センターを支える人々:池田実さん(原発関連労働者ユニオン書記長/元福島原発作業員)

原発労働者に光を

 私は、2014年2月から5月まで福島の帰還困難区域である浪江町で除染作業に従事した後、同年8月から2015年4月末まで第一原発構内で廃炉に向けた事故収束作業に従事しました。

 除染作業では浪江町の河川敷で、草刈りと表土の剥ぎ取りを行いフレコンバッグに収納する仕事を主にしました。作業エリアの空間線量は1時間あたり22~5マイクロシーベルトと場所により大きなバラツキがあり、北西部の山林地帯に近づくほど線量は高くなる傾向がありました。

「除染じゃなくて除草だなあ」

 枯草を電動草刈機で刈った後、竹の熊手で草を集め、さらに表土を5センチほど剥ぎ取る除染作業を行いましたが、その結果は、空間線量を計測するとおおよそ1~5マイクロシーベルトくらいは下がりました。最初は草木だけでなく汚染されている表土も除去するよう指示されていましたが、工期が迫ると「表面の草だけを刈ればいい」と言われ、仲間うちからは「除染じゃなくて除草だなあ」と揶揄する声も出ました。本当に除染の効果があるのか自問しながら毎日草木を刈っていました。刈った草木や表土を入れた黒いフレコンバッグは近くの元田んぼに仮置きします。緑豊かな山里が見る見るうちに黒い物体に占領されていく様は悲しいものでした。はたして住民は戻ってくるのか、田んぼは元通りに稲が育つのか、改めて原発事故の恐ろしさを思い知らされました。

 日給は1万7千円、そのうち1万円は環境省が個人に支給する「危険手当」でした。元請け会社のゼネコンが建てたプレハブ宿舎は個室で、テレビ、エアコン、冷蔵庫完備、共同の風呂、食堂、洗濯室もあり不自由はしませんでした。

 被ばく対策はずさんで、個人線量計は入域時に各自が受け取り、退域時には各人がその値を口頭で係員に申告するものでした。手袋とサージカルマスクは元請け会社から支給されましたが、ヘルメット、ゴーグルなどは各下請け会社が準備、作業着や作業長靴は各自が揃え作業後はそのままの格好で宿舎に帰る日常でした。一応、退域時には係員による放射能測定がありますが、厳格にはチェックしていませんでした。

 ちなみに私の1ヶ月の外部被ばくの積算線量は最高で0・44㍉シーベルトでした。第一原発と比べ低いとはいえ、1年間続けていたとすると積算で白血病労災認定基準である5㍉シーベルトを超える数字です。

除染より待遇が悪い第一原発

 第一原発では、主に使われなくなった建屋内に残っている事務書類や備品、工具類、検査機器、消火器、ボンベ、保護衣等の分別回収作業を主に行いました。可燃物、不燃物、金属、ガラス類など種別に分け、ビニール袋に入れてコンテナに積めるのです。場所は事務本館、1・2号機サービス建屋、3・4号機ホットラボ室(化学分析室)、集中廃棄物処理建屋等でした。

 実働時間は1日2~3時間程度でしたが、被ばく線量は1日0・03~0・1㍉シーベルトもあり、除染の10倍以上はありました。被ばく管理は警報機付き個人線量計(APD)とガラスバッジを携行し、全面マスクに下着、手袋、靴下、つなぎの保護服等を装備し、点検も欠かさず行われていました。毎日の被ばく線量はIDで記録するとともに、個人でも記録紙を提出していました。私の月の積算線量は、最高で1・2㍉シーベルトを記録しました。

 日給は1万4千円、内「危険手当」は4千円、なんと除染の時の半分以下でした。除染は環境省直轄の事業のため個人に手当が支給されましたが、第一原発は東電という民間事業者が下請けの民間事業者と契約し、さらに孫請け、ひ孫請けと連なるので手当の額は各社ごと異なってくるのです。

 ちなみに、私は3次下請け会社で勤めていましたが、同じ仕事をしている同僚でも日給9千円~1万6千円と幅がありました。さらに除染の時は加入していた社会保険は第一原発では未加入、半年以上勤めても年次有給休暇はありませんでした。

 福利厚生面でも、第一原発では下請け各社が作業員の宿舎を手配するので、コスト削減のため古い貸家に何人もの作業員を住まわせるという状態が多く、プライベート空間は保障されず、食事もコンビニ食に頼るという実態がありました。総じて、第一原発の方が、賃金、福利厚生、被ばく等、除染と比べて悪条件だと感じました。

国が前面に出て作業員の待遇改善を

 除染と第一原発で約1年3ヶ月働いた私の積算被ばく線量は7・25㍉シーベルトでした。法律では1年50㍉、5年で100㍉シーベルトが上限と定められ、東電は年20㍉シーベルトを超えないように管理しています。それから見れば十分低い値かもしれませんが、厚生労働省が原発作業での白血病の労災基準としてあげている年5㍉シーベルトを超えています。2015年、初めて福島第一原発で作業し白血病に罹病した労働者の労災が認定(あらかぶさん)されましたが、原発作業員の労災認定は狭き門と言えます。

 さらに、私のように一度離職したらその後の保障は全くありません。もし罹病したとしても自費で受診、治療するしかなく、労災申請するには多くのリスクを伴います。劣悪な労働環境の下でフォローもなく使い捨てられているのが福島原発作業員の実態といえます。「あらかぶさん」にしても労災認定されたとはいえ、補償は十分とは言えず東電等を訴えた損害賠償裁判を起こしています。裁判では被告東電らは放射線と白血病との因果関係を否定する主張を繰り返し、責任を認めようとしていません。

 事故から10年の歳月が経ちましたが、原発作業員の待遇は向上したとは言えません。福島第一原発構内では「空間線量が下がった」として防護装備を従来の全面マスクから半面マスク、さらには通常の作業服に「緩和」して「作業環境改善」と宣伝しています。しかし、被ばくへの不安は消えないばかりか、エリア分けに伴う「危険手当」の削減、不支給も行われているのが事実です。もはや廃炉作業は、コストとして賃金も安全も切り下げようとされているのです。

 すでに福島では10万人を超える作業員が収束作業や除染作業に投入されました。今後40年以上かかるとみられる廃炉まで、さらに何十万人もの「被ばく労働者」が生まれます。もし再稼働した原発が過酷事故を起こしたら、さらに多くの「被ばく者」が生まれます。廃炉が決まった各地の原発でも、さらに長期間、多人数の作業員が必要とされます。

 今後、果てしなく続く廃炉収束作業ですが、東電任せ、下請け任せの組織体制を改め、国が前面に出て、原発関連労働者の雇用、労働条件、福利厚生の改善、そして被ばく保障に全力であたるよう心から望みます。