解説動画「労災保険の審査請求」(川本浩之/神奈川労災職業病センター事務局長)

 センターには、労災保険の審査請求について非常に多くの相談が寄せられています。そんなに難しい制度ではありませんが、そもそも労災自体めったにないことですし、審査請求までする人はもっと少ないわけです。非常に悩んでおられる、全国各地の被災者から相談が来ますので、まずこの解説動画シリーズで、今回、労災保険の審査請求についての解説をすることにしました。

 これからどういうことをご説明するかを簡単にまとめてみました。まず、審査請求の手続きがどんな段取りで進むのかを説明します。次に、審査請求するにあたって必ずやってほしい個人情報開示請求という制度について説明します。その後、実際に審査請求の手続きが進んでいくわけですが、これが結構、経験したことのない人にとっては複雑なので説明します。また、主治医をはじめとする専門家の協力もあったほうがよいということで、その説明をします。最後に、労災不支給が取り消されて業務上認定された具体的な事例について、どういうふうに審査請求でひっくり返ったかを紹介させていただきます。

 実は、審査請求するかどうか迷っている人からの相談が少なくありません。監督署が認めなかったからどうせダメじゃないかとあきらめかけている、迷われている人が相談に来られます。そこで絶対にあきらめないで頑張って欲しいということを最初に皆さんに呼びかけたいと思います。

 注意しないといけないのは期限があるのです。3ヶ月です。監督署から不支給決定、業務外の通知が来てから3ヶ月以内にやらないと、過ぎてしまうとどうしようもありませんので、悩んでいるよりは、とにかく手続きを早くする。早くといっても3ヶ月ありますので、慌てることはないのです。納得いかない、ちょっとおかしいなと思っているのであれば、迷わず審査請求をしてほしいと思います。

 どこに出すかというと、都道府県労働局です。神奈川だったら神奈川労働局、東京都だったら東京労働局。各都道府県の労働局に労災保険審査官がいますので、そこに行く。解説書もいろいろあるし、電話で聞いたりもできますが、労働局に行って教えてもらって書くのが一番簡単です。用紙には、証拠はあるのか無いのかなどいろいろ書いてありますが、資料は後からでも出せますので、とにかくその1枚の紙を書いて出すというのが大事です。費用は全然かかりません。裁判のように印紙代もかかりません。迷わずパパッと書いて出す。仮に少々間違っていても、審査官からここを直してくださいと言われて補正ができますので、とにかく出すことが肝心です。 

 代理人による申請もできます。裁判等の場合、代理人は弁護士しかできませんが、審査請求の代理人は、家族でも友達でも私たちのような民間の安全センターや労働組合でも誰でもなれます。できるだけ審査請求の経験がある人に相談して代理人になってもらったほうが良いと思います。代理人になってもらったからと言っても全部その人任せではありません。何人でも代理人は立てられますし、請求人自身も代理人らと一緒に知恵を出し合って手続きを進めていきます。まずは、相談してもらえばと思います。

 審査請求書は、当安全センターのホームページでダウンロードできるようにしていますので、書けるのであればすぐに書いて郵送してもいいです。

 審査請求をしたら、局によって人数は違いますが、何人かいる審査官のうちの1人から「確かに受理しました」と受理通知が来ます。そこにいろいろなことが書いてありますが、局によって微妙に違っています。

 さらに、労働基準監督署からの意見書が送られてきて、すぐに意見書や資料を出せとか質問をしますかとかいろいろなことを尋ねる文書が来ます。実際どこまでやれるかは気にせず、全てやる方向で考えてください。先ほど言ったとおり、個人情報の開示請求をすることが非常に大事です。詳しいことは後で説明します。とにかく、意見書を出す、口頭意見陳述をやると言っておけばいいです。何も言わないでいると勝手に審査が進められてしまうので、こちらから審査官に連絡をして、開示文書が来るまで少し待ってくれと言えばいいです。

 数年前に、調査した労働基準監督署に質問できる制度ができました。開示請求すると復命書が取れるので、そこで疑問に感じたことについて監督署への質問をまとめて審査官に出します。それから監督署が回答を用意できた時点で「口頭意見陳述」という意見を述べる場が設定されます。この流れがあらかじめ解説してあればよいのですが、厚生労働省のホームページのどこを見ても書いてありません。

