アスベストによる住民被害 中皮腫で認定12名 旧朝日石綿横浜工場(鶴見区)
旧朝日石綿横浜工場(鶴見区)から飛散したアスベストによる住民被害はどのくらい広がっているのか? 他の石綿工場周辺でも被害が出ているのではないか? 横浜市が実施した健康リスク調査や中皮腫死亡調査の結果からは、これらの疑問に対する十分な答えは得られない。
そこで、独立行政法人環境再生保全機構が行ったアンケート調査の結果を見ると、鶴見区では中皮腫一二人(男性四、女性八)が石綿救済法で認定されていた。明らかに環境曝露と思われる女性が多いことからも、鶴見区内における住民被害の広がりを感じる。私たちはさっそく、「環境省健康リスク調査関連地域におけるばく露分類別居住集計」の、中皮腫認定者の町別認定件数について情報開示請求を行った。開示されたデータによれば、上末吉、下末吉、鶴見中央、豊岡町、中通、矢向がいずれも一、生麦三、馬場、東寺尾、本町通が二、不明二と、鶴見区内に五二ある町のうち一〇にまたがっていた。もちろんこれだけでは居住地と環境曝露との関係ははっきりしない。
そこで、鶴見区内のアスベスト関連工場や事業所を地図に書き込み、中皮腫認定者の居住地との関連性について調べてみた。一〇町のうち四町にアスベスト関連工場や事業所がある。鶴見中央と豊岡町に旧朝日石綿、生麦に日本石綿・太洋石綿工業・河辺産業、本町通に双葉パッキン製造だ。このうち、旧朝日石綿横浜工場による住民被害については明らかになりつつあるが、他の事業所と周辺住民被害との関係については明らかではない。私たちも安易に「因果関係がある」と言うつもりはない。因果関係の有無を言うには、当時の事業所等の状況を詳細に調査したうえで、周辺住民への曝露があり得たかどうか証明する必要があるからだ。
ただ、このデータで注目すべきは、旧朝日石綿横浜工場による住民被害の可能性の高い方が鶴見中央と豊岡町で一人ずついることだ。豊岡町の方は、「旧朝日石綿住民被害者の会」がエーアンドエーマテリアル㈱と交渉して二七〇〇万円の補償を勝ち取った故Hさんと思われる。鶴見中央の方は、アンケートの居住歴欄に「当時の住所不明」とあるが、以前、「工場と居住地との間に中皮腫等の石綿に起因する症状の方がいない」ことを理由に補償されなかった故Tさん(中皮腫で死亡)の件について、今後の補償交渉で有力な手掛かりの一つとなると思われる。
環境省は現在、横浜市鶴見区、岐阜県羽鳥市、大阪府泉南地域、尼崎市、奈良県王寺町・斑鳩町、佐賀県鳥栖市の六地域で健康リスク調査を進めている。いずれも住宅密集地にある石綿工場の周辺地域だ。この調査について環境省は、「石綿の曝露歴は把握できるが、対象地域全体の実態を疫学的に解析できるものではない」とし、因果関係に関する言及を避けている。つまり、疫学調査したが因果関係は解明できなかったというのではなく、敢えてそのような本格的調査をしないとしか思えない。
前述の通り、鶴見区内においても旧朝日石綿横浜工場以外の周辺地域でも住民被害が広がっている。私たちは、政権交代後の環境省に、石綿工場周辺の住民被害について本格的な疫学調査を行うよう求めたい。また、既に行った健康リスク調査の対象地域において不認定となった肺がん事例を見直しするなどして、一人でも多くのアスベスト被害者が補償・救済されるよう、政治指導で運用改善を図ってもらいたい。