「石綿肺」の労災遺族補償
「石綿肺」の労災遺族補償が不支給に!
斎藤洋太郎(アスベストセンター、職業性疾患・疫学リサーチセンター)
「石綿肺」と診断を受けたのに、亡くなった時の直接死因が「間質性肺炎の急性増悪」だとして、労災補償から切り捨てられる事案が今、続出している。Aさんもその一人。Aさんは生前、じん肺が決定されなかったが、死後解剖し、産業医科大学で「石綿肺」かつ「胸膜肥厚斑」と診断されたのに、労災の遺族補償がされず迷走している。
■「石綿肺ではない」として不支給に
Aさん(1932年生)は47年から77年に日本板硝子の若松工場で、「高熱作業や粉じんとの格闘」と言われる窯の定期修理に従事。石綿や耐火煉瓦の粉じんにばくろした。さらに、81年から92年には千葉工場で強化硝子の製造に従事。加熱炉で、石綿や硝子の粉じんにばくろした。
Aさんは2013年に逝去。死亡診断書の直接死因は「間質性肺炎急性増悪」だったが、解剖所見は、「胸膜肥厚斑形成を伴い、石綿肺としても矛盾ない」等とされた。しかし、遺族が千葉労基署に労災補償を請求したところ、「石綿肺でない」として不支給となった。
■お粗末な本省協議
そこで、労組、神奈川センター、ひょうごセンター、アスベストセンターが代理人となり審査請求を行った。その結果、審査官は、監督署に差し戻し、本省(厚生労働省)協議するよう指示した。ところが、石綿確定診断委員会における鑑定や本省協議もお粗末だった。肉眼でも胸膜肥厚斑が認められるのに、それには一切触れず、胸部CTで「明らかな胸膜プラークを認めない」と言うのみ。
胸膜は元来とても薄く、石綿ばくろにより肥厚しても画像に写りにくい。しかし、胸膜肥厚斑が存在すれば肉眼で確認できる。画像に見えないから胸膜肥厚斑が存在しない、というのは本末転倒な話である。
■審査官の独裁で審査請求も棄却
Aさん遺族は、関西の水嶋潔医師、関東の藤井正實医師の意見書や画像を提出し、不支給処分の取り消しを求めたが、千葉労働局の水越審査官は、鑑定もせずに審査請求を棄却した。審査官の独裁としか言いようがない。
決定を見ると、肉眼で胸膜肥厚斑が確認されたのに、画像に見えないからその存在が確認できないという間違った判断をしていた。また、硝子粉じんによる珪肺があるのに、珪肺とは無関係な石綿確定診断委員会の意見を盾に、珪肺も否定。審査官は、職業性呼吸器疾患に対する基本的な知識を欠いている。
■一日も早く原処分の取り消しを!
本件は、見解の相違ではなく、不服審査手続き自体に問題を残す事案であるとして、福島瑞穂参院議員や高橋千鶴子衆院議員のところに厚生労働省を呼び、善処を要求した。
現在、労災の再審査請求にかかっており、じん肺・石綿肺=間質性肺炎をめぐる大事な案件となっている。一日も早い原処分の取り消しを求める。