職場のいじめ・パワハラ・セクハラ全国一斉ホットライン

全国7ヶ所(北海道、東京、山梨、愛知、三重、大阪、福岡)

計38件の相談に対応 センターとユニオンが協力して実施

 9月14日、当センターも協力して左記のような趣旨で全国一斉の「いじめハラスメントほっとライン」が開催された。マスコミ対策が十分ではなかったこともあったが、計38件の相談が寄せられた。相談内容の詳細は紹介できないが、傾向は次の通り。
 労働時間を減らされる「経済的不利益」や口頭による「精神的な攻撃」が多く、退職を「促す」一手段になっている。社長や上司からの典型的パワハラもあったが、同僚や先輩からハラスメントを受けたという相談も少なくない。パートや派遣労働者からも相談が寄せられた。やはり労使交渉でしか解決できないケースが多い。【川本】

自殺予防週間にあわせ全国一斉ホットライン開設

 9月10日はWHOが定めた自殺予防デーです。日本においても9月10~16日は自殺予防週間と定められ、様々な取り組みが行われます。私たちは日常的に様々な労働相談に対応していますが、職場のいじめ・パワハラに関する相談は増加傾向で、過重労働から精神疾患を発症したり自死につながる相談も増えています。
 今回、自殺予防のために「負の連鎖」を断ち切る一つの手段として職場のいじめ・パワハラに悩んでいる方の相談を受けるためホットラインを開設します。今回のホットラインは全国一斉であり、全国の個人加盟の労働組合であるコミュニティ・ユニオン全国ネットワークのメンバーが協力して行います。新型コロナウイルスの感染拡大により、職場での差別やいじめも拡がっています。専門のスタッフが相談内容や要望に応じて職場改善や被害者の救済、労災申請の協力を行います。医師や弁護士など専門家の紹介も行います。職場のいじめ・パワハラで悩んでいる方々、困っておられる方々に少しでも役に立てればと考えています。

危険要因の連鎖を断ち切ることで自殺防止を

 わが国では1998年以来、14年連続で自殺者が3万人を超えていました。2012年からは3万人を下回りましたが、それでも年2万数千人の方が自ら命を絶つ状況が続いています。警察庁が発表した20年の自殺者数は21081人と、11年ぶりに増加に転じています。特に、女性や若年層が増加しています。新型コロナウイルスの感染拡大により、経済的に追い込まれたり、孤立に陥る人が増えたことが影響していると思われます。自殺者のうち「被雇用人・勤め人」は 6742人(全体の31・9%)で、自殺の原因・動機は「健康問題」32・3%、「勤務問題」23・1%、「経済・生活問題」16・7%となっています。警察庁や厚生労働省も「自殺の多くは多様かつ複合的な原因及び背景を有しており、 様々な要因が連鎖する中で起きている。」と分析しています。
◆パワハラ→休職→収入不足→うつ病発症→自殺
◆配置転換→過労+職場の人間関係→うつ病→自殺
◆昇進→過労→仕事の失敗+職場の人間関係→自殺
 働く人の自殺問題を考えるとき、労働条件や労働環境の改善を考える必要があります。企業の対策が一番遅れているのはこの点です。勤務問題から発生する危険要因に早く気付き、「危険要因の連鎖」をどこかの段階で断ち切り、自死を食い止めることは可能なのです。

パワハラ防止法施行後もパワハラは減ってない

 21年6月30日、厚生労働省は、20年度個別労働紛争解決制度の施行状況を公表しました。全国379ヶ所の総合労働相談コーナーに寄せられた相談のうち、民事上の個別労働紛争相談は27万8778件にのぼり、いじめ・ 嫌がらせに関する相談は7万9190件(全体の22・8%)と、9年連続トップとなりました。
 厚生労働省の委託事業として行われた「職場のハラスメントに関する実態調査」が取りまとめられ、本年 3月に報告書が公表されました。この調査は24000企業(回収率26・8%)と8000人の労働者を対象に20年10月に実施されたものです。
 企業調査の結果を見ると、「過去3年間に相談があった」企業は、パワハラ48・2%、セクハラ29・8%、顧客等からの著しい迷惑行為19・5%でした。過去3年間の相談件数の推移に関しては、セクハラ以外では「件数は変わらない」が最多で、ハラスメント相談が減っていないことを企業側も認識しています。労働者調査の結果では、「ハラスメントを受けた経験」について、一度以上経験した者の割合はパワハラ31・4%、顧客等からの著しい迷惑行為15%、セクハラ10・2%でした。「ハラスメントを知った後の勤務先の対応」について、パワハラでは「特に何もしなかった」が47・1%にものぼる回答でした。
 19年にパワハラ防止法が成立し、20年6月1日から職場におけるパワーハラスメントを防止する対策が事業主に(中小事業主は22年4月1日から)義務づけられました。しかし、この調査報告書からも、職場におけるハラスメントに対する防止対策の取り組みが遅れていることがわかります。

コロナ禍で拡がる職場のいじめ・嫌がらせ

 新型コロナウイルスの感染拡大により社会全体で差別やいじめが生じているといわれている中、東京大学大学院精神保健学分野による「新型コロナウイルス感染症に関わる全国労働者オンライン調査」が取り組まれています。新型コロナウイルス感染症に関連して職場で「嫌みを言われた」「嫌がらせを受けた」「避けられた」「責められたり非難された」「不本意に自宅待機させられた」の5項目に対し、「はい」か「いいえ」で回答を求める調査です。
 調査のまとめによると、1回目の緊急事態宣言終了までに、一般労働者は15人に1人、医療職は10人に1人がハラスメントを経験したと報告しています。ハラスメントの評価として、「はい」の回答が必ずしもハラスメントに該当するとはいえませんが、新型コロナ感染症により職場の人間関係がいびつになっていることは充分うかがえます。新型コロナウイルス第5波の感染拡大は全国的に、そして労働者世代(20~50歳代)の感染が増えており、先ほどの調査よりも更にハラスメントを受けた人は増えていると思われます。
 厚生労働省のホームページには新型コロナウイルスに関連したいじめ・嫌がらせ等が起きた場合の対応が掲載されています。しかし、その内容は充分とはいえません。コロナ差別をなくすため、現在起きていることを、ホットラインを通じて集約し、行政の取り組みへと反映させたいと考えています。

パワハラによる労災申請・認定は増加傾向

 厚生労働省は本年6月23日に、20年度に精神障害で労災認定された方が608人で過去最多になったと公表しました。仕事が原因で精神疾患を発症し労災請求する方は年々増加し、20年度は2051人でした。請求件数は2年連続で2千件を超えています。
 労災認定された608人のうち「パワハラを受けた」は99件(決定件数180件)にのぼり、「同僚等から暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」は71件(同128件)、いじめとまでは評価されなかったが「上司・同僚・部下とのトラブル」は23件(同493件)で、これらを合わせると193件(同801件)になります。精神疾患で労災認定された方の約32%は職場のパワハラやトラブルが原因となっています。精神障害の決定件数は全体で1906件なので、職場のパワハラやトラブルに関する労災請求が増加していることが、この数字からもわかります。
 パワハラに関する労災申請が増えている要因として、働く人々の人権意識の高まりがあり、職場での嫌な出来事を我慢せず、訴える傾向が強くなったことがあると考えます。もう一つは、職場で滅茶苦茶でとんでもないことが起きており、人間扱いされない労働環境の劣悪化が影響し止むを得ず声を上げていると考えます。相談者の訴えから、とんでもない職場実態や人間関係がいびつな職場環境がうかがえます。