建設ボード工の「びまん性胸膜肥厚」が労災認定

建設ボード工の「びまん性胸膜肥厚」が労災認定
事業主証明拒否と石綿健診での見逃し

 長年にわたるボード工事においてアスベストばく露し、「びまん性胸膜肥厚」で労災請求していたHさんが労災認定された(横浜北労働基準監督署)ので報告する。本件では、Hさんは従業員ではないとして事業主証明を拒否された労働者性の問題と、石綿健康管理手帳の受診医療機関である労災病院における「びまん性胸膜肥厚」の見逃しの問題があった。【鈴木江郎】

■ボード工事と石綿ばく露
 Hさんは、少なくとも70年10月から08年3月までの38年間を建設業のボード工事に従事した。ボード工として主に居住用マンションや商業ビルや学校などの野丁場における新築工事や改築工事に従事し、壁、天井、柱、台所等のボード貼り作業を専門に行った。石膏ボード、フレキシブルボード、大平板、ケイ酸カルシウム版(ケイカル板)、グラサル、ディックフネン等のアスベスト含有ボードを建設現場で用途に合わせて切断、加工、穴あけ、皿モミ(皿ねじの頭を沈める)作業においてアスベストにばく露した。
 ボード工として働いた38年間に3社に勤務し作業内容はほとんど同じであり、アスベスト最終ばく露事業場のK社の労働者として労災請求をした。
■石綿健康管理手帳の取得
 HさんはK社を08年に退職したが、09年頃には咳と痰が出るようになった。肺に異常を感じたので労災病院で検査をしたところ、アスベストばく露によるものだとして、石綿健康管理手帳の取得を勧められ、11年3月に石綿健康管理手帳を取得。労災病院にて年2回石綿健診を続けてきた。15年頃には咳と痰の症状が酷くなってきて、一度咳が出ると止まらない等の症状となる。しかし労災病院の担当医は前回の胸部X線写真と比べて「変化なし」と言うだけなので、自分の症状を考えると心配になってきた。
 そんな折に15年末のアスベスト労災認定事業場公表のホットライン電話相談にて「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」に連絡をしたのであった。
■びまん性胸膜肥厚の診断
 Hさんから連絡を受けて港町診療所で受診したところ、肺に広範な胸膜プラークが認められ、かつ著しい呼吸機能障害がある「びまん性胸膜肥厚」と診断され、直ちに労災請求する事とした。
 そして労災請求から半年かかったが、Hさんの「びまん性胸膜肥厚」はアスベストが原因の疾病であるとして労災認定された。アスベストばく露作業が38年間ある、右肺の胸膜肥厚は、もっとも厚いところ5㎜以上で側胸壁の1/2以上認める、左肺の胸膜肥厚は、もっとも厚いところ5㎜以上で側胸壁の1/3以上認める、パーセント肺活量(%VC)は53%と著しい呼吸機能障害を認める。
 なお、石綿検診時の労災病院の担当医は「肺がん」や「中皮腫」についての言及はあったが、「石綿肺」や「びまん性胸膜肥厚」などの「がん」以外のアスベスト疾患についてHさんに教示することは無かった。直近の写真と比較するだけで、11年当初からの胸部の陰影の変化についての言及もなかった(石綿手帳に手書きする陰影は明らかに濃くなっている)。
■労働者である事についての争い
 一方でHさんの労働者性について証明が必要であった。というのは、最終ばく露事業場であるK社が「H氏は一人親方であり当社の労働者ではない」として労災の事業主証明を拒否したからである。これは建設従事者の一人親方の場合によく起こる問題であり、形式的には「一人親方」「手間請負」であっても個々の働き方の実態が労働者であれば労災補償の対象となる。Hさんは、石綿健康管理手帳の申請時には、K社から問題なく事業主証明が出ており、今回のK社の矛盾した対応は責任逃れと言える。
■Hさんの労働実態
 そこでHさんの労働者性について労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」(昭和60年12月19日)に即しながら、以下のとおり、K社における労働の実態を申し立てた。
 ①仕事の依頼、業務に従事すべき旨の指示等に対する諾否の自由は無い
 ②建設現場における業務上の指揮監督について、K社の現場監督の指示下にある
 ③勤務場所及び勤務時間が指定され、K社の管理下にある
 ④本人に代わって他の者が労務を提供することは認められていない
 ⑤報酬は日給単位で計算され、K社の従業員と比べても高額ではない
 ⑥業務遂行上の損害に対する責任は負ってない
 ⑦独自の商号使用はない
 ⑧K社の仕事のみを長期にわたり(18年間)継続して従事した
■直ちに連絡を!
  以上のような労働者としての作業実態が認められ、HさんはK社の労働者として労災認定された。Hさんの場合、石綿健診をしてきた労災病院でも労災請求を勧められる事は無かったし、労災請求しても事業主からは証明を拒否されるなど、困難を乗り越えての労災認定であった。私たちとつながり、そのサポートで労災認定に辿り着いた。
 今回のHさん同様に様々な障壁があり労災請求に至らないケースはまだまだ多いと考えられるので、少しでも疑問があれば、直ちに私たちに連絡して欲しい。