省庁交渉2021へZOOOOMイン!『希望』という名の明日へつなぐ


中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会
 6月18日、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会による省庁交渉が実施された。昨年は新型コロナ感染症の影響で中止となり、2年ぶりの実施であった。オンラインによるパソコン画面越しの交渉ではあったが、中皮腫患者や遺族の切実な要求を強く求めたが、各省庁の担当者(特に環境省石綿健康被害対策室)の回答は同じ発言を繰り返し、誠意のないその場しのぎの対応に終始した。一般視聴参加も含めて参加人数は65人であり、オンラインならではの全国各地からの参加となった。本文にある通り、今年度は石綿健康被害救済制度の見直しが行われるので、多くの課題解決に向けて取り組んでいきたい。
 以下、患者と家族の会の「要望書」に沿って交渉内容を紹介する。【鈴木】

要望1 当事者の参加と政策決定

 石綿健康被害に係る各種検討会・審議会において被災当事者の参加が極めて限定的。民間領域では日本肺癌学会の胸膜中皮腫ガイドライン作成に参画したり、「日本石綿・中皮腫学会」の市民公開講座に協力して取り組むなど意思決定や情報発信における当事者の役割を重視しています。以下の事項についてご対応下さい。

 ①厚生労働省、環境省におけるアスベスト健康被害にかかる各種検討会・審議会において、患者と遺族の当事者参加を徹底してください。
 【理由】アスベスト健康被害に関する国の委員会には患者や家族などの当事者はほとんど参加していません。中央環境審議会石綿健康被害救済小委員会には、09年からは当事者も参加している石綿対策全国連絡会議から委員が参画するようになり、16年には遺族が参画してきました。21年夏以降に予定されている同委員会には患者と遺族の参加を求めていきます。

 ②肺がんをはじめ中皮腫も治療環境が大きく変化しています。日本石綿・中皮腫学会や胸膜中皮腫ガイドラインを作成している日本肺癌学会などから推薦された医師を委員に参画させてください。
 【理由】アスベスト健康被害に関する国の委員会には、これまでにもアスベスト疾患に対して知見を有する一部の医師の参画がありました。しかし、関係学会を代表する形での委員参画はこれまでにありません。中皮腫や肺がんについて治療環境が変化してきており、治療や研究に取り組む医師も世代交代が進んでいます。

 ③東京都をはじめ道府県や市区町村レベルでは、がん患者支援団体の情報を積極的に発信しているにも関わらず、厚生労働省、環境省、環境再生保全機構は中皮腫や肺がんの療養支援に関わる当事者団体と連携した取り組みを拒まれています。直ちに見直して下さい。
 【理由】都道府県や政令指定都市ではがん対策基本法に基づき患者支援団体の情報をホームページや冊子で積極的に広報しています。しかし労働基準監督署や環境再生保全機構は、患者支援活動に係る情報を一切周知せず、患者や家族同士が支え合うピア・サポートの取り組みを支援していません。

 ▼回答(厚労省労働基準局労災補償課)/医学の専門性ある者を選任している。
 ▼回答(環境省石綿健康被害対策室)/石綿健康被害救済小委員会には様々な方に委員になってもらい議論を重ねてきた。石綿対策全国連絡会議からも委員が参加している。引き続き幅広い方々のご意見を聞いて議論を進めていきたい。
 ▼回答(厚労省健康局がん疾病対策課)/全ての検討会で患者や患者支援団体の方に参加してもらっている。できる限り当事者の意見を反映するよう意見の把握に努めている。引き続き進めていきたい。

 ▼中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会/厚生労働省がん対策推進協議会は委員20名のうち患者4人がメンバー、厚労省過労死等防止対策推進協議会は委員20名のうち当事者4人がメンバー、内閣府障害者政策委員会は委員30名のうち当事者団体代表16人がメンバー。一方、石綿健康被害救済小委員会は委員10名のうち当事者は1名しかおらず、他省庁に比べ当事者の参加が確保されていない。また、中皮腫の最新の治療研究をしている医師も中皮腫ガイドライン作成メンバーの医師も入っていない。日本石綿・中皮腫学会からの推薦もない。改善を求める。
 環境再生保全機構のウェブサイトに患者団体の情報が全く載っていない。
 ▼回答(環境省石綿健康被害対策室)/他省庁と単純比較はできない。引き続き適切な委員の選定に努め、当事者の意見は聞いていきたい。環境再生保全機構ウェブサイトの件は持ち帰り検討したい。

