公務災害:理不尽な公務外認定で相談増加
当センターは、「ケガや弁当は自分持ち」の労働者の駆け込み寺としてスタートしたこともあり、主に民間の労働組合のない職場の労働者からの相談が多い。ところがここ数年、地方自治体の公務員からの相談が増加している。しかも過労死やメンタルヘルス、パワハラ(もちろんそれもあるが)ではなくて、単純なケガや災害性の疾患。まさに「ケガや弁当は自分持ち」の実態と取り組みを紹介する。【川本】
基礎疾患があったら公務外
さすがに単純な事故は公務災害になるが、そうとも限らない。とくに体育教員、中高年の場合は注意が必要だ。
30代の女性体育教員は、バスケット部の顧問として男子部員の練習に参加していた際に膝を痛めた。ただちに冷やすなどの処置も行ったがよくならないので病院に行ったところ、前十字靭帯断裂、半月板損傷などと診断される。ところが地方公務員災害補償基金(以下「基金」と略す)神奈川県支部、審査請求した基金支部審査会も、再審査した基金本部審査会も公務外という判断。彼女が事故前から前十字じん帯損傷だったという理由。
たしかにその事故の2年前に研修でハードルを飛んだ際に膝を痛めたことがある。しかしその時に行った医療機関で、前十字じん帯損傷とは診断されておらず、継続して治療するような状態でもなかった。なんと基金は、ハードル事故で診察を受けた医療機関のレントゲン写真で骨棘があるので、変形性膝関節症であり、その事故前から前十字じん帯損傷だったというのだ。前十字じん帯損傷は直後に激しい痛みを伴うので、彼女が自覚していないはずがない。まるで嘘をついていると言わんばかりの主張である。ハードルの事故も公務中なので、なにがなんでも公務外にしようという悪意のようなものを感じる。現在裁判で係争中である。
50代の高校の女性職員は、入試準備でストーブを運んでいる時にバランスを崩して転倒して腰椎圧迫骨折を負った。基金神奈川県支部は、彼女が骨粗しょう症で骨が折れやすかったとして公務外と決定。主治医は骨粗しょう症を否定し、以前の健康診断の結果でも問題なしとされていたのにもかかわらずである。基金支部審査会に審査請求し、ようやく骨粗しょう症は否定され公務上となった。
体育大会で教員対抗リレーに参加した50代の男性教員は、カーブで転倒して右半身を強打、ねん挫、挫創などのけがを負った。治療を継続したが痛みも取れず、腕が挙がらないままなので、詳しく調べたところ「右肩腱板断裂」と判明。これも元々断裂していたとの判断で公務外。前日まで通常に授業も行い、テニス部の顧問として指導をしていたにもかかわらず、である。基金支部審査会も同様の判断で、現在基金本部に再審査請求中である。
関東地方の20代の消防署職員は訓練中に倒れて致死性不整脈で亡くなった。彼が健康診断で心電図検査で不整脈を指摘されていたことを理由に基金県支部は、通常人に比して心臓疾患を発症しやすい状態で自然経過的に発症したものとして公務外とした。彼は大学病院で精密検査を受けて積極的な加療は不要とされ、全く普通に勤務を続けてきたし、その訓練が相当の強度があったにもかかわらず、である。現在ご遺族が基金県支部審査会に審査請求中である。
全く基礎疾患のない人間などあり得ない。頑張って仕事をする職員ほど公務災害にならない。そんな理不尽な話はない。
大した衝撃ではないと決めつける
上記のバスケット部の練習、ストーブ運搬時の転倒について、いずれも基金は、それほど大きな力が加わったわけではないと決めつけた。前十字じん帯断裂、腰椎圧迫骨折が大した衝撃もなく生じるものではないことは明らかである。だからこそ、元々断裂していた、骨粗しょう症だったという決めつけをせざるを得なかったのかもしれないがあまりにも無理がある。
先日電話で相談のあった県内の小学校の教員の頸椎捻挫等のケースも同様である。彼は児童から強くぶつかられて頸椎捻挫などで療養している。基金支部は、最初の3ヶ月だけは公務上であとは私傷病と決定。小学生とはいえ高学年の児童は非常に体格も大きく、相当な衝撃を受けたにもかかわらず、である。校長先生も同僚も公務外の決定に驚いていたという。
消防署職員のケースもそうだ。当日彼と一緒に訓練した先輩が「意識高いな」と感心するような内容で、後日同僚が同じことをしてもらったところ相当辛そうだった。そんな内容でも基金県支部は通常訓練と決めつけた。
ずさんな調査のわけ
なぜ上記のような決定に至るのかというと、支部にかかわらず地方公務員災害補償基金の調査の杜撰さが大きな要因である。まず事実関係の調査が十分ではない。例えば、パワハラによる精神疾患のような複雑な事例ですら本人(遺族も)の聴取は一切しない。決定に至る過程の書類を見ても、労働基準監督署の書類よりもあまりにも少なくて、概略的なものである。
医学的な点も同様である。主治医と自分たちが選んだ専門医に意見を聞くが、それがあまりにも異なるような場合でも、再確認や調査をせず、専門医の意見をそのまま採用する。例えば上記の骨粗しょう症について、専門医は、骨粗しょう症に関する主治医の検査は十分ではないとしながら、なぜか根拠なく骨粗しょう症であるという意見を述べていた。そうであれば、専門医に根拠を尋ねるなり、主治医に再度確認すればよいはずだ。本人聴取をしないから、骨粗しょう症の健診を受けていた事実も知らなかったようで、その結果の調査もせずに公務外とした。結局基金支部審査会が、「第三者の医師」の意見を聞いて、ようやく骨粗しょう症を否定したのだ。
基金と言っても、労働基準監督署の労災担当職員のように、長年労災補償についての調査を担当するわけではない。自治体などで、たまたま総務・人事の部署になった職員が実務を担っている。
どうすればよいのか
正直、決して十分とは言えない労働基準監督署の調査の方がはるかに「マシ」である。地方公務員災害補償基金制度の抜本的な見直しが必要である。当面は一つ一つの公務災害事例をきちんと公務上にしていく作業、基金本部との交渉を地道に積み重ねていくしかない。