安心安全に働き続けるために

 神奈川の県立高校で司書を務めるMさんは、2018年2月の高校入試の前日準備でストーブを運んでいる時に転倒し、腰の骨を折った。極めて単純な事故によるケガであったにも関わらず、地方公務員災害補償基金神奈川県支部は公務外と決定。その理由は、支部専門医の意見として、「転倒時の衝撃は軽微なもの」であり、「骨の脆弱性を有しており、骨粗しょう症の状態であった」というもの。Mさんは骨粗しょう症で治療を受けたこともなく、主治医による事故前の検査でも何ら問題を指摘されていなかった。今年7月、ようやく同基金神奈川県支部審査会が公務上と決定。審査会は第三者医師に聞き取り調査を行ない、「骨粗しょう症ではない」とし、審査会の判断として「転倒の衝撃は相当程度のものというべきである」としている。ご本人から対策も含めたこれまでの経過報告を頂いたので掲載する。【川本】

神奈川県高等学校教職員組合横浜緑園分会 M

 私は2018年、前任校の横浜翠嵐高校で入試の前日準備中の転倒による骨折を公務災害として申請したが公務外とされた。神高教本部に相談し、支援を受け、ようやく今年7月に支部審査会から「公務とする」との裁決書を受け取った。以下はこれまでの経緯である。

 当時の横浜翠嵐高校では、前日準備は定員の2倍分の試験会場を設営するにも関わらず、よそから力を借りず職員だけで準備していた。授業も最低限しかカットしない。そのため、もともと人員的にも時間的にも余裕がない状態での準備であった。そんな中、私はプレハブ教室に保護者控室の設置を割り振られ、掃除や暖房用の灯油を給油することになった。しかし、現場に行ってみると、設置してあるはずのストーブがない。このことを事務や入選委員に報告したが代替の手配はされず、仕方がないのでもう1人の設営担当と2人で進路室の大型ヒーターを別棟のプレハブまで運ぶことになった。

 台車で運んだが、段差のある部分では持ちあげる必要があり、それを下した後にバランスを崩して転倒し腰を強打した。しばらく立ち上がることができないほどの痛みがあった。腰を深く曲げられないためタクシーには乗れず、バスと電車を乗り継ぎ自宅近くの病院にいったところ、「第3腰椎椎体骨折」と診断された。

 そこで公務災害を申請したが、地方公務員災害補償基金神奈川県支部は、公務外の決定をした。その理由は、同基金支部専門医の意見に沿って、転倒時の衝撃は日常生活で起こり得る軽微なもので、もともと骨の脆弱性を有しており骨粗しょう症だったというもの。

 2011年9月に腰痛で1ヶ月ほど理学療法をしたことがあり、その際の診療録には確かに「変形腰椎症、骨粗しょう症」と記載されている。しかしながら骨密度検査の結果問題がなかったとして、その後全く治療を受けていない。その後の検査でも問題を指摘されることもなかった。主治医も、当初から「今回の災害のみを原因として発症したもの」、「骨密度は正常で、骨粗しょう症の基礎疾患はなく、既往歴もない」と明記している。

 支部専門医はその意見に対して、「骨密度検査については検査部位が不明なため判断材料とすることができない」として、全く無視。不明であれば改めて尋ねればいいだけのことなのに、それをしないで骨が弱いと決めつけられた。

 この判断には全く納得できなかったので、神高教本部に相談したところ、弁護士の岡田先生、神奈川労災職業病センターの川本さん、執行委員(当時)の石田さんに支えられながら、支部審査会に審査請求を行った。主治医には、私が骨粗しょう症ではないし、事故当時には大きな力が加わって骨折したことを、わかりやすくまとめた意見書を作成していただき、提出し、昨年12月には意見陳述もした。

 そして今年7月、公務上とすると裁定された。これは本当に組合の力があっての結果である。自分一人では、理不尽と思ってもそれを受け入れることしかできなかった。仮に審査請求をしたとしても、手順もわからず、どんな資料を用意すれば良いのかもわからなかった。

 また、この事故については分会にも色々助けてもらった。まず、校長交渉で、事故や怪我について所属内で周知されないのはなぜか、事故の原因となったストーブが取り外されていたのはなぜか、また今回の事故を踏まえて今後の事故防止をどう取り組むのかなどについて質問してもらった。入選作業についての職場のアンケートに同じようなことを回答したが、3月末の時点でなんら対応がなかったためである。

 その結果、「報告・連絡・相談」(報連相)が徹底していなかったことと、プライバシーを尊重したことが先の状況になったと回答があった。年度が変わってからの職員会議では、事故・怪我についての報告や事情を知る人は申し出てほしいことなどを校長が話した。また、その後の入選準備には事故防止や報連相について度々注意が促されていた。ただし、事故の原因については時間が経ちすぎていたせいか、通常その部屋を使用している部活動の生徒が掃除をする際にストーブが壊れていたので外した、までのことしかわからず、「責任の所在は所属長にある」に留まった。すべてを納得できる結果にはならなかったが、分会の対応がなければなにもなしで、泣き寝入りとなるところであった。

 事故から2年半経った今、振り返るともう少し要求したいことがある。事故当時、バスと電車を乗り継いで病院に行くのではなく、救急車を呼んでもらいたかった。転倒後は激痛でしばらく身動きが取れず、起き上がってからも体を思うように曲げることができなかった。通常なら救急車の手配をしたのではないだろうか。しかし、この時は、誰もかれも、それぞれの業務分担で手いっぱいで、けが人の心配をする余裕がなかったのだと思う。そもそも、人員的、時間的余裕があればストーブがないことがわかった時点で、50歳を過ぎた女性である私ではなく、力や体力のある人がヒーターを運ぶことができたと思う。何かあったとき、臨機応変に対応できる余裕が必要だと思う。

 今年、新型コロナウイルスの対応を含めた入試準備が求められ、これまで以上に厳しい状況になってしまうのではないかと危惧している。本部、各分会、力を合わせて安心安全に働ける学校現場を作っていかなければならないと強く思っている。