要望2 中皮腫治療法の推進

 18年に免疫チェックポイント阻害剤のオプジーボが承認され、中皮腫患者をとりまく治療環境が変化してきたが、今だ予後の厳しい疾患。今後の治療環境を改善させる研究等も進められており、その加速が求められます。以下の事項について迅速にご対応ください。

 ①石綿被害救済法第1条を改正し、治療研究分野に石綿健康被害救済基金を活用できるようしてください。
 【理由】石綿健康被害救済基金は、06年に施行された石綿健康被害救済法で定められ、同法の認定者に対する給付のために国・地方公共団体・労災保険適用事業主(約260万事業所)・特別事業主(ニチアス、エーアンドエーマテリアル、太平洋セメント、日本バルカー)によって財源が拠出されています。令和2年3月31日時点での同基金の負債純資産合計額は約800億円(参考:平成28年3月31日時点でも同程度の金額)。数年にわたって基金の残高はほぼ横ばい。一部の被害者が制度の申請をしていない問題はありますが、それを考慮しても余裕があり、患者の命と健康に直接的に関わる治療研究に使途を振り向ける必要があります。現在は、法律によって使途が限定されており、法改正によって条文の改正が必要です。

 ②国内で実施されたオプジーボとアリムタ、シスプラチンの三剤をファーストラインで投与する臨床試験の結果が20年9月に欧州臨床腫瘍学会で発表され、注目すべき結果が報告されています。また、米国FDAでは交流電場腫瘍治療システム(TTF)が認可されています。さらに、「がん悪液質における体重減少及び食欲不振の改善」を目的とした治療薬として一部がん種に対してアナモレリンが認可されています。これらを速やかに保険適用してください。追加の臨床試験が必要であれば、石綿健康被害救済基金を活用するなどして治験費用を補助してください。
 【理由】近年、中皮腫をめぐる治療法と研究が進展し、歴史的にみれば大きな変革期にあるといえます。具体的かつ有望な治療研究がありながら、研究費調達の目処が立たずに承認申請に至るまでの治験が実施できていません。中皮腫は希少がんであるために、治験の募集規模などに関して不利な面があります。

 ▼回答(環境省石綿健康被害対策室)/疾病の治療研究に関することは厚労省の管掌であり、石綿健康被害救済基金として拠出された金員を他の目的に使用する事は難しい。石綿健康被害救済制度で得た情報は関係省庁と連携していく。

 ▼中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会/厚労省はお金の出所はどこでも良いと言っている。中皮腫の専門医も厚労省に丸投げするなと言っている。
 ▼胸膜中皮腫の患者/胸膜中皮腫の診断を受けた。良い情報が無かったが、患者会から宇部医療センターのことを知り、手術したが胸部のリンパ節に再発。オブジーボの副作用で全身症状があり、つらい日常を送っている。私の体の状態をみて欲しい。新薬の開発、医師の育成をお願いしたい。仕事ができないので収入がない。労災保険と同等の平等な給付を求める。
 大きな手術を受け、仕事ができる状態でない。予後が悪く常に再発の不安があり精神的にも普通の生活が出来ない。再発後の治療方法は更に限られる。治療の選択肢が広がって欲しい。他人事と思わないで欲しい。
 患者の苦しみを分かって欲しい。何回も同じ答えは必要ない。教科書通りの回答はいらない。「検討する」と言ってその場しのぎでいつも終わり。患者は24時間、中皮腫と闘っている。もっと真剣に向き合って欲しい。事前に送った患者・遺族の手紙(その中の一つ、舘山亮さんの手記を15頁以降で紹介)を必ず読んで欲しい。
 ▼回答(厚労省医薬品審査管理課)/要望2②に関して、オプジーボとアリムタ、シスプラチンの三剤をファーストラインで投与する臨床試験は比較対象のない単群治験であり、有効性の評価は慎重に行う必要がある。承認申請については申請企業やPMDA(医薬品医療機器総合機構)と意見交換を行っていく。
 「がん悪液質における体重減少及び食欲不振の改善」を目的とした治療薬について、「一部がん種」以外のアナモレリン使用はリスクベネフィットバランスが十分に評価されていない。今後の適用拡大については、リスクベネフィットバランスが良好であると説明できる科学的データが必要。今後、申請企業とのやり取りの中で、他のがん種での要望について伝えていき、適用拡大について企業から申し込まれた際にもPMDAとともに対応していく。
 ▼回答(厚労省医療機器審査管理課)/要望2②に関して、「交流電場腫瘍治療システム」については、悪性中皮腫では企業から相談や申請がされていないが、今後相談や申請があればPMDAと共に対応していく。
 ▼中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会/オプジーボが効かなくなり、これ以上の治療がないと患者の切なる訴えがある。これらの薬や機器に関し企業から承認申請があれば早期に承認をお願いしたい。

