労災事件ファイル:過労死・新認定基準で労災認定!全国チェーン菓子店舗のエリアマネージャー

過重労働による急性大動脈解離で死去

 19年12月末にYさんという方から相談電話が入る。夫が15年1月に急性大動脈解離で死去したが、仕事が激務だったので、労災ではないかという相談電話であった。15年1月に死去?、労災保険の遺族補償の時効5年がもうすぐではないか!という事で、年明けの20年1月の年初に面談を実施し、仕事内容を聞くと、確かに残業を含めて相当ハードな業務内容であり、労災として認められるべき内容であった。

 しかし時効間近であり、急いで遺族補償請求を提出すべく、事業主証明など省略して、慌てて管轄の名古屋西労基署に遺族補償請求書1枚だけを郵送し、不備返戻で何とか請求受理された。

 そこで今後は残業時間の調査など被災者の業務内容の把握をしっかり行うためにも、神奈川総合法律事務所の福田弁護士と小宮弁護士に入ってもらい、一緒に取り組むことになった。

業務は菓子メーカーのエリアマネージャー

 被災者のXさんは全国展開している菓子メーカーのエリアマネージャーとして担当エリアの各地店舗の販売員に対する研修や、店舗経営のマネジメント、各店舗のトラブル対応、店舗新規オープン準備など、エリア担当者として各地を飛び回り、朝早くから夜遅くまで目まぐるしく働く毎日であった。加えて頻繁に出張し、菓子店舗特有のクリスマス、バレンタイン前の激務シーズンもあり、相当に疲労蓄積している状況であった。

 まず残業時間を見ると、勤務時間の管理はパソコンのログイン時間で管理しており、その時間を元に労基署が認めた残業時間数は、最大で発症前2ヶ月平均の77時間13分であった。Xさんは1月に死去されているので、発症前2ヶ月とは前年の11月、12月である。この時期はクリスマス商戦に正に当てはまり、加えて、この時期に新規店舗2店がオープンしており、そのオープン業務の過酷な労働も重なった。

過重労働による脳心臓疾患の労災認定基準が改正

 厚生労働省は21年9月に過重労働による脳心臓疾患の労災認定基準を改正した。改正前は、発症前1ヶ月間に100時間、または2~6ヶ月間平均で月80時間を超える時間外労働という長時間労働の基準に偏重した認定基準であった。月平均80時間に満たない場合は、それ以外の要因(拘束期間が長い、出張が多い等)を加味し総合的に評価するとなっていたが、実質的にはあまり考慮されず、80時間未満の場合は不支給決定が相次いでいた。

 その改正前基準の運用実態に批判が多いことから、厚労省は「認定基準の改定から約20年が経過する中で、働き方の多様化や職場環境の変化が生じていることから、最新の医学的知見を踏まえた検証を行う必要がある」として専門検討会を開催し、この度の認定基準の見直しに繋がった。

 そして改正後の基準では、以下の長時間労働以外の要因を総合評価する事が明確化された。「拘束時間の長い勤務」「休日のない連続勤務」「勤務間インターバルが短い勤務」「不規則な勤務・交代制勤務・深夜勤務」「出張の多い業務」「移動を伴う業務」「心理的負荷を伴う業務」「身体的負荷を伴う業務」「作業環境」。また「心理的負荷を伴う業務」についても具体的出来事を例示し、より評価検討しやすくなっている。

改定後の認定基準で労災認定される

 本件についても改定後の新しい認定基準が適用されて、長時間労働については月平均77時間で、80時間には満たないものの、それ以外の不可要因として「長時間の拘束」「クリスマスシーズンの繁忙期」「新規2店舗のオープン業務」「勤務間インターバルが短い」「出張の多い業務」などを認めた。その上で総合的に判断して、23年2月、本件は業務における明らかな過重負荷により急性大動脈解離を発症し死去されたとして労災認定した。【鈴木江郎】