テレワーク 厚労省「ガイドライン」を公表

 3月25日、厚生労働省が「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」を公表した。サイト(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/guideline.html)には同ガイドライン本文の他、概要、リーフレット、事業者用および労働者用のチェックリストも紹介されているので、ぜひ確認してほしい。元々そのタイトル通り、テレワークを「推進」するためものである。経営側が自らの労働時間管理や安全衛生上の責任をあいまいにする根拠にする危険性も指摘されている。現実には、すでに多くの職場でテレワークが、このガイドラインであげられた課題を考慮することなく、一方的に導入されてしまっている。ガイドラインはそうした職場を改善する「手助け」になる一方で、あまりにも不十分な内容が含まれている。ガイドラインを超えた取り組みを喚起するような視点で紹介したい。【川本】

1 「労使で十分に話し合いルールを定めること」

 ガイドラインではテレワーク導入にあたっての留意点がいくつかあげられているが、もっと重要なのはやはり労使での話し合いとルール作りである。労働組合組織率の低下は言うまでもないが、とりわけ中小企業やサービス業での組織率は極めて低いこと、新型コロナウイルスの感染拡大を理由に団体交渉を面談で行わないという会社もあることを考えると、どのように話し合いやルール作りを担保するのかが課題である。

2 サテライトオフィスやモバイル勤務を

 在宅勤務は生活と仕事の線引きが困難になるという指摘が多い。ガイドラインでは「サテライトオフィス」や労働者が自由に働く場所を選択できる「モバイル勤務」の利用も考えられるという控えめな表現であるが、やはり設備の整った環境での就労を積極的に要求すべきだ。

3 コミュニケーションの円滑化に特段の配慮を

 テレワークの問題点として、同僚らとのコミュニケーション不足が指摘されている。ガイドラインでは新入社員などが不安にならないようにとか、業務の円滑化の視点からコミュニケーションの円滑化が勧められている。しかし、テレワークでなくても職場の人間関係が大きな安全衛生の課題になっていることを考えると、いかなる労働者に対しても安全衛生の立場から、特段の配慮が必要と考えるべきである。

4 テレワークの費用負担は当然会社がするべき

 ガイドラインでは、テレワークに要する費用について、「労働者に過度の負担が生じることは望ましくない」としている。なぜテレワークの費用を労働者が負担しなければならないのか?あらかじめ労使で話し合いルール化して就業規則に記載することが「望ましい」とか、電気料金等の増加を「合理的・客観的に計算し支給することも考えられる」という。ガイドラインで最も不合理な部分である。後から労働者から請求されないように、会社が規則で決めておいたほうがよいという「入れ知恵」になってしまっている

5 労働時間の自己申告はあくまで例外

 ガイドラインでは、テレワークは本来のオフィス以外の場所で行われ、労働時間管理について、「使用者による現認ができない」ので工夫が必要だとしているが、極めて不可解である。その直後に、テレワークは情報通信技術を利用するので労務管理も「情報通信技術を活用して円滑に行うことも可能となる」ともしている。
 労働時間を客観把握できないようなテレワークは禁止するべきである。ところがガイドラインでは、自己申告による労働時間把握をわざわざ容認している。労働時間管理を怠ったり、不払残業を黙認するような使用者への配慮としか思えない。自己申告時間と、パソコンの使用状況と著しく乖離している場合などで労働時間を補正することは、テレワークでなくても当然するべきことである。ところが、ガイドラインでは、使用者がそうした努力を怠った場合でも、以下の通り、わざわざ使用者を免責する。

 なお、申告された労働時間が実際の労働時間と異なることを(中略)使用者が認識していない場合には、当該申告された労働時間に基づき時間外労働の上限規制を遵守し、かつ、同労働時間を基に賃金の支払等を行っていれば足りる。

6 長時間労働対策について

 ガイドラインでは長時間労働対策として、時間外のメール送付の抑制や深夜や休日のシステムへのアクセス制限があげられている。テレワークの場合、これ以外の方法で長時間労働を制限することは困難である。

7 チェックリストの充実を

 ガイドラインは別紙で「テレワークを行う労働者の安全衛生を確保するためのチェックリスト【事業者用】」と、「自宅等においてテレワークを行う際の作業環境を確認するためのチェックリスト【労働者用】」を紹介している。ただしそれらは、あくまでも安全衛生に絞った内容で、とくに労働者用の方が「作業環境確認」だけに絞られている。せっかくのチェックリストなのだから、ガイドライン全体の項目についてチェックしていきたい。