要望3 石綿救済法の療養手当をはじめとする給付

 制度設計時から、石綿健康被害をとりまく社会状況は大きく変化しています。例えば、労災認定者や労災認定事業場は増加の一途をたどり、一部の被害者に対しては国や企業に対して裁判所から賠償が命じられています。直近では、21年5月17日に最高裁判所が建設労働者らに対する国の責任を認定しています。国については司法で規制権限不行使が認められている点について、適時かつ適切に対策を施していれば、労働環境から周辺環境(地域・家庭)に石綿が飛散したり、社会全体に石綿が流通するのを防ぐことができたはずです。責任のあり方について、改めて検討した上で以下の事項についてご対応ください。

 ①建設アスベスト補償基金制度を早急に創設し、建材メーカーを加えて、職種を問わずできるだけ多くの被害者の救済をしてください。
 【理由】建設アスベスト訴訟では国と一部の建材メーカーの責任が認められましたが、屋根工などの屋外建設作業従事者に対する責任が認められませんでした。職種による差別をしない形の建設業従事者に対する救済が求められます。政府において、建設アスベスト被害者救済基金制度の検討がされていますが、職種差別を無くし、建材メーカーの責任を前提として関係各社を費用負担させる形での仕組みづくりが必要です。なお、建設アスベスト訴訟の原告がそうであったように、この救済金制度の受給者は労災保険制度等または石綿健康被害救済制度から給付を受けていることが想定されます。救済金制度自体に格差を設けなかったとしても、言わば土台にあたる2つの制度の格差は依然残されており、解決が求められています(次項目)。

建設アスベスト補償基金制度の創設を

 ▼回答(厚労省労働基準局)/「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」の施行の準備を進めている。同法には建材メーカーについての検討規定がある。判決で示されたメーカーは一部であり、判決で認められたメーカーも、認められなかったメーカーもある。与党PTでの検討を踏まえながら、経済産業省と対応していく。
 屋外作業については同法で定められていないが、「主に屋外作業」であってもそれぞれの作業実態を踏まえて、新しい制度の審査会で適切に対応する
 ▼回答(環境省石綿健康被害対策室)/建設アスベスト訴訟については厚労省で対応する。石綿健康被害救済制度は関係がない。
 ▼大阪建設アスベスト訴訟の原告/労災保険と石綿被害救済給付の平等な扱いを求める。石綿被害救済給付にも遺族補償をつくるべきだし、療養手当は増額し労災保険並みの給付が必要。

