が見落とされる。
? 胸膜プラークに依存しがちな現行基準だと、CTしか撮影していない人が多く、手術もしくは解剖しないと労災補償されない。
? この数年の報道の少なさ、労災不支給決定の患者や医師の経験により、医師や被災者による労災等の請求の手控えも起きている。
患者と家族の会の役割と今後の活動内容について
名取医師は最後に、患者と家族の会の役割について、患者と家族は自らの経験や実感を基にして医療者との連携を図ること、10年の歴史において石綿救済法の成立を勝ち取ってきた事などの経験を活かして全国規模でのネットワークを更に進めること、神奈川の地では、患者団体・労働組合・医療関係者の連携が進んでいる数少ない地域なので、さらなる連携の強化を呼びかけられた。
そして、神奈川支部の世話人となったMさんが、今後の活動内容として、①患者と家族同士の交流の場を作る(月1回の定例会、労災相談会なども定期的に実施)、②発症の原因を明らかにし、労災補償や石綿救済制度適用の支援を行う(労災補償や石綿救済法の認定支援、企業に対する上乗せ補償等の支援)、③医療関係者や行政機関、関連する企業に声を伝え、状況を改善させていく(厚生労働省、環境省など関係省庁との交渉、医療機関への働きかけ)ことを提案し、確認された。
県内の被害多発の実態と多業種への拡がりを実感
今回の発足の集いと併せて、アスベスト相談会も実施した。相談会には一般参加で4組の方からの相談があった。相談者の職業も建設、自動車、塗料メーカーなど多様であり、あらためてアスベスト被害者が神奈川県内でも多発している実態と被害の多業種への拡がりを実感した。
神奈川支部の今後の活動としては、アスベスト関連疾患の相談が既に10数件寄せられているので、その認定支援の活動、厚生労働省や環境省との交渉(5月29日)、石綿対策全国連絡会議への参加(5月30日)、尼崎市における「クボタショックから10年集会」への参加(6月27~28日)など、目白押しである。
神奈川支部の会員は早10人に達したが、今後も多くの患者や家族と出会い、交流や認定支援を進めながら石綿被害の根絶に向けて全国の支部とともに一緒に頑張っていきます。皆さまのご支援よろしくお願いします。