 その口頭意見陳述の場で初めて審査官と会って、監督署の人も来ますので質問して、答えを聞いて自分の意見も言えます。ただ、その場ですぐに「監督署はこう言っているけれど私はこう思う」とうまくやりとりしたり十分に意見を述べるのは難しいので、後で文書にまとめて意見書を提出するようにしましょう。なるべく早く出してくれと言われますが、頑張っているから少し待ってくれというしかないです。意見書を提出した結果、審査官が、こんなことも言っているな、確かにそうだな、といろいろ調べて審査します。もし業務上になるのであれば原処分の取り消しになりますし、業務外であれば、やっぱりダメですよということで棄却という決定がされます。

 以上については、文書の内容も電話での対応も、局や審査官によって違います。気をつけなければいけないのは、いつまでに出せと必ず書いてありますが、あまり気にせず、自分の都合で資料も作って、意見も言って、意見書もまとめるという流れを自分で作っていくのが大事かと思います。

 労災請求の段階でも監督署がいろいろな調査をします。被災者は、監督署が全然調べてくれないとか、会社の言い分ばかりを鵜呑みにして決定していると言う人が多いのです。でも実際に監督署が何を調べ、会社がどう言ったのかはわからない。決定通知書を見ても抽象的で全然わかりません。だから個人情報開示請求制度を活用します。監督署がどういうことを調べ、どういう理由で不支給にしたかが書いてある資料が全部出てきます。実は、墨塗になっている部分も多いですが、とにかく資料としては全部出ます。労働局の中に情報開示請求の部署があり、そこに行くと懇切丁寧に手続き方法を教えてくれます。

 説明に書いてある通り、何年何月に監督署長が自分の名前の支給決定に係る決定を行う際に作成した実地調査復命書及び添付資料一切が全部出てきます。局によっては、資料一切と書かないと一部しか出てこないこともありました。とにかく全部出して欲しいと書けば必ずいろいろな資料が出てきます。出てくれば、監督署がどんな調査をしたかがわかります。中身はわからないことも多いです。例えば、同僚の聴取は、その人の個人情報なので出てきませんが、少なくとも聞いているということはわかるので、復命書を取り寄せるのが、まずやるべきことです。

 口頭意見陳述・監督署への質問・意見書という流れですが、請求から開示まで少し時間がかかります。2ヶ月程かかることが多いです。開示されたら、何でダメだったのかがわかります。審査請求では、不支給になった理由をつかむことが非常に大事です。監督署も組織とはいえ人ですから、これだけしか調べていないのということもあれば、全然的外れなことを調べていたり、ろくに調べていなかったり、逆にこんなに調べてくれたのかということがわかります。

 それをつかんで、なぜこういう判断になるのかという疑問が必ず自分なりに出てきます。そこを監督署に質問できます。質問してすぐ答えられるとは限らないので、事前に文書で出してくれと審査官は言います。事前に出さないといって頑張ってもあまり意味が無いので、とにかくいっぱい、なぜ監督署はこう決めたのかなど、自分が不思議だな疑問だなと思ったことを全部書いて出します。すると監督署は、請求人が何を見て何を見ていないか、知っているのか知らないのか、例えば聴取した同僚とどの程度の関係なのかを知らないこともあります。また、大きな声では言えませんが時々消し忘れていたり、本当は開示してはいけない個人情報が出ている場合もありますので、とにかく監督署に聞きたいことがあったらあまり気にしないで、少しでもおかしいな、ここはどうなのかなと思ったことは全部書くようにしてください。

 実際、質問に対して中身のある答えは監督署からなかなか返ってきません。「何でこの調査をしなかったのですか」と言うと、「総合的に判断した」「必要ないと考えた」など紋切り型の回答しか言いません。ただ、審査官としては、請求人がどこにこだわり、何が問題かという事が理解できます。また、質問と回答を聞けば、監督署の言い分は少しおかしいなとか、ここが重要ポイントだなというのを理解してもらえます。請求人が言うとおりここはもう少し調べればいいのになぜ調べなかったのかが浮き彫りになってくるものです。だから、回答を期待するのではなく、何が問題なのかを審査官に正確に理解してもらうべく、これは再調査しなければおかしいなという気になってもらうよう質問を作っていきます。

 監督署の回答は紋切り型だと言いましたが、監督署なりにきちんと回答は準備します。経験したことで言うと、審査官は、回答があまりにも不十分な場合は再度求めることもありました。それで時間がかかることも多いのですが、日程が決まります。請求人の口頭意見陳述の場を設けるので来てくださいとなります。ここもポイントですが、何分と決まっていません。裁判だと時間が限られているので事前に調整し、例えば30分で必ず尋問を終えてくださいと決められますが、これは決まっていません。経験上、真面目に質問を作って回答をもらうとなると1時間では終わらない。回答を聞いて再質問もできるので2時間程かかります。最初に「1時間ですからね」と言われて「わかりました」と言うと、絶対それで終わるので、「2時間位かかる可能性が高い」と言ってください。早く済めば良いのですが、とにかく時間を長く取るようにさせてください。以前、どうしても1時間位でと言うので、時間が不足したら2回、3回目をやらせてくれと言い張ったこともありますが、回数は1回で済ませたいようです。それであればなおさらきちんと時間を作れと言いましょう。