石綿健康被害救済給付の増額を求める

 ②最低限の生活保障がされた上でなければ、現行の療養手当も制度で定められた本来の使途に対して適切に使用できません。石綿健康被害救済制度を「救済」から「補償」に変える抜本的な見直しに着手してください。それが直ちに困難であるとしても、少なくとも石綿健康被害救済法1条を改正し、「被害者の健康で文化的な生活の確保」を明記した上で、例えば生存権を確保するために生活保護費(単身者)を参考にして療養手当の倍増を図るか、新たな給付を設けてください。その上で、消費税や物価変動に対応するため、給付額の見直しのための検討の場を毎年設けてください。
 【理由】私たちは、労災保険制度との関連で公平・公正なものとなる石綿健康被害救済制度を求めてきました。今春、専門家らによる研究会が「責任」を基礎にして公害健康被害補償法と同レベルの補償を給付する制度が必要であると提言しています(吉村良一「アスベスト被害救済制度のあり方」『環境と公害』50巻4号)。また、建設アスベスト訴訟において、アスベスト禁止が遅れたことの国の責任を認めた大阪高裁判決の内容が確定すると共に、21年5月17日の最高裁判決が(建設作業従事者のみ対象にした規制措置ではない)禁止実施まで規制権限不行使が解消されなかったと判示し、さらに石綿健康被害救済制度の対象である一人親方・中小事業主に対する国の責任も認めたことは、あらためて制度を見直す必要があると受け止めるべきです。
 石綿救済法の目的は同法逐条解説によれば、「国民の健康で文化的な生活を確保すべき責任を負う政府の立場」を踏まえ、被害者へ「健康被害による経済的負担の軽減を図るべく行われるもの」であるとされています。現行の療養手当は医薬品副作用被害救済制度や原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律を参考に月額10万3870円とされていますが、これは入通院に伴う経費的要素として3万3900円、介護手当的要素として6万9970円として算出された合計になります。医薬品救済制度や原爆援護法では、このような給付の他に疾病を発症したために就労等ができなくなった場合の補填的な要素を考慮した手当がありますが、石綿救済法にはありません。具体的には以下のとおり。
 医薬品副作用被害救済制度は「⺠法上の損害賠償責任とは切り離した新しい発想に基づく救済とし、原則として誰にも賠償責任が無い場合の救済を目的」として医薬品製造事業者の社会的責任として制度設計されています。「救済⽔準は社会的に妥当と考えられる」ものとされ、「障害年金」(障害の状態によって月額18万円ないしは月額22万5000円)も支給されています。国の責任も、医薬品の許認可に関わる立場であることや産業政策上の関わり、社会保障的見知から位置付けられているために事務費の一部を拠出しています。
 原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律は、「国の責任において原子爆弾の投下の結果として生じた放射線に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることに鑑み」、悪性腫瘍などの発症者に一定条件で医療特別手当(月額14万2170円)が支給されています。生活保護の支給額は、世帯数や年齢、居住地域によって異なりますが単身者の場合の生活扶助は概ね6万円〜8万円となっていて、住宅扶助は概ね3万円〜5万円となります。さらに石綿救済法施行時は消費税率は5%でした。また、原爆援護法や医薬品副作用被害救済制度では、全国消費者物価指数を参考に毎年度改訂されています。先般の建設労働者に係る裁判の判決において損害が認められた原告の中には、労災認定されない被災者もおり、必要最低限度の保護がされていない状態です。療養手当の見直しは、そのような被災者にとっても重要な課題となります。

 ▼回答(環境省石綿健康被害対策室)/石綿健康被害救済制度とは、個別の因果関係を特定するのは困難なため民事上の責任とは切り離して、社会的に救済していくという制度。原爆被害者援護制度の入院費に基づく諸経費を判定した健康管理手当に加えて、介護費を加味している。今後、石綿健康被害救済給付の被認定者の介護実態調査結果を踏まえて石綿健康被害救済小委員会で議論していく。

 ▼中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会/医薬品副作用被害救済制度と原子爆弾被爆者援護制度と比べても給付水準が低い。石綿健康被害救済小委員会メンバーの法学者についてもアスベスト被害について詳しい学者を入れるべき。
 ▼回答(環境省石綿健康被害対策室)/繰り返すが、個別の因果関係を特定するのは困難なため民事上の責任ではなく、救済するという制度。多制度との均衡を考慮して制度設計した。小委員会のメンバーは適切に選任し、幅広く意見を聞いていく。

現役世代の生活困窮実態と遺族給付の新設

 ③年間の世帯収支合計が発症前に比べて200万円以上も減額になったとする調査結果があります。同調査では、働き盛りの50代では顕著に経済的困窮の割合が高くなることが確認されています。発症前の所得状況などを加味し、一部の条件に該当する患者には「特別療養手当」「療養者家族手当」等を支給してください。
 【理由】中皮腫サポートキャラバン隊が19年度に実施した中皮腫患者へのアンケート調査(回答数88名)では、50代を中心に発症後の世帯収入の減額傾向が顕著に現れていました。現行の療養手当とは別に、最低限の生活保障を担保するため、発病前後の所得などを考慮して不足部分に対して一定の補填をする必要があります。

