勝利判決 確定!! Kさん(旧日立田浦工場)アスベスト裁判

 8月30日、横浜地裁横須賀支部にて日立パワーソリューションズを相手どったアスベスト損害賠償裁判判決があった。被告は2200万円を支払えという勝利判決。日立は控訴せず、9月15日付で判決は確定した。
早川寛(アスベストユニオン)

裁判に至る経過

 Kさん(80歳)は1941年2月18日生まれ、1961年9月に㈱日立田浦工場(当時)入社した。本人の意見陳述書によると、「製缶構造物の溶接班に配属され産業機械・発電設備等の製作に従事しました。当時は予熱後熱を必要とする金属を溶接する時にアスベストシートで保温しており相当濃密なアスベスト粉塵に暴露されていました」とある。ほとんどアスベスト対策はなかった。1999年3月退社し、2015年12月に悪性胸膜中皮腫を発症、2016年2月18日の誕生日に横須賀共済病院で胸膜剥皮術を受けた。同年、労災認定となった。
 Kさんは2017年1月、病床で知り合った人から紹介され、アスベスト加害企業に対し被害者への補償を追求しているアスベストユニオンに加入、日立パワーソリューションズとの団体交渉を開始した。会社は、上記のような作業内容やアスベスト対策の不十分さ、退職者でアスベスト被害者が複数発生していることを認めたが、Kさんへの補償内容や制度に関しては「日立製作所本社が検討中なので待っている」と答えるのみで誠意のある対応はなかった。そこでKさんは、やむなく2019年10月25日に裁判を提訴した。Kさんは意見陳述で、提訴に至った気持について次のとおり述べている。
 会社には当事者意識がゼロでした。会社の仕事によって体力が衰えた人の命をもてあそぶような、また死ぬことを待つような振る舞いや時間稼ぎは許せません。ですから日立パワーソリューションズを安全配慮義務違反で横浜地裁横須賀支部に提訴したのです。
 会社は日立本社のことを持ち出しています。しかし、それなら日立本社がアスベスト被害に対してきちんとすべきことです。世界的企業グループが人の命をないがしろにして平気だとは思いたくありません。
 これからもまだ同僚などからもアスベスト被害が出る可能性があります。私と同じような思いをさせたくありません。命あるうちに今しかないので会社は救う道を構築していただきたいと思います。

会社の主張

 裁判で、会社は団交での発言と違い、当時の職場におけるアスベストに関する資料は東日本大震災の津波で全てダメになったと主張した。労基署には資料として当時のアスベスト使用状況をイラスト入りで提出していたにもかかわらずである。
 また、最終準備書面で、Kさんは入社前の勤務先で石綿曝露し中皮腫になった可能性が十分にあり、会社業務との因果関係は立証されていない、アスベストによる中皮腫発生は1972年頃まで予見できなかったものであり、入社時から1972年までのアスベスト曝露については責任がない、仮に1972年以降に会社に安全配慮義務違反があったとしても、それ以前のアスベスト曝露の結果かどうか立証されていないから会社には責任がないと主張した。
 裁判所は和解協議を何回か設定。Kさんは、金銭解決というやり方には納得できなかった。被害が出るかもしれない人たちのためにせめて補償規定を作るように求めた。しかし会社は、補償規程を生存者に適用拡大しても、その改訂時期は日立本社と協議して進めるため明らかにできないという態度で、労働者に与えた深刻な健康被害について真摯に取り合おうとはしなかった。このため今年5月31日に結審、8月30日が判決日となった。

判決を迎えて

 私たちは、直接の当事者である日立パワーソリューションズはもとより㈱日立製作所(日立本社)の責任は大変重いとは考える。㈱日立製作所本体でこれまでにアスベスト労災認定された方はパワーソリューションズを含め100名近い。しかし、こんなに多くの被害者を出している㈱日立製作所は今まで何の責任ある態度もとっていない。
 現在、岐阜地裁では、日立製作所の笠戸工場で車輌製造に長年携わり、定年退職後に中皮腫を発症し労災となって亡くなった方の遺族の裁判が続いている。笠戸工場では30名以上がアスベストで死亡しており、車輌製造で大量のアスベストが使われてきたのは周知の事実である。亡くなった方は車両の配管の艤装工程を担っていたが、日立は「アスベストはなかった」と強弁し続けている。
 また、日立のアスベスト被害に対する補償は「退職後アスベスト労災死亡した場合は1000万円」とあるだけで、療養中や労災中に別の理由で死亡した場合、補償はない。
 私たちは団体交渉で、「療養中」も含めた補償制度を作るよう求めたが、日立パワーソリューションズは、「日立本社が検討中で」と繰り返すばかり。つまり、本社が動かなければ何も始まらない構造であり、子会社の補償制度についても本社が関与していることが明白であった。私たちは、改善を求めるため本年4月、日立製作所に対し団体交渉を申入れたが、現在も回答はない。
 建設アスベスト問題で、国は責任を認めて謝罪し、未提訴者救済金制度を創設した。本件はそれよりもはるかに会社側責任が明らかな事案であるにもかわかわらず、日本のリーディングカンパニーのひとつである日立本社がアスベスト加害の責任をとろうとしないのは、納得できない。
 今回の裁判が日立パワーソリューションズの一問題にとどまらず、日立製作所本社の反省と被害に対する誠意ある対応を促す一歩となるよう期待する。

判決確定の報せを受けて(原告K)

 今までの会社の対応を見ると、控訴してくると、長引くだろうと思っていました。「控訴せず」と報せを受けたときは「えっ」と思いました。日立本社にも団体交渉の申し入れを行ったことが、この結果に結びついたのかなと考えています。
 ただ今は、補償制度の見直しについての構築が全く見えていません。私のようにアスベスト被害を受けた退職者(労働者)や家族に対して、安心して暮らしていけるように、日立は誠意ある対応を、つまり新たな補償制度を作って頂きたいと思います。