 口頭意見陳述のやりとりについては、審査官が審理調書にまとめます。録音もしてまとめるのですが、裁判のように一字一句逐語的に起こしてはくれません。まとめだけです。それではうまくないので、「録音させてくれ」と言えば、ダメですとは言いませんので、録音したほうがいいと思います。

 それらを踏まえて意見書を提出します。何回でも出せるので少しずつ出しても構いませんが、できればまとめて出したほうが良いと思います。そして審査官に、きちんと審査してくださいと言います。放っておいても審査はしますが、きちんと早くして欲しいという要請はしつこくやった方が良いと思います。人にもよりますが、こういうことがあるのでもう少し時間がかるとか、今こっちを調べているとか言ってくれる人もいますので、しつこく要請に行ったほうが良いと思います。

 労災になって働けない間、会社は解雇できません。業務外決定されると、働けないからクビだと言う会社もありますが、まだ確定したわけではないので解雇するな、あくまでも職場復帰させろと言いましょう。雇用を守るという意味で、審査請求して労災になることは非常に大きいと思います。これは労働基準法で決まっています。必ず要求したほうが良いと思います。これも非常によくあるのですが、職場に戻れないし労災になるかどうかわからないから自分から辞めたという人がいます。とにかく決着が付くまで雇用をそのままにして欲しいということをきっちり会社に求めることは基本かと思います。審査請求だけしておけばいいとか、労災になったらすぐに解雇撤回されるとか安易に思わないで、きちんと会社に要請したほうが良いと思います。

 労災とは別に、労災申請すると言った日から口も聞いてくれないなど対応に問題ある会社もあります。会社に対し、悔しい、許せないという思いを持っている場合は、会社に対する民事損害賠償請求を検討してもいいかと思います。先ほど、開示請求すれば資料が出てくると言いましたが、それは監督署が調べた資料に過ぎず、墨塗もあるので裁判所を使って会社にいろいろな証拠を出させることもあり得ます。民事損害賠償の検討も力量があれば同時にしてもいいかと思います。そういう場合は労働組合の力が非常に強い。裁判までいかなくても労働組合が交渉すれば、資料を出せと要求することはできます。労働組合が無ければ、一人でも入れる地域の労働組合に加入して交渉する。いきなり裁判というのは抵抗があるでしょうし、費用もかかります。組合に入るというのは、一つのやり方かと思います。

 労災では、ひとりで悩んだり困っている人は多いです。どんな大きな会社でも労災になった人は10人も20人もおらず、どうしても一人になりがちです。組合があれば、組合の人が支えてくれるというのが非常に大事なことかと思います。組合でなくても、同僚や辞めた人も含めいろいろな人たちの協力はあったほうが絶対に良いので、そういう意味でも組合や同僚、退職者を含め関係者にどれだけ協力してもらえるかということが実は非常に大事なことになります。

 被災者には、会社が憎い、腹が立つ、悔しいという思いがありますが、監督署は結局のところ行政内部、国の手続きです。審査請求もそうです。厚生労働省の中の理屈で決めます。裁判所のようにいろいろなことをやってくれるところではありません。認定基準や通達、事務連絡など行政内部の判断に基づいてしかやらない。だからこそ専門家や同僚や協力者と一緒に、何とか審査請求でひっくり返すために認定基準や通達を理解して臨むことが非常に大事になります。また、一生懸命に理屈を考えてたくさん意見書を出したら何とかなると思いがちですが、新しい事実や客観的な証拠をどれだけ作るか、文書化できるかが大事です。いろいろな人に話を聞いた意見書や陳述書、本に書いてあることや医療記録、カルテなどに基づいて、きちんとした主張をしていくことが非常に大事です。

 専門家は医師や組合関係者が含まれますが、どんな専門家も被災者の仕事の詳しい内容はわかりません。それをきちんと説明して、いかに大変だったか、有害だったかという専門家の意見書を作るのは大事なことです。

 労災職業病の場合、医師の医学的意見は大事ですが、主治医は忙しいし、基本は治療が仕事ですからなかなかこういう手続きにまで協力してくれる方は多くはありません。それでも、これは仕事が原因だろうと書いてくれる場合も少なくない。患者に頼まれたらしょうがないということでいろいろなことを書いてくれる方もいるので、主治医は非常に重要かと思います。