 ④交通費、差額ベット代、介護保険制度の利用に係る実費について一部の条件に該当する患者には「療養支援手当」を設定して支給してください。
 【理由】療養手当は本来の目的とかけ離れて、実態としては生活用品等に優先的に使用されます。そのようなことから、中皮腫患者さんの中には通院にタクシーを利用せず、自転車のカゴにポータブル酸素を乗せて通院する患者さんもいました。交通費はもちろん、保険対象外の医療・介護サービスに係る費用(月単位)は一定額を超えた場合には実費を支給すべきです。

 ⑤救済給付調整金とは別に、遺族に対して年金ないしは一時金、および就学時のいる家庭には就学援護費を支給してください。
 【理由】石綿健康被害救済制度では、遺族に対して葬祭料(約20万円)のほか、療養中の被災者に支給された医療費と療養手当およびご遺族に支給した未支給の医療費等の合計金額が280万円に満たない場合に、その差額が遺族に対し支給されています。仮に、被災者療養中の給付の合計が280万円を超過したのち、本人が死亡した場合には遺族には葬祭料しか支給されません。全部ないし一部支給される遺族においても、あくまでも被災者本人の療養に伴う給付が支払われている意味合いとなります。家族が中皮腫等に罹患し、家計等に大きな影響が出る家計もあります。労災では遺族年金ないしは遺族一時金が支給され、条件に応じて就学援護費の支給もあります。

 ▼回答(環境省石綿健康被害対策室)/③④⑤まとめて回答。繰り返すが、石綿健康被害救済制度は、民事上の責任を離れて、社会全体でより迅速な救済を図る制度。補償的色彩の強い生活保障的な給付である「特別療養手当」「療養者家族手当」「遺族年金・一時金」を採用するのは困難。

 ▼中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会/制度設計以降、泉南や建設の訴訟を経て、国の責任が明確になった。救済ではなく補償とするべき。現役世代は労災保険ではなく、石綿ばく露不明により石綿健康被害救済制度の適用が多い。仕事を失うので生活が苦しい。中皮腫サポートキャラバン隊で中皮腫患者にアンケート調査を行った結果、困窮を感じる人が30歳代で50%、40歳代で75%、50歳代で77・8%、60歳代で43・3%であった。発症によって世帯収入が減ったのは30歳代が66・7%、40歳代が71・4%、50歳代が94%、60歳代が75%いる。特に50歳代の70・6%が200万円以上減少したという調査結果が出た。
 韓国では平均年収をもとに救済金を計算し救済額に換算している。韓国も制度発足当時は日本と同等だったが毎年見直しを行った結果、今は月約15万円の給付水準となっている。日本も制度の発足以降、消費税率や物価指数や社会保険料、最低賃金なども変わり、全てが上がっている。患者が生活できる金額設定が必要。
 ▼中皮腫遺族/38歳で夫が逝去。労災保険の遺族年金は年240万円。石綿健康被害救済給付は280万円で終わり。同じ病気で亡くなっているのにこの格差はおかしい。制度発足時から一切改善されていない。
 夫が中皮腫で逝去。2年間の闘病生活は大変でした。他人事だと思わないで欲しい。自分のことと思って真剣に考えて欲しい。私たちは命や生活がかかっている。まだ知らない人が多いので周知すべき。経済が優先された。傷病手当金は1年半で打ち切り。夫の看護のため私の収入も減った。生活保護よりも低い。生活が出来ない。葬祭料以外なにもない。「因果関係が明確でない」という先ほどからの回答にとても悲しくなる。アスベストが無ければ希望を持って明日を生きていけた。

