新型コロナウイルス感染症~それぞれの人がすべき予防対策について~

天明佳臣(医師/神奈川労災職業病センター所長)

 国内初となる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の医療従事者に対するワクチン先行接種が2月17日に始まった。しかし4月からとされている高齢者のワクチン調達の目処は立っていない。更に文字通り「新型」であって、感染症の専門の研究者にも、その感染の有り様がすべて分かっているわけではなく、自治体レベルの予防について喧々諤々の議論が行われている。ここでは、現時点において一人ひとりがすべきCOVID-19の予防手段について記述する。

感染症対策を取り入れた日常の行動

 COVID-19の感染経路は飛沫感染と接触感染であり、日常の予防行動の基本は、
・マスクの着用:会話をするときは家でもマスク、対面では長時間話さない。
・こまめな手洗い:ドアノブや電気スイッチ等はこまめに消毒。家に帰ったら手や顔を洗う。手洗いは水と石鹸で30秒程度。
・身体的距離の確保:できるだけ人との間隔は2m。会話の際は可能な限り真正面を避ける。
・タオルや歯磨きコップ等は共有しない。大皿料理は避け1人分ずつ盛り付ける。室内の定期的な換気。

 飛沫感染は、感染者のくしゃみ、咳、つばの飛沫と一緒にウイルスが放出され、別の人がそのウイルスを口や鼻などに吸い込んで感染する。
 接触感染は、感染者のくしゃみや咳などに含まれるウイルスが感染者の手やドアノブ、電車のつり革などに付着し、別の人がそれらに触るとウイルスがつき、その手で口や鼻を触ることで粘膜から感染する。
 空気感染は、感染者の出した飛沫の水分が蒸発し、ウイルスを含んだ空気中を漂う微細な粒子の飛沫核を吸い込んで感染する(エアロゾルは空気中に漂う微細な粒子を指し、エアロゾル感染は空気感染とほぼ同じ)。
 マイクロ飛沫は飛沫より小さい微粒子を指す。厚労省の助言者組織は、換気の悪い密室でマイクロ飛沫感染が起きやすいと指摘している。アウトブレイクは、危険な感染症が想定を超えて突如として広がることを指す。

「三密」について

 厚労省は集団感染リスクが高いとされる、いわゆる「三密」を避けるよう呼びかけている。三密とは、密閉空間、密集場所、密接場面である。三密の5つの空間、場所、場面を紹介する。

①飲酒を伴う懇親会等
・飲酒の影響で気分が高揚すると同時に注意力が低下。また、聴覚が鈍麻し、大きな声になりやすい。
・特にパーティションで区切られた狭い空間に長時間、大人数が滞在すると感染リスクが高まる。
・回し飲みや箸などの共用が感染リスクを高める。

②大人数や長時間の飲食
・長時間の飲食、接待を伴う飲食、深夜のはしご酒は、短時間の食事に比べ感染リスクが高まる。
・大人数、例えば5人以上の飲食は大声になり、飛沫が飛びやすくなるため感染リスクが高まる。

③マスクなしでの会話
・マスクなしに近距離で会話することで飛沫感染やマイクロ飛沫感染での感染リスクが高まる。
・マスクなしでの感染例として、昼カラオケ等での事例が確認されている。
・車やバスで移動する際の車中でも注意が必要。

④狭い空間での共同生活
・長時間にわたり閉鎖空間が共有されるため感染リスクが高まる。換気を頻繁に行うこと。
・寮の部屋やトイレ等共用部分での感染が疑われる事例が報告されている。

⑤居場所の切り替わり
・仕事で休憩時間に入った時など居場所が切り替わると、気の緩みや環境の変化により感染リスクが高まることがある。
・休憩室、喫煙所、更衣室での感染が疑われる事例が確認されている。
・一方、家庭内感染例が増加している。家庭内でもお互いに気を付けよう。

 ところで、COVID-19をめぐって家庭内で意見が分かれるケースが出ている。例えば、会社勤めの夫が帰宅後、手洗いやうがいをせず、妻が咎めても省みる様子がないことで起こるもめごとである。心療内科医の海原純子さんは、「自分の気持ちを伝え、相手の気持ちを聞いて、お互いがOKと言える最低限のルールを決めておくことが大事。まずは知識の共有が必要」と指摘している。

インフルエンザと新型コロナの違い

 インフルエンザと新型コロナの症状、潜伏期間、無症状感染などについては前頁の表(省略)の通り(日本感染症学会の提言から)。

新型コロナウイルスのクラスター感染

 クラスター(cluster)とは花の果実などの房、かたまりの意味。病院、飲食店、映画館などの施設や職場、会食、宴会などで集団的に感染者が発生することをクラスター感染という。

