テレワークについて考える 労働者の権利を守り、法規制の立場から検証を!

テレワーク検討会報告書を批判的に読む

 新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言により一気にテレワーク(労働者が情報通信技術を利用して行う事業場外勤務)が広まってからちょうど1年が経過しようとしている。賛否両論、一部でオフィス回帰もみられるが、少なくとも以前よりも相当多くの労働者がテレワークをしていることは間違いない。コロナ禍が収まってもその傾向は続くであろう。

 厚生労働省は、すでに18年2月に「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン〜情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」を作成(以下、「現行テレワークガイドライン」)。また、昨年8月から「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」を開催、12月に報告書をまとめた(以下、「検討会報告書」)。本誌が届く頃には新しいガイドラインが出されているはずだが、労働者の健康と権利を守る立場ならびに法規制の立場から、改めてテレワークを検討する。【川本】

実態調査でメリットとデメリットを確認

 検討会報告書は、企業並びに従業員に対する「テレワークの労務管理等に関する実態調査」(20年8~10月実施、「実態調査」とする)に基づき、テレワークのメリットとデメリットを確認している。

 メリットとしては、通勤負担の軽減、隙間時間を有効活用し効率的に仕事ができたといった声が多い。一方で課題としては、情報機器や環境整備ができない、セキュリティ確保が困難、コミュニケーションが取りづらいことなどがあげられている。

あらゆる課題について「労使でよく話し合い」で解決するのか?

 検討会報告書ではいろいろな課題をあげる。例えば、「テレワークの導入」に当たって「労使でよく話し合いを行うことが重要である」。「テレワークを実施する者の優先順位や頻度等」について「労使で話し合いを行うことが望ましい」。「テレワークを希望しない労働者とミスマッチが生じないよう」「労使における話し合いの機会を持つことが重要である」。人事評価についても「具体的内容について労働者に説明することが望ましい」。機器や通信の費用負担についても「労使で十分に話し合い、就業規則等において定めておくことが望ましい」。

 あらゆる労働問題は、労使の「十分な話し合い」がなされない職場で生じていることへの想像力が皆無である。検討会メンバーに労働法の専門家や労働組合の代表等が全く入っていないとはいえ、あまりにも能天気な表現にあきれるばかりである。就業規則の改正に個別の労働者が積極的に関与できない、せいぜい労働者代表が意見を述べることができるだけという、労働基準法の限界を全く理解していないのであろう。

労働時間管理について法規制の視点がゼロ

 従って、労働時間管理についても「労使で話し合ってルールとして定めておくことも重要である」となってしまう。ようやく20年4月の改正労働安全衛生法で、労働時間を客観的に記録することが義務付けられたが、「労使双方にとって負担感のない簡便な方法で把握・管理できるようにする観点」で労働基準法との関係で使用者の免責を提唱しているのだ。

 そもそもテレワークガイドラインで「所定労働時間内の労働を深夜に行うことまで原則禁止としているという誤解を与えかねない表現がある」という認識が大嘘である。

 実際には、あくまでも長時間労働対策の一つの手法として、「業務の効率化やワークライフバランスの実現の観点からテレワークの制度を導入する場合、その趣旨を踏まえ、時間外・休日・深夜労働を原則禁止とすることも有効です。この場合、テレワークを行う労働者に、テレワークの趣旨を十分理解させるとともに、テレワークを行う労働者に対する時間外・休日・深夜労働の原則禁止や使用者等による許可制とすること等を就業規則等に明記しておくことや、時間外・休日労働に関する三六協定の締結の仕方を工夫することが有効です」(パンフレット19頁)と記載があるだけである。更にもっと大きな文字で「テレワークについて 現実に深夜に労働した場合 深夜労働に係る割増賃金の支払が必要」と明記している(同16頁)。これらの文章を読んで、テレワークは深夜労働原則禁止などと誤解をするのは、よほど文章読解能力がない経営者だけだろう。

 ちなみに実態調査でも「深夜労働が可能であってほしい」という従業員が14・7%いる一方で、30・8%の従業員が「深夜労働を原則禁止にしてほしい」という結果を紹介している。フランスの「つながらない権利」が立法化された例も紹介されている。好意的に読めば両論併記でバランスをとった感じだが、最後にまた、「労使で話し合い」「使用者は過度な長時間労働にならないよう」「仕組みを構築することが必要である」と結ぶ。テレワークは、司法警察権を背景に最低の労働条件を使用者に守らせる労働基準法の精神を崩すことは明白である。

労働環境改善も「労働者自ら」の責任か

 実態調査では「テレワーク時に作業環境の確認を行っていない企業」は、なんと75・8%。これについても検討会報告書では「チェックリストの活用など労働者自らが容易に確認可能な方法により、労使が協力してテレワークを行う労働者の自宅の作業環境を確認し、改善を図ることが重要」などと現実離れしたことを言っている。労働現場ですら法規制だけでは十分ではないからこそ、ここで述べるようなチェックリストによる自主改善という方法が取られている。全く順番が逆である。

検討会報告書の結論ではなく、内容を「活用」し労働者の権利を守ろう

 「第6 最後に」というまとめの部分でも、良質なテレワークを導入するために「労使で話し合っていただきルールを決めてうまく活用いただくことで効果的な活用が見込まれる」とする。厚生労働省には「ガイドラインの改定をはじめ必要な対応を速やかに行うことを求めたい」とする。以上の結論はひどいものだが、検討会報告書の内容は大変参考になる。

 厚生労働省には、法的に対等が保障されていない「話し合い」も「作業環境の確認」もないテレワーク導入を禁止するとともに、現行ガイドラインを周知徹底し、労働者の生命と健康を守る行政の役割を果たすことを求めたい。

企業の先進的取組みに注目しよう

 企業の「先進的」(それで良しとせず試行錯誤を続けるしかない)な取り組みはもっと紹介されるべきであろう。ガイドラインは法規制を無効にしてはならないのであり、むしろ具体的事例とその結果などもきちんと紹介してもらいたい。
 例えば、パソナグループは、社員に貸与するパソコンを午後8時半で強制終了するよう設定を変えた。ジョンソンエンドジョンソン日本法人の医薬品部門であるヤンセンファーマは、午後10時以降メールによる業務連絡しないよう社員に求める。メンタルチェックのラフールは、勤務時間外にパソコンを開くとアラートを表示。日立製作所は、上司が1日1回仕事内容や進捗状況を会話で確認することを奨励。ゲーム開発会社のカヤックは、社員に週3回の出社を奨励している(全て1月28日の日経新聞より)。こうした取り組みの結果を検証しながら職場改善を図ることが、法規制と共に安全衛生の取り組みとして求められている。
 なお、3月末には厚労省から新たなガイドラインが発表されるので参考にしてほしい。