要望4 石綿健康被害の補償・救済の促進

 石綿健康被害者は労災制度や救済制度で補償・救済が図られていますが、「すき間のない救済」を徹底するために以下の事項について迅速にご対応ください。

 ①労災時効となった遺族を対象とした特別遺族給付金について、一部被災者(16年3月27日以降の死亡者遺族)の請求権が無くなっており、22年3月28日以降はすべての対象者の請求権が無くなってしまいます。法改正をして請求権を無期限で延長してください。また、船員保険受給者の遺族補償に関して、年金受給している遺族がいない場合は同給付金の対象として一時金を支給してください。
 【理由】労災保険制度では、被災者死亡の翌日から5年が経過した時点で遺族補償給付の請求が時効となります。アスベスト被害は、本人や遺族が当該疾病診断後にもアスベストばく露との関係性に意識がなく、労災請求しない事例も珍しくありません。そのような背景から、労災時効遺族に対して石綿健康被害救済法において労災時効救済制度を設けてきました。さらに近年でも、労働基準監督署の担当者が「事業主なので労災保険は適用外」との断定的な教示だけをして、特別加入状況や独立以前の就労状態などを確認しないために労災遺族給付の請求権が時効となってしまった事例が確認されます。同様の事例は全国的な問題であると認識しています。これまでに過去2回、請求期限が延長されてきましたが、22年の請求期限に関しては延長の予定がありません。令和元年度の実績として43件の請求、23件の支給決定がありました。船員保険の遺族給付は遺族年金のみで、被災者死亡後は5年以上経過していても、5年間さかのぼった時点からの遺族年金が支給されます。しかし、遺族年金受給者がいない場合で、特別遺族給付金で指すところの遺族一時金受給者がいたとしても何の給付もありません。

 ②石綿救済制度の特別遺族弔慰金・特別葬祭料にかかる法施行前の中皮腫および肺がん死亡者の遺族の請求権が22年3月28日以降に無くなってしまいます。法改正をして、請求権を無期限で延長してください。
 【理由】石綿健康被害救済法では、労災時効救済以外にも、そもそも労災の対象とならない被災者遺族に対する給付もされています。06年3月27日の法施行日以前に亡くなった被災者遺族の請求権はこれまでに過去2回にわたり延長されましたが、22年の請求期限に関しては延長の予定がありません。令和元年度の実績として18件の請求、12件の支給決定がありました。

 ▼回答(厚労省労働基準局労災管理課)/請求期限について一定の整理が必要。船員保険については回答を準備していない。
 ▼回答(環境省石綿健康被害対策室)/制度の周知をして期限内に未請求者の解消に努めていきたい。

 ▼中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会/法改正をして請求権を延長するという事か?
 ▼回答(環境省石綿健康被害対策室)/立法府の考えを踏まえながら考えたい。

死亡診断書の5年廃棄問題について

 ③中皮腫の死亡年別の死者数に対して、労災や救済法における認定者数は高い年でも7割未満です。厚労省、環境省で過去に実施した個別周知事業を再度実施してください。あわせて、引き続き各法務局での死亡診断書の原則27年間保管を徹底し、人口動態調査における「死亡票」も活用してください。
 【理由】戸籍法施行規則で死亡診断書の保管が定められているが、特例によって5年廃棄をする事例が一部の法務局(全国50ヶ所)で発生していました。これによって正確な死因が証明できず、労災時効救済の対象となり得る遺族の請求に著しい困難が出た問題もありました。厚生労働省は統計調査の関係で、死因等が特定できる「死亡票」を電子データを含めて保管していますが、個人情報の関係で利用に制限がかけられています。

 ▼回答(環境省石綿健康被害対策室)/平成21年の戸籍法改正により、死亡個票の個人情報の収集が出来なくなった。石綿健康被害救済制度の周知に努める。
 ▼回答(法務省民事局民事第一課)/死亡診断書の27年間保存を求める事務連絡を発出した。引き続き地方法務局に求めていく。

石綿肺がんが補償・救済されていない

 ④石綿健康被害救済制度における肺がんの認定者は中皮腫1に対して0・15(労災は0・73)。石綿健康被害救済基金の残高が積み上がっている原因にもなっています。判定基準が労災制度に対して厳格すぎて、申請・認定が進んでいません。肺がんの判定基準に「石綿ばく露歴」を取り入れ、労災相当の基準としてください。
 【理由】石綿健康被害救済制度設計時、中皮腫と同程度の割合で認定者が出ると想定されていました。石綿関連疾患の国際的な診断基準などを定めたヘルシンキ・クライテリアでは少なくとも中皮腫に対して2倍の石綿肺がん(職業性アスベストばく露を原因とする)が発生するとされています。国際的にはそれを上回る水準でアスベストを原因とする肺がんの被災者がいるとされています。

