上司のパワハラにより「うつ病」アパレル店長の労災認定

上司のパワハラにより「うつ病」発症、休業中
アパレル店長のTさん、労災認定
ユニオンが、防止対策と職場改善を要求

株式会社アルページュが経営する神奈川県内の婦人服販売店で店長を務めていたTさんは、15年4月、上司からのパワハラ等が原因でうつ病になり休業を余儀なくされた。会社規程の休職期間(わずか1ヶ月)を過ぎて自主的な退職を求められたことをきっかけに、よこはまシティユニオンに加入し、労災認定と解雇保留を求めた。しかし会社は解雇を強行。Tさんは15年10月に横浜北労働基準監督署に労災請求し、16年5月に業務上認定された。ユニオンは、解雇を撤回させ、団体交渉を再開し、Tさんの名誉回復や予防対策、職場改善等を要求している。【川本】

■パワハラとノルマ

パワーハラスメントを理由に労災請求する人は多い。15年度の精神障害の労災請求1307件中169件が、職場で「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」ことを理由としたもので、約13%を占める。ところが、精神障害の出来事別の労災認定件数を見ると、業務上になった210件中、嫌がらせ等を理由にしたものは14件で7%弱だ。
実は労災認定基準では、嫌がらせ等について、心理的負荷は「強」と位置付けられ、業務上になり易いが、程度に対する労基署の評価が低いようだ。
Tさんの場合、何ら人事権を持っていないにもかかわらず、上司からスタッフが退職したことの責任を問われたり、しかもその際に「あなたの見た目や性格がきついから」などというひどい言い方をされたことなどを主張した。率直に言って、それだけでは、「継続性がない」等の理由から、必ずしもひどい嫌がらせと評価されない可能性が高い。そこで、研修発表の際の理不尽な批判など、さまざまな嫌がらせを、Tさんは監督署の聴取で述べた。また、本人の主張だけでは、「そのような事実はない、確認できなかった」とされかねない。実際、団体交渉の席で会社は、「社内調査の結果、パワハラはない」と主張している。そこで労基署は、関係者への聴取に加え、郵送による他の店長らへのアンケート調査を行ったようだ。その結果、Tさんへの嫌がらせ等は「強」と評価された。
ノルマについては、労災認定基準では、「達成困難なノルマが課せられた」場合に心理的負荷は「中」で、達成困難で重いペナルティが課せられているような場合でないと「強」とされない。Tさんの場合、前年比1%増だったノルマが、発症前年の秋頃から10%増という「達成困難なノルマ」になったが、Tさんは努力してそのノルマを達成してしまった。会社も団体交渉で、Tさんの優れた販売能力を認めている。労基署は認定基準通り「中」と評価し、上記のパワハラの「強」とあわせて総合評価を「強」とした。

■解雇撤回させ、予防対策と職場改善も要求

労働基準法19条では労災休業期間中の解雇は禁止だ。Tさんは労災認定された以上、解雇撤回は当然である。ユニオンは16年6月1日、会社に対し、労災認定の事実を伝え、解雇撤回を要求した。
これに対し、会社は、まず本人に会って健康状態や今後のキャリアについて要望を聞きたいなどと回答してきた。
そもそも休職期間が最長3ヶ月で、休職期間中の健康把握の仕方も定めておらず、職場復帰に向けた手続き規定もない会社が、健康状態や今後のキャリアについて聞きたいなど、的外れも甚だしい。まずは解雇撤回が先だ。と、管理部長に電話で説明を繰り返し、ようやく7月1日付で解雇は撤回された。
ところが、さらに管理部長名で、ユニオンに、Tさんの主治医あての診断書発行依頼書が届いた。健康状態を把握するのが使用者の義務だと言う。本人の同意もなく突然、部長がききたいと言っても医師は守秘義務もあるので無理、例えば厚生労働省が出している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」などを参考にして、産業医から主治医に意見を求めてもらいたいと要請した(以後同様の依頼はない)。
ユニオンは、会社に対し、謝罪や損害賠償に加え、事実経過(発症原因、労災認定、解雇撤回など)を全労働者に情報提供すること、厚生労働省作成の「パワーハラスメント対策導入マニュアル」等を参考にした研修を実施すること、販売管理・店長への指導方法等を改善することを要求している。無理なノルマを課したり、パワハラ管理職を放置する会社のあり方そのものに問題があると考える。
Tさんは、体調は優れないながらも、きっぱりと次のように述べている。「周りの人から、私が具合が悪くなって仕事を辞めたとしか思われていない事が悔しいです。他の店長やスタッフも苦労しているのは間違いありません。こういう会社のあり方自体をきちんと正したいと思います」。