アスベスト労災認定基準等の見直し待ったなし

■労災認定基準等の見直し待ったなし
 国際的に、「石綿による肺がん」と「中皮腫」の発症比率は2対1で、肺がんの方が多いとされる。ところが、国内の石綿労災認定件数(昨年度)は肺がん391人、中皮腫529人と逆転している。肺がんの労災認定基準が厳しいことが一因である。
 08年10月以降に提訴され、これまでに確定した石綿肺がん行政訴訟は9件。すべて国による不支給決定が取り消された。労災認定基準の内容とその運用に問題があり、判決で何度も指摘されてきたにもかかわらず、厚生労働省は検討すらしようとしていない。
 石綿肺がんの労災認定基準は1978年に示されて以降、2003年、2006年、2012年に改正された。考え方としては、石綿曝露による肺がん発症の相対危険度が2倍以上ある場合に石綿曝露に起因するものとみなす、累積石綿曝露量を25本/?・年数以上とするのが妥当とされている。ところが累積石綿曝露量の指標がないために、石綿肺や胸膜プラーク、石綿小体や石綿繊維の本数医学的な所見や職歴などが基準で示されてきた。
 2007年3月に厚労省補償課長通達が出された。石綿曝露作業従事機関が10年以上でも、乾燥肺重量1g当りの石綿小体が5千本を下回る場合は本省に照会せよという内容である。これは2006年の基準で認めていた「石綿曝露作業従事期間10年以上+石綿小体又は石綿繊維」という基準を廃止するものであり、事実不支給決定が続出することになった。結局2012年の労災認定基準では、この補償課長通達をなぞるような形で認定基準が改悪されてしまった。この点について厚労省は、「基準を明確にしただけ」と強弁したのである。
 裁判所は、行政が解釈したものに過ぎない労災認定基準には当然、拘束されない。同じ建設現場で働いてきた同僚2人に明確な胸膜プラーク所見がある、同僚が労災認定を受けているなどの職場実態を重視して、医学的所見だけこだわる国の姿勢を批判。そもそもクリソタイルは石綿小体を作りにくいので、その数を基準にして業務起因性の認定範囲を限定することに合理性は認められないなどと判示している。もちろん裁判所も10年以上従事期間があれば、それだけで認めるべきだとまでは言っていないが、少なくとも石綿小体本数が基準であるかのような厚労省の方向性とは全く逆である。【川本】