 ▼回答(環境省石綿健康被害対策室)/石綿による肺がんは、ばく露歴を厳密に調査するのには限界があるので画像所見や病理学的な所見から判断している。

 ▼中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会/肺がんの認定率が低い。石綿ばく露歴を考慮すべき。
 ▼腹膜中皮腫の患者/石綿健康被害救済制度や労災保険制度について知らない患者が多い。私も主治医から教えてもらって初めて知った。中皮腫の35%の方がどちらの補償救済も受けていない。社会保障制度は自己申告制度なので、知らない人は申請に結びつかない。患者登録制度などを活用し、患者に周知する仕組みが必要。病院のリーフレットは目につかない。韓国では国が患者に通知する仕組みとなっている。
 ▼回答(厚労省労働基準局労災補償課)/様々な形で周知していきたい。医師にも制度や病気について周知していきたい。

良性石綿胸水、卵巣がん、喉頭がんの石綿認定疾病への追加を求める

 ⑤国際がん研究機関(IARC)をはじめ国際機関において卵巣がん、喉頭がんとアスベストばく露の関連性が指摘されています。労災保険制度における認定疾病に追加してください。
 【理由】複数の国際機関で、当該疾病とアスベストばく露との関連性が指摘されています。肺がんと同程度の基準を設けるなどして、認定疾病に追加することが求められています。

 ⑥石綿救済制度では、良性石綿胸水、卵巣がん、喉頭がんを対象疾病に追加してください。
 【理由】労災保険制度では良性石綿胸水が対象疾病に定められています。発生数が相対的に少なく病態等の解明が不十分ですが、労災対象とならない一人親方等の場合で良性石綿胸水を発症した場合は救済されません。なお、疾病名の「良性」は必ずしも罹患者の身体症状に問題がないという意味にはなりません。

 ▼回答(厚労省労働基準局労災補償課)/国際がん研究機関の報告は承知している。医学的関連性を明らかにするため医学専門家による検討会にて検討している。中皮腫、肺がん以外のがんについて因果関係が確立した知見はないと考える。
 ▼回答(環境省石綿健康被害対策室)/一過性の疾患である良性石綿胸水は石綿健康被害救済制度の対象としていない。卵巣がん、喉頭がんについて医学的な議論の進展を注視していきたい。

石綿小体・石綿繊維の計測費用と石綿健康被害救済申請の医師の負担軽減

 ⑦石綿救済制度において、申請者が医療機関等に証明などを依頼した際に発生する文書費用、石綿小体・石綿繊維の計測費用について支給してください。
 【理由】申請前の石綿小体・石綿繊維の計測は、病院のサービスとして実施するか、数万円程度の「自己負担」によって依頼することになります。肺がんの申請・認定数を鑑みれば、これらの費用について補助し、申請を促すことが必要です。

 ▼回答(環境省石綿健康被害対策室)/適切な医療費の支給に努める

 ⑧石綿健康被害救済制度の申請に医師の証明を必須とせず、申請を受付けて審査が可能にしてください。
 【理由】肺がんについては、「石綿が原因であることの根拠」の記載が医師に求められています。石綿を原因とする肺がんの場合、例えば、「胸膜プラーク」の有無に関する診断は重要な指標となりますが、医師によって判断が分かれることも珍しくありません。医師の証明が得られない場合、それが実態的に誤ったものであっても、申請者は証明が得られないということで申請を断念してしまいます。

 ▼中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会/石綿健康被害救済申請の審査が非常に遅れているので、審査を速やかにするべき。月あたりの検討会の回数を増やすことは出来ないのか?
 ▼回答(環境省石綿健康被害対策室)/医師の診断は必須となる。審査はウェブ会議で月4回の判定会議を行っており、改善に努めている。

 ⑨労災制度および石綿健康被害救済制度における医師証明の共通フォーマットを作成し、現行のと併用して活用するなど現場の医師の負担を軽減してください。
 【理由】両制度において医師の所見等を記載する書式は別々。両制度に請求・申請する請求人もいます。医師も通常業務の間を縫って書類作成に協力してくれます。医師の負担を軽減し、より積極的な制度への勧奨につなげ請求・申請者の増加を図ることに繋がります。

 ▼回答(厚労省労働基準局労災補償課)/医学的資料が一致しない所もあるが、現場の医師の負担軽減については検討していきたい。
 ▼回答(環境省石綿健康被害対策室)/医学的資料が一致しない所もあるが、現場の医師の負担軽減は検討したい。厚労省と連携して円滑な運用に努めたい。

 ▼中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会/終わりの言葉。今日の要望について前向きに検討して欲しい。今日参加できない視聴者の声もあり、これからも要望を伝えていくのでよろしくお願いします。