 監督署は主治医にはそんなに詳しくは聞きません。治療の経過などは聞きますが、主治医のきちんとした意見は必ずしも監督署レベルでは出ていません。そういう意味でも、審査請求の段階で、きちんと書いてもらったほうがいいと思います。

 職業病にはいろいろな専門家がいます。そういう人たちの意見をうまく調べて出すことが大事です。繰り返しになりますが、思いをいっぱい書いても全然意味がありません。事実関係と行政の認定基準に沿ってどれだけきちんと主張・立証できるかがポイントです。

 審査請求したが監督署の決定通り不支給となった場合、再審査請求があります。裁判の三審制と似ています。2ヶ月以内に請求すれば、厚生労働省の労働保険審査会に再チャレンジできます。ただ、再審査請求してずいぶん時間が経ってから相談に来られる方が多いのです。できれば審査請求がダメだった段階ですぐに準備と相談はしてほしいと思います。

 再審査請求は、審査請求よりもさらさらと進んでしまう制度です。申請自体は簡単で、労働保険の審査請求書に書いて出せばいいです。出したら「受理しました」という通知は来ますが、その後は何も言ってきません。半年程して、公開審理の開催通知と、監督署や審査官が調査した内容がまとめられた「事件プリント」と言われる分厚い資料が来ます。大して調べていなければ薄いですが、それでも結構な枚数です。事件プリントには、開示請求で墨塗になっていた会社関係者の発言や証言も全部載っています。ただ、公開審理が行われる直前に来るので、それから相談されると間に合いません。ですからなるべく早めに相談して欲しいということです。

 公開審理では、審査請求と同じように意見を述べます。ところがこれは、1回だけで全体で30分位にしてくれとか非常に時間が短い。審査請求は日程調整してくれますが、再審査は日程調整もせず、来ても来なくてもいい、来たいなら来てくださいという制度です。一応、テレビ会議でもできるとかいろいろあります。地方の方だと東京まで行くのは無理という場合もあるからです。唯一良い点は、「事件プリント」が手に入ること、労災保険審査官は認定基準に縛られますが、労働保険審査会は縛られないことです。だから厚生労働省の通達を乗り越えて決定するということも理屈上はあります。ですが実際は、画期的な、認定基準が間違っていますみたいな決定はまず絶対に無い。救済率というか、不支給決定が取り消されるのは審査官段階では約10%ですが、再審査までいくと5%とものすごく確率は低い。取り消されるべきものはもう取り消されているというのはありますが、数字としては低い確率です。だから、労働保険審査会があるから審査請求は手を抜こうとか、後のほうが認定基準と関係ないらしいからそっちのほうがいいのではないかとかは考えないで、審査請求で取り消しを求めるのが良いのかなと思います。

 昔は3年位待たされたのですが、今はそんなに時間はかからないようにはなっているようです。どういうものが裁決、再審査請求で決定が出たのかというのは厚生労働省もまとめているので確認してみてください。

 先ほど、弁護士でなくても代理人になれると言いましたが、弁護士をつけたほうが楽ですし、プロですから緻密な仕事もしてくれます。費用と時間が許すなら弁護士に相談したほうが良いと思います。ただ、経験のある弁護士があまりいないのが現状です。相談の際、詳しいか聞いてみてください。ほとんどの弁護士は「私はあまり詳しくないので、できません」と正直に言います。逆に、「大丈夫、10万円でやります」とか言う弁護士には、「先生、本当に経験があるんですか」と率直に聞いてください。こういうことがあったので頑張ってみようとか、こうじゃないかとか、必ず実績を持っている人ほどきちんと説明してくれますので、それは必ず聞くようにしてください。

 審査請求をしてから3ヶ月を経過しても決定がない場合、再審査請求ができます。それから3ヶ月経っても裁決がない場合、または労働保険審査会の裁決に不服がある場合、地方裁判所に対して行政訴訟ができます。裁判はすぐにはできません。最初から、審査請求しながら裁判もやるというのなら、さっさと裁判準備をしてもいいと思います。ただ、裁判はそんなに簡単ではありません。できれば、審査官は審査官できちんと、審査請求は審査請求でやったほうがいいかと思います。それも弁護士とよく相談して、弁護士が裁判ではなくて審査請求や再審査請求にきちんと関与してもらうということが可能です。裁判所を使ったほうがいいと弁護士が言う場合は、審査請求にこだわらないで裁判準備を粛々として、起こせる段階でやったほうがいいと思います。

