じん肺闘病中の自殺は労災 福井地裁判決が確定へ

いつもは記事そのものを要約して若干解説するコーナーなのであるが、今回の記事の取り扱い自体は小さいし、報道しない新聞もあるだが、非常に重要なので解説したい。
原告の福井県大野市の女性(82歳)の夫は、1953年から71年まで、全国のトンネル工事に従事し、85年2月にじん肺と診断され、92年には最も重い「管理4」とされた。本誌の読者には言うまでもないかもしれないが、じん肺は息ができなくなっていく病気である。治ることはないので、悪くなる一方である。闘病による苦しさと、死への不安で、94年5月ごろうつ病を発症した。そして98年5月に76歳で自殺された。
じん肺で亡くなられれば、当然労災だから、遺族補償として年金が支給される。しかし、労働基準監督署は、別の原因で亡くなった場合には、遺族補償は給付しない。このケースも不支給となったので、その処分取り消しを求める訴訟となった。
うつ病による自殺が労災認定されることもある。つまり、過労などの業務が原因となってうつ病になった場合には、その結果の自殺も労災認定される。そして、うつ病、すなわち精神疾患の労災認定基準では、労災で療養中の人が精神疾患になった場合も、「特別な出来事」に遭遇したとして、認めることが示されている。ただし、それは「6ヶ月を超えて療養中の者」が、「病状が急変し、極度の苦痛を伴った場合など」と限定されている。
このケースでは、長年じん肺で療養されている点では条件を満たしているが、病状が急変したわけではないから、監督署は認めようとしなかった。しかし、考えてみれば、「急変して極度の苦痛を伴う場合」にはもちろん大きなストレスがかかるが、だんだん悪化していって苦痛が増していく場合も、勝るともとも劣らぬストレスがかかる。比べられるものではない。そもそも詳細に「出来事」について、事細かな心理的負荷表とその評価方法を示していることと比べて、「特別な出来事」については、極めて抽象的で基準が不明瞭である。例えばもう一つの「特別な出来事」は、「心理的負荷が極度なもの」であり、「生死に関わる事故への遭遇など」と例示されているだけである。
いずれにせよ、今回地裁で判決が確定した意義は大きい。じん肺患者に限らず、やはり長期療養を余儀なくされる脊髄損傷やアスベスト関連疾患についても、同じように精神的な苦痛を訴える人は少なくないからだ。厚生労働省は個別ケースとしてではなく、認定基準そのものの見直しに本腰を入れてもらいたい。【川本】