日本冷熱は、アスベスト被害の実相に目を向け、誠実に団体交渉に応じよ!


アスベストユニオン執行委員 西山和宏

振動障害と石綿肺がんを発症

 Yさんは日本冷熱天草工場(熊本県)に採用され、造船所における保温作業に従事したことにより、16(平成28)年3月に石綿肺がんを発症されました。また、造船所や工場での加工作業において、電動サンダー等の振動工具を長期間使用していたため、05(平成17)年8月から業務による振動障害と認められ休業補償を受けていました。そのため、16年からは、2つの業務上疾病による治療を余儀なくされました。

 治療の結果、19年には振動障害も石綿肺がんも治癒と判断され、振動障害については「両上肢に『局部にがん固な神経症状を残すもの』」と診断され障害11級と認定されました。しかし、会社からは企業補償に関して、何ら説明がないままでした。そのため、退職労働者の安全衛生問題と企業補償についての会社の見解を求め、アスベストユニオンとして交渉を開始することになりました。

会社は団体交渉を嫌悪し、代理人任せ

 20年6月3日付で日本冷熱に対して団体交渉の申し入れを行いました。ユニオンからの要求項目は①労働災害を発症されたYさんに謝罪すること、②作業におけるアスベスト粉じんの発生状況と会社のアスベスト対策を説明すること、③退職者に対する健康対策を説明すること、④健康被害の発生状況及び石綿健康管理手帳の取得状況を明らかにすること、⑤会社の補償制度について説明すること、という内容でした。

 ところが会社からは何の連絡も有りませんでした。そこで、ユニオンから会社に連絡を入れると、「書面で連絡を下さい」との返事を繰り返し、誠実に団体交渉に対応しようとする姿勢がうかがえませんでした。また、会社の担当者は「代理人に依頼している」と言いながら、代理人からの受任通知は一向に届きませんでした。

 その後、日本冷熱の代理人から受任通知が届いたのですが、「協議を行うためには、労災認定に関する一切の資料送付が必要」「Y氏は会社を退職しており、団交の応諾義務の有無については解釈に争いがある」との書面回答がありました。退職労働者の団体交渉権については、住友ゴム工業事件において既に最高裁が認めています。代理人の回答は、団体交渉を嫌悪する姿勢が如実に現れていました。

神奈川県労働委員会へあっせん申請

 そこで、ユニオンに対する日本冷熱の不誠実な対応に猛省を促すと共に、神奈川県労働委員会に団交ルールの策定を求め、7月30日にあっせん申請を行いました。その後、8月17日に「会社があっせんを受諾する」という連絡が県労委からありました。

 県労委が日程調整を行ったのですが、会社側代理人の予定が詰まっているとの理由で、結局、第1回期日が開かれたのは10月15日でした。そして労働委員会の仲介により、団体交渉を行うことが確認されたのでした。

 しかし、第1回期日の終了後の廊下で、会社側代理人からいきなり呼び止められ、何かと思えば「交渉は行うが、補償については一切行わない」と言うのです。ほんの数分前に労働委員会において団体交渉を行なうことを確認したばかりなのに、「開いた口が塞がらない」とは真にこのことです。結論だけを伝え、話し合いにより解決を図ろうとする意思が全くみられませんでした。

「訴訟が考えられているため回答できない」

 ユニオンの要求には補償問題もありますが、作業環境の開示や退職労働者の健康管理問題も含まれており、会社側と調整をおこない、11月12日に会社側代理人の事務所において第1回団体交渉を行うことになりました。

 熊本県にお住まいの組合員のYさんにも会社側代理人の事務所がある長崎まで来ていただき、ユニオン側は3名が出席しました。会社側は代理人の2名の出席でした。ユニオンから「作業実態を知る会社の役員がなぜ出席しないのか」と問うと、「会社側の対応と考え方は決まっている。Y氏が在職中であるならば、会社の然るべき人が出席して回答する必要があるが、Y氏は退職しているので出席する必要はない。会社としては、裁判において認められたことについては対応するという考えであり、それ以外の事については履行することはできないと考えている」との回答でした。

 ユニオンは各要求項目について回答を求めましたが、会社側は同趣旨の回答の繰り返すのみ。そして、「将来、訴訟が考えられているため団体交渉における回答はできない」と言い切り、交渉において何ら合意点を見いだすことができませんでした。

日本冷熱での石綿労災認定者は23名

 退職労働者の団体交渉権をめぐっては、最高裁での判断が確定しています。ひょうごユニオンが、石綿健康被害の問題について住友ゴム工業に対して団体交渉を申し入れたが、会社側がそれを拒否した事件です。

 「使用者が、かつて存続した雇用関係から生じた労働条件を巡る紛争として、当該紛争を適正に処理することが可能であり、かつ、そのことが社会的にも期待される場合には、元従業員を『使用者が雇用する労働者』と認め、使用者に団体交渉応諾義務を負わせるのが相当であるといえる」と判示されています。そして、「石綿の使用実態を明らかにしたり、健康被害の診断、被害発生時の対応等の措置をとることが可能であり、かつ、それが社会的にも期待されている」とされています。

 現在、アスベストユニオンは神奈川県労働委員会に対して、不当労働行為の救済申立をおこなっています。労働組合を嫌悪し、誠実に団体交渉に応じない日本冷熱の対応を許すことはできません。日本冷熱では、各事業場を合わせると23名が石綿関連疾患で労災認定を受けています。日本冷熱はアスベスト被害者に、アスベスト被害の実相から目をそらさず、しっかり向き合うべきです。