神奈川労働局でのやり取りから
局の役割はどこへ?
資料は毎年充実しているが、監督署が「要請があったことを局に上申する」とした課題で、局がさらに踏み込んだ回答をすることは、ほとんどない。神奈川局として「検討する」か、「要請があったことを本省に上申する」ということになる。
例えば、署によっては、4日未満の休業災害の分析をして説明されることがあっても、局が全体の数字を元に分析することはない。ストレスチェックについても従来から要請しているにも関わらず、義務対象事業場数(=50人以上)を明らかにしない。実施すべき事業場を特定しないで、その実施状況や効果を評価することはできないはずだ。最も問題なのは、精神障害の労災調査を巡る課題である。
特別班(SAT)は事実誤認の元凶
神奈川局管内(22年度)の精神障害の労災決定件数は157件で、うち業務上は44件(認定率28%)。22年度の全国平均の認定率は35・8%なので約8ポイントも低い。5年前の18年度の全国の認定率は31・8%で同年度の神奈川局の認定率は26・7%と5ポイント少なく、常に全国平均を下回る状況が続いている。ちなみに、決定件数がほぼ同じ162件の22年度の大阪局の認定率は34・5%。また、精神障害の不支給決定取消しを求めた審査請求は22年度は40件処理されたが、取消(=業務上)になったのは1件もない。
こうした結果の元凶が、特別班(SAT)である。労災請求すると、労働基準監督署の担当者が調査を行うが、精神障害に限っては、請求人の聴取は署の職員が行うものの、その後の会社関係者の聴取等は神奈川労働局に設けられた特別班(SAT)の職員らが行うことになっている。これは神奈川局独自のやり方である。
精神障害の労災の原因とされるハラスメントや長時間労働について、その事実や評価が労働者側と会社側の認識が異なることは、少なくない。同じ人が双方の聴取を行い事実認定、評価すべきである。請求人の顔も話も聞いたことのない特別班(SAT)が調査の主導権を持っているため、多くの事例で「請求人は××と主張するが、会社側関係者は〇〇と述べており、事実は確認できなかった」という判で押したような記載が調査復命書に記されている。署の人手不足を理由とした神奈川局の特別班(SAT)は直ちに解体すべきである。少なくとも、署が請求人の聴取をする際には必ず、特別班(SAT)の職員も立ち会うべきである。 この主張に対し、反論する署の職員は皆無で、「局が決めることなので」と言葉を濁す。局は反論できず、「検討する」としか回答しない。
コロナの分析と総括を
昨年の新型コロナ感染症の労災決定件数は膨大な数に上った。かなりの数の監督署で、労災発生件数の半分を占める。これでは統計上の分析が意味がないということで、今年はコロナの業種別発生件数がパンフレットに記載されている。
しかしながら一昨年も同じように多数のコロナ労災が報告されていたのであり、昨年の局交渉では直ちに業種ごとの発生件数を発表すること、医療福祉関係者以外の業種でのコロナ労災隠しが横行していることを指摘している。それでも局は、「特定される恐れがある」などという意味不明の理由で、頑なな姿勢を崩そうとしなかった。
建設業と製造業で多数のコロナ労災が報告されている一方で、商業や小売・卸業での報告件数はあまりにも少ない。センターには、会社が申請に協力しないという相談が多数寄せられてきた。
実態を把握して予防対策を講じるためにも、きちんとした総括を、コロナ禍が始まった2年半前に遡って行うべきである。いわゆる後遺症(厚生労働省は罹患後症状という)や、医療・福祉業等で続いている半強制的なワクチン接種による健康被害についても、適切に労災補償すべきである。その分析も全くしないまま、自分の統計上の都合だけで数字をあげているだけでは意味がない。
じん肺管理区分と健康管理手帳申請が半減
労働基準監督署ではなく、労働局で行う業務が、じん肺管理区分決定と健康管理手帳の交付である。そのデータを求めたところ、驚くべき事実が判明した。じん肺管理区分申請が21年の46件から、22年の24件に減少しており、とりわけ退職後の申請(随時申請、会社に義務付けられていない)については39件から13件と3分の1に。石綿健康管理手帳についても21年は112件だったのに22年は63件である。申請の際に医療機関の証明が必要であることから、コロナ禍による受診抑制、医療機関側の拒否があったとしか思えない。