原子力規制庁、厚生労働省、経済産業省と被ばく労働問題について交渉(15回目)
12月18日、衆議院議員会館で、全国安全センターなどが参加し、福島第一原発における被ばく労働などの労働問題に関する15回目の省庁交渉が行われた。白血病労災認定をめぐる問題について、その後のやりとりも含めて報告する【川本】。
まず、厚生労働省が今回の認定に際して、記者会見で示した資料は2つある。1つは「『電離放射線障害の業務上外に関する検討会』の検討結果及び労災認定について」で、認定基準と、これまでの労災認定状況、今回の被災者の作業内容や期間、被ばく線量などの事実経過を示したものであり、何ら問題ない。もう一つは、「放射線被ばくと白血病の労災認定の考え方」(以下「考え方」という)。個別の認定事例について記者発表すること自体が極めて異例のことであり、社会的注目があるので発表したというのだが、その内容には大いに問題がある。
ちなみに、東京電力がサイトで紹介している一方で、厚労省は、記者発表資料を集めたサイトになぜか発表の事実も含めて掲載していない。
「考え方」ではまず、全てのがんと低線量(100ミリSv以下)の放射線被ばくとの因果関係がはっきりしないことを説明する。
白血病ががんの一種であることは間違いないが、白血病と低線量被ばくとの因果関係が認められていることは、他でもない厚生労働省の委託研究報告書をはじめとする多くの研究で明らかだ。
そして年間5ミリSv以上の被ばくをすれば白血病を発症するという境界ではないという説明は蛇足だ。被ばくによる晩発性障害は、一定の年月が経ってから一定の割合でしか発症しない確率的影響なのだから、当たり前の話である。
放射線による疾病に限らない。例えば月100時間残業をして脳出血で倒れれば労災認定される。だからといって月100時間以上働いた人が全員脳出血になるはずがない。過労死等の認定基準が改正されたときも、誰かが認定されたときにも、厚労省は、このような説明をわざわざしていない。
また、科学的に因果関係が証明されたものではないという説明も、それ自体は誤りではない。法的因果関係と科学的な因果関係は別で、法的因果関係は科学的因果関係の立証を求めるのではなく、高度の蓋然性があればよいという最高裁判決があるからだ。しかしむしろ相当因果関係がある、法的因果関係があるといった表現をせずに、あえて否定的な科学的因果関係が証明されていないなどと、なぜわざわざ今回に限って文書にまでして説明する必要があるのか。
こうした「考え方」の異例の説明を受けた新聞記者は間違って(あるいは故意に)労災認定について否定的な報道をする。一番露骨なのは11月9日の産経新聞。「『被ばくで白血病』はデマ」との見出しを付け、「いちえふ」という漫画家のインタビューを紹介している。読売新聞は11月22日の社説で、「厚労省は1976年から原発作業員13人を労災認定している。今回を含め、『(被ばくと発病の)因果関係が証明されたものではない』と強調している。不安が広がらないよう、正確な情報の周知に努めたい」とした。
こうした報道を踏まえ、改めて記者発表をやり直すことを求めたが、厚労省の出席者は説明した通りの一点張りで、全く議論がかみ合わない。改めて、職業病認定室長の児矢野氏らと折衝の場を設けた。
室長は、「何ら間違っていない」と言い、一認定事例はもとより、認定基準改正の際にも「考え方」のような説明をしたことがないことを認めつつ、今回は「騒ぎになっては困るから」と言う。
しかし、厚労省の説明に納得せず、今回の認定に対して「騒いで」いるのは「無知な」労働者ではなく、上記のようないわゆる原発推進を諦めない勢力である。10月30日の読売新聞では、廃炉作業や除染作業に携わる南相馬市の男性の不安をとりあげた。「国の被ばく限度は年間50ミリ?、5年で100ミリ?なのに、労災認定基準は5ミリ?。国は現場の作業員に分かるように説明して欲しい」とのことだ。11月13日の日本経済新聞の記事でも、「原発作業員不安と困惑」、「2つの基準、分かりにくく」との見出しを付けて現場の声を拾っている。
改めて厚労省には、次のように要求する。
今回の労災認定について、「被ばくで白血病はデマ」(産経)、「因果関係が証明されたものではない」(読売)といった誤報が相次いでいる現状を鑑み、「労災認定基準を踏まえて、専門家による医学的(科学的)検討の結果、相当因果関係があるとして労災保険給付を支給したものである」と説明し直すこと。