 当たり前ですが裁判所は三権分立で、行政の認定基準や手続きとは関係なく粛々と進めます。ただ、認定基準や監督署の調書は参考にしますので、裁判になったら厚生労働省や監督署とは違う判断や調査や審理をするかといえば、そういうことはありません。事例をいくつか紹介しますので参考にしてください。

 繰り返しになりますが、損害賠償請求とは別の、行政の決定の取消訴訟ですので、場合によっては行政訴訟ではなくて会社を訴えることも同時にできます。特に会社が嘘を言ったり隠したり改ざんしたり捨てたりすることは労災に限らずありますので、そういう意味ではすぐに、少なくとも手続きで証拠保全してもらうことが必要になる場合もあります。そういう恐れのある会社の場合は弁護士にきちんと相談したほうがいいかと思います。

 運転手の心筋梗塞の事例を説明します。流しのタクシードライバーではなく、社長や会長を迎えに行って会社まで送り、会議や昼食などに連れていく役員付運転手です。夜も会食に送って行き、自宅まで送り届けるという形で勤めていました。運転手の場合に問題になるが待機時間です。例えば、会議中はどこかで待っておいてくれと言われます。すると、運転はしていませんが勝手にどこかに行くわけにはいかない。会議はいつ終わるかわからない。会食などは、もっとわからない。会食が終わり、次に行きましょうという時にすぐにいないと意味がありません。手待ち時間とか待機時間とか言いますが、会社もその時間分の賃金を払っていたのにもかかわらず、監督署はそれを全部、休憩と見做しました。ご遺族は、残業は月150時間位になると言っていましたが、監督署は50時間とし、不支給になった。待機時間と言ってもその場で寝るわけにはいかないし、会食の際も、駐車場がない時は停めてはいけないところに停めるわけにはいかないので移動している。それは待機時間ではないと争いました。

 実は待機時間や手待ち時間はどんなドライバーにも必ずあるので、拘束時間で労働時間規制をしようと、厚生労働省と国土交通省が一緒に作った改善基準があります。拘束時間で規制しますから運転時間とは別に労働時間について細かくいろいろなことを決めてあります。ところが、これは監督官、労働時間を規制する側に立った話で、労災保険の担当者は全然知らなかったり、全く理解しないで単純にその時間は運転していない、会議の間は待ってただけということで勝手に休憩だと決めつけた。審査請求して質問・回答させる中で担当者が全く理解してないことがよくわかりました。簡単に言うと、拘束時間には労働時間と休憩時間が確かにあります。労働時間の中に手待ち時間、タクシーであれば客待ちなど、労働時間だけれども待っているだけの時間、それも休憩とは違うということに改善基準告示ではなっています。それを労災保険の担当者は全く知らなくて、勝手に手待ち時間を全部、休憩時間にしたことが浮き彫りになりました。

 また、一応5時までですが5時直前になって「会合が入った」とか、予定にはなかったけれど「今週末ゴルフに行くことになった」ということがこの会社では度々ありました。それでご本人は毎日、「今日は何時頃には帰れる」「今日も遅くなりそうだ」と逐一、携帯電話のラインを使ってお連れ合いに連絡していました。審査請求で、監督署が全くそれを確認してないことがわかりましたので、象徴的なライン画像を資料として出しました。例えば、お連れ合いが誕生日の日、「今日は誕生日だから早く帰る」と言ってたのですが、4時半頃、「やっぱり入っちゃった」と。お連れ合いが、「しょうがないから一人で食べておくよ」というやりとりもきちんと出しました。結局それでひっくり返って、労災ということで支給決定されました。

 まとめとして、納得できないことは審査請求をしましょうというのが一番大事なところです。嫌になったらやめても大丈夫です。取り下げることもできます。

 2つ目は、すぐに個人情報開示請求をしてください。そうしたら監督署の調査書類が全部手に入ります。それで監督署に質問して回答をもらえる。それによって、何が問題なのか課題なのかが自分もわかるし、審査官もわかるという手続きです。

 ただ、一人でやっても正直勝ち目が無いので、主治医はもちろん、いろいろな専門家に協力を求める。別に、会社とけんかするのではないのです。手続きに沿った調査をしていない、医師の意見もちゃんと聞いていない、そういうポイントを絞ってきちんと主張することが大事かなと思います。

 少しわかりにくい点もあったかと思いますが、あきらめずに是非、労災の審査請求をたくさんの人がやってほしい。10%ということは1割はひっくり返る確率があるわけです。あきらめないで審査請求をしてほしいと思います。以上です。