産業保健の目:熱中症・対処法の要点

センター所長・医師 天明 佳臣

 数年前の夏のある日、港町診療所に、熱中症の患者さんが受診してきました。朝から横浜駅北東口の外で、通勤の人たちに宣伝ビラを配っていた20代の女性でした。訴えはめまい、立ちくらみ、頭痛。それを聞いて看護師さんは、すぐに結果の出る耳穴挿入の体温計で患者さんの体温を測りました。38度を超えていますと報告すると、彼女は「えっ、そんなに熱があるんですか!」と。発熱の自覚がなく、のどの渇きも訴えていませんでした。医師がまず点滴を指示、さらに両側の首と腋の下に氷のうをあてるよう看護師さんに指示しました。

 熱中症の症状の重さは、3段階に分けられています。めまいや立ちくらみが「1度」、頭痛や倦怠感がでる「2度」、意識障害があれば「3度」と分類します。この患者さんには高血圧や糖尿病などの既往症はなく、肥満もありませんでしたので点滴が終わってしばらく横になって休息をとってもらうと体調は回復しました。

 私の経験から申し上げると、医療側の質問にはっきり答えられない、口ごもっているようなケースは、意識障害に発展する可能性を考慮して、上記のような処置をして救急車を呼び、入院施設のある医療機関へ搬送した方がよいと考えています。

熱中症はどのようにして起こるのか

 私たちが仕事や運動をしていても平熱を保っているのは、2つの体温調節反応が機能しているためです。1つは発汗、汗の蒸発による気化熱が体温を下げる働きをしています。もう1つは皮膚温上昇(皮膚に血液を集める)させて外気へ熱放散をしています。

 ところが気温が更に上昇し温度も高くなり、風邪も弱い、日差しも強くなると、体温調節機能が十分に機能しなくなります。上述の環境条件の変化の下では、汗をかいても蒸発しにくくなり、また、皮膚温上昇による外気への熱伝導も不十分になり、しかも皮膚直下の血管が拡張して、たくさんの血液をためていますから脳に回る血流は減少します。それが熱中症の時のめまい、頭痛などの原因です。

熱中症への対処法

 熱中症は対処を誤ると死に至る可能性のある病態です。むろん適確な対処をすれば重症化も防げますし、意識障害を起こしたケースでも救命できます。熱中症対策の基本は、「体温を下げる」と「水分と塩分を摂る」の2点です。

 体温を下げるには、港町診療所の症例では首と腋下を冷やしましたが、両側の太ももの付け根の3ヶ所。いずれも皮下に太い血管が通っているためです。氷のうがなければペットボトルや缶入りの飲料でも冷やせます(氷のう、アイスバッグは、袋がしっかりした生地でできていて、氷のゴツゴツ感が気にならないものがお勧めです)。

 水分補給のポイントは、1日当たり1・2リットルを目安にこまめに水分補給すること。人は軽い脱水状態の時にはのどの渇きを感じません。従って、のどが渇く前や仕事に入る前に補給します。汗として失われるのは水分と塩分ですから、1リットルの水に食塩1~2グラムを加えた水を飲みます。その際、水は5~15度に冷たくしたものを準備しておきます。冷えた水は深部体温を下げる効果があり、胃にとどまる時間が短く、水分を吸収する器官である小腸に速やかに移動するからです。

 その日の暑さや仕事や運動の強さにあわせて計画的に休憩を取るように、同一職場のラインの管理職と同僚たちとで、よく話し合いましょう。熱中症のリスクが高い日かどうかは、環境省が「暑さ指数」(気温や湿度から熱中症の発生しやすさを数値化したもの)を公表していますので参考になります。

 また、「熱中症指数計」もいろいろ市販されています。湿度と温度を測定、表示して、熱中症指数を5段階のバロメーターで、厳重警戒・危険指数の時にアラームで警告してくれる機能が付いているものもあります。私が使っているものは温度と湿度が見やすく表示されており、800円です。

 アイスバッグはすでに紹介しましたが、冷却スカーフ、タオルもいろいろ市販されています。服についた小型ファンが外気を取り込み、汗を気化させる「屋外作業用空調服」というのもあるようです。


 本稿では、熱中症とその対応についての基本的な事項と、クールグッズを紹介しました。屋外や屋内のさまざまな職場における対処については、他の熱中症資料も参考にして、日常的に労働者と接する現場の管理監督者や同僚の方々と具体的にご検討ください。