 発見された症例の行動歴を後ろ向きにさかのぼって濃厚感染を特定し、感染源を突き止めるなどの疫学調査に基づいて認定される。連鎖的に感染が拡大し、より大規模な集団発生につながるリスクが警戒されている。例えば、介護施設に入所している私の妻が定期受診している大森赤十字病院では院内クラスターが発生し、1月下旬から約1ヶ月間、一般外来診療をストップしていた。

抗原と抗体、そして免疫

 ウイルスや細菌など体内に入った異物に対する免疫反応を引き起こす物質を抗原という。特定の異物の特定の抗原に結合し、それを体外に排除する免疫反応を起こすために作られるたんぱく質(免疫グロブリン)を抗体という。この一連の生体防御システムが免疫である。

 一度かかると二度とかからない感染症があるが、最初の感染で体の中に感染症の病原体に対する抗体が作られ、免疫を得たためである。
 人間の抗体として次の5つの免疫グロブリンが知られている。IgG,IgM,IgD,IgA,IgE(Igは免疫immunityの略)。これらの抗体が抗原を「非自己」と認識して体外に排出するように働く。

自然免疫と獲得免疫

 免疫は脳神経、内分泌系と並んで表には出ないが体内で最も大切な中枢組織の一つである。これらの仕組みは常に連帯し、互いにうまくバランスをとりながら体を支配している。免疫には自然免疫と獲得免疫がある。

 順天堂大学医学部の奥村康教授によると、自然免疫は「ナチュラルキラー(NK)細胞というリンパ球は平熱時、外からやってくるウイルスを最前線で攻撃、破壊する。NK細胞の値=NK活性は日々の生活の中で上がったり下がったりし、NK活性が高ければウイルスに感染しても症状が出ない。あるいは重症化することもほぼない。しかし、NK細胞でも手に負えない場合には即座に対抗するシステム、いわゆる抗体が体内にできあがる。新型コロナウイルスのみを標的とした免疫反応が必要になり、そこで働くのが獲得免疫であり、リンパ球の一種であるB細胞とT細胞によって主に担われる」。

 B細胞は、新型コロナウイルス特有の抗原を認識し結合するたんぱく質(抗体)を作る。この抗体ははじめはIgM抗体の形態をとるが、これは免疫反応を起こす効率が低い。そこでT細胞の一種であるヘルパーT細胞はB細胞の成熟を助け、より効率的なIgG抗体を生産できるようにする。奥村康教授の「発言」のうちでもう一つ注目すべきは、「NK細胞は脳の動きと内分泌を通じ、大きく連動している。しかし不規則な生活で内分泌の働き乱したり、逃げようのないストレスを受けたりするなどして、NK細胞の活動が著しく低下する」という点である。ストレス解消で免疫力が向上するという事実を、私たちは肝に銘ずる必要があろう。

新型コロナウイルスのワクチン

 新型コロナウイルスのワクチン接種は2月17日から、まず医療従事者から始まった。ワクチンは感染を防げる「感染予防」、感染しても発症を防げる「発症予防」、発症しても「重症化予防」の主に3つの効果が期待されるが、現時点ではっきりしているのは「発症予防」の効果だけである。副作用についての検証も今後の重要な課題である。

 海外でのワクチン治験データでは、1回目の後に83%の人が接種部位の痛みを訴え、日常生活に支障が出る程度の痛みを訴える人も30%程いたという。他にも、倦怠感47%、筋肉痛21%など。ただし、いずれも数日で消えた。1回目より2回目のほうが頻度が高まる傾向も見られたという。

 まだ先の話だが、特定のウイルス感染症に対し、社会の多くの人が免疫を持つようになると流行は自然と収束する。新型コロナウイルスは、人口の60%程度が免疫を持つと感染は広がらなくなり、流行は自然に収束すると予想されている。ワクチン接種によって可能な限り早く「集団免疫」につながることが期待されている。なお乗り越えるべき試練が待っているに違いないが、ワクチン接種ばかりではなく、私たち一人ひとりの日常生活の中での新型コロナ感染予防の努力の必要性については、いくら強調してもし過ぎることはない。

港町診療所で発熱外来用の検査室を新設

 私が理事長を勤める神奈川県勤労者医療生協の港町診療所では、メインビル外側にある2階への階段下に発熱外来のための検査室を設置した。かかりつけ患者を対象に、必要に応じて予約制でPCR検査を実施している。詳しくは港町診療所のホームページをご覧頂きたい。