センターを支える人々:山田修士(全駐留軍労働組合神奈川地区本部専従)

 私は昨年まで全駐労神奈川地区本部の書記長の職でしたので、引き続き神奈川労災職業病センターと神奈川県勤労者医療生協の理事を務めさせていただいております。基地従業員の時には労働組合運動だけではなく、衛生工学衛生管理者として従業員の労働安全衛生に、また、健康保険組合の理事として被保険者とその家族の健康管理と疾病予防に力を注いでいたことから、両団体の事業内容との関連性もあって役職に就かせていただいております。

 さて、全駐労(全駐留軍労組)は、米軍基地で働く従業員で組織する労働組合です。神奈川県内には多くの施設があって組合名は知られていますが、米軍基地施設がない地方に行きますと、駐車場で働く者の労働組合に間違えられたりして、あまり知られていない組織だと感じます。そのようなことから、今回は基地従業員の実態を知っていただくために、記させていただきます。

 まずは基地で働く従業員の雇用形態ですが、防衛省が雇用主で米軍に労務を提供し、米軍が従業員へ指揮や命令などを行っている間接雇用です。政府が雇用し国の安全保障に関する業務に携わっているので、公務員と思われがちですがそのような身分ではなく、さりとて民間の労働者とも言い切れないところがあります。なぜならば、日本国内で働いているにも関わらず、労働基準法等が遵守されていないからです。たとえば雇用主が「就業規則の届出をしていない」こと、「36協定を締結していないまま残業をさせている」こと、また「安全委員会や衛生委員会が設置されておらず」、職場の安全衛生について労使間で協議する場がないことなどが挙げられます。

 そのようなことから問題が起きれば必ず複雑化します。たとえば、過去に横須賀の海軍基地施設において重大な労働災害事故が起きたにもかかわらず、米軍は基地管理権を盾に、労働基準監督署による立ち入り検査を拒否しました。従業員は労災保険の適用ですから現場への臨検をはじめ、今後の事故防止策として労基署の検証は必須でした。しかし、現地雇用主である防衛事務所だけでは決着に至らず、当時の防衛施設庁(現:防衛省)の案件になりました。日米間協議の末2年後に、ようやく監督官の立ち入り調査を条件付きで認めるとした回答がありましたが、今なお根本的な解決には至っておりません。

 また、数年前には米国人監督者のパワハラが原因でメンタル疾患になり、復職できないまま退職になりました。本人は早くからいじめによる被害を訴え、組合を通じて雇用主に助けを求め、同時に労災申請をして救済を求めていました。しかし、労基署は治外法権である米軍基地内で起こった問題として、また、外国語での聞き取り調査の難しさを敬遠したかのように、不十分のまま労災認定はされませんでした。

 さらに昨今、米軍基地が汚染源と騒がれているPFAS(有機フッ素化合物)を含む泡消火剤ですが、航空機や艦船など燃料火災時の消火剤として米軍でも実際に使用されており、消火訓練の時にも頻繁に放出していました。ご存じのようにこの物質には発がん性のリスクが指摘されており、消火訓練をはじめ取り扱った作業者の健康被害の影響が懸念されています。すでに米軍は取り扱った米軍人には血液検査を実施していて、組合は日本人従業員にも同様の検査を求めていますが、防衛省は取り扱い手順書通りに従っていれば体内に取り込まれることはないとして、血液検査は時期尚早としています。しかし、アスベスト被害のように数十年後に発症するようなこともあり得るので、国内において早急に、この物質に対する専門家による医学的な見解を示したもらいたいものです。

 いずれにしろ、ここに示した数例は氷山の一角に過ぎず、常々米軍に物が言えない力無き雇用主では、今後も全国の基地施設で悪しき事例が起こることでしょう。そのようなことから全駐労は、国に仕え従事する者には国家公務員関係法令があるように、国の雇用で働いている駐留軍従業員にもそれに類する基本法の制定が必要であり、身分の確立が重要であるとして運動方針にも掲げていますが、法制化の道のりは長く、たやすいものではありません。