中皮腫を治せる病気へ!格差と隙間のない補償を!150名で臨んだ 院内集会&省庁交渉

中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会
事務局 澤田 慎一郎

 5月9日、東京・永田町の衆議院第一議員会館で「中皮腫を治せる病気へ! アスベスト健康被害の格差とすき間のない補償を求める院内集会&省庁交渉」を開催し、関係者約150名が参加しました。

 中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会(以下、患者会)では06年3月に施行された石綿健康被害救済法の法案審議の段階から、給付内容の不足などを指摘し、改善を求めてきました。残念ながら、現在まで給付内容の見直しはありません。

 これに関連する議論が22年6月から現在まで5回にわたって中央環境審議会環境保健部会石綿健康被害救済小委員会(以下、小委員会)でされてきました。当会の役員である右田孝雄(全国事務局)が第1回と2回の小委員会に、小菅千恵子(会長)が3回以降の小委員会に委員として参加し、私たちの要求を伝えてきました。しかしながら、経済団体などが参加している小委員会では十分に議論が深まらず、報告書を取りまとめる段階に来ていますが、どこまで意味のある合意形成ができるのかは、不透明な状況です。

 そのような背景を受け、現状について国会議員をはじめ関係者に広く理解頂き、少しでも報告書の内容を私たちの要求に近づけるべく、冒頭の「院内集会」と「省庁交渉」を開催するに至りました。

 院内集会には立憲民主党や日本維新の会、日本共産党の国会議員ら15名に加え(別途、秘書の代理出席が与野党32名)、大阪・泉南市や阪南市の市長や市議会議長、副議長の参加がありました。「皆さんに寄り添ってやっていくのが政治の本質ですからしっかり頑張っていきたい」(松木謙公衆議院議員)、「我々のできることは全力で尽くして参りたい」(遠藤敬衆議院議員・日本維新の会国会対策委員長)、「すべての被害者の救済・補償に手が届くように皆さんとともに頑張っていきたいと思います」(田村智子衆議院議員・日本共産党)などの決意表明がありました。

 また、建設アスベスト訴訟全国連絡会事務局長の清水謙一さんから「中皮腫を治せる病気にという要求を中心とした皆さん方の要求案、願いを私たちも全面的に支持し一緒に運動していきたい。」との力強い連帯の言葉をいただきました。

 基調講演では、小菅と右田から、私たちが求めている要求事項について小委員会の経過に触れながら解説をしました。

 私たちの骨格の要求事項は、①「中皮腫を治せる病気にする」ための年間3億円の研究支援のための法整備、②05年の石綿救済法施行以降の諸状況を踏まえた抜本的な給付水準・給付体系の見直しと患者・家族の実情に即した支援です。

 ①については、石綿救済制度は、国や企業などの拠出によって石綿健康被害救済基金がつくられ、各種給付に使われています。現在でも約800億円の残高があります。この基金の一部、年間で3億円を治療研究のために活用すべきだと考えています。運用益も16億円出ているのでその活用もあわせて検討すべきです。法律の性格上、この基金は病気になった被害者にお金は払うけれども、病気を治すために活用しようということにはなっていません。法律をつくった05年当時、中皮腫はまさに「死」を意味していたので、お金があっても何をすれば良いか具体的なイメージがわかなかったというのが背景にあるかと思います。現在の国全体の研究への支援状況ではとても不十分です。厚生労働科学研究補助金は年間で3千万円程度の支援です。これではいつになっても中皮腫は治せる病気になりません。国の政策によって被害が拡大したことを踏まえて、研究支援のあり方を再構築すべきです。小委員会のヒアリングでも、臨床試験や基礎研究、中皮腫登録などのデータベースの再構築によって効果的・効率的に意味のある研究支援ができると専門家も話されています。年間で3億円でも効果的に「中皮腫を治せる病気」にできる支援ができます。

 ②については、私たちは05年の法施行前から問題を指摘しています。現役世代が病気になって働けなくなったときに月10万円程度の給付では生活は成り立ちません。子どもがいる場合はさらに負担が増します。遺族には事実上、給付がありません。一部の被害者には国の補償などが整備されている状況があります。しかし、労災の対象にならない被害者がいることも事実です。同じアスベストを吸ったことが原因なのに、どこで、いつ、どんな理由でアスベストを吸ったかによって補償に大きな格差があるのは間違っています。なぜ被害者が責任のつけを全て払わされなければならないのでしょうか。小委員会のヒアリングでも、専門家から泉南アスベスト訴訟や建設アスベスト訴訟など、国や企業の法的責任を土台にして現行制度の見直しをすべきとの提言がなされています。ヒアリングを受けて、法学系委員からも他省庁や国会を巻き込んで議論すべきとの意見が出ています。小委員会の委員長も、現在の制度のあり方について疑問を投げかけています。各方面から、このまま放置して良いのかという声が出されています。このような状況を直視し、ただちに法改正をして給付水準と給付体系を見直す必要があります。

 院内集会では、これらの課題について、会員、国会議員などをはじめ多くの関係者と問題を共有できたと考えています。引き続き国会議員への働きかけを強め、法改正を求めていきます。

 院内集会終了後、環境省や厚生労働省との省庁交渉で上記2つの課題を中心にやりとりが進められました。小委員会を通じて私たちは早急に「中皮腫を治せる病気にする」ための対策を講じるよう求めています。しかし、現場は環境省も厚労省も連携し、必要な対策を講じようとしていません。当日、前向きな回答は一切なく、ほとんどの参加者が落胆したのではないでしょうか。ある患者さんが次のような発言をされていましたが、多くの方がこれに通じる感想を持ったと思います。

 「本当に治してあげたいという気持ち、表情、全くないです。感じません。死ぬことの厳しさとか、追い詰められてる苦しさ。仕事だけやってればいいというそんな世界じゃありません。どんどんどんどん追い込まれて・・その苦しさから逃げたくても逃げることができないという毎日。そういった厳しさが全く見られないんですよ。話聞いてると。一つでもいいですから、患者が少しでも良くなるような結果。こういうことをやりますってことを持ってきてくれればありがたかったです、今日は。協議するのは誰でもできます。だけど時間がないんですよ、とにかく」。

 ただ、一部の部局からは、「どうしても組織上やむを得ない部分もあるかとは思うんですが、横と横の連携を取る必要がある部分はですね。躊躇せず、積極的にやっていきたいと思っております」との発言がありました。後日、担当者からも連絡が入り、協議を継続していくことになっています。

 救済制度における石綿ばく露歴を全く考慮しない肺がんの認定基準の問題、建設業などにおける一人親方や自営業者、兵庫県・尼崎市などの一部の地域を除いた環境ばく露者の健康管理体制の整備、労災の休業補償が時効によって支給されない期間の傷病手当金の返戻を求められる問題など、課題は山積みです。こういった課題についても一つずつ解決していく取り組みを続けていきます。第6回小委員会が6月下旬に予定されています。その場を通じ、私たちの要求を小委員会報告書に多く取り込めるよう小菅会長を筆頭に奮闘していきます。引き続きご支援よろしくお願い致します。