公務員の公務災害の手続き解説:ある市立病院の職員に起きた化学物質過敏症の事例
講師/森田洋郎さん(元横須賀市保健所職員・現社会保険労務士/行政書士)
目次
自己紹介
私は森田洋郞といいます。1962年生まれです。高卒後、東京にある技師の学校に行って診療放射線技師の資格を取得し、横須賀市の保健所に勤務しました。40年近く前のことです。当時は労働組合がとても盛んで、私も自治労に加入し、職場の世話役として書記長や副委員長などの役職につき、賃上げや休暇を増やせといった職場の要求を掲げて市側と交渉したりしました。私は保健所職員でしたが、生活保護や障がい者のケースワーカーも組合役員にいて、保健や福祉、医療は同じグループでした。衛生・医療を考えるグループでは、地域の障がい者のための活動をしている方たちとの交流や、地域で開業しているクリニックの医師との関わりもできました。それらが楽しくて、横須賀で活動をしている人たちとは今でもお付き合いがあります。その関連で昨年から、障がい者の地域活動支援センターを運営するNPO法人の理事長になりました。
横須賀市役所を退職してからは、社会保険労務士・行政書士として横浜の自宅で開業し、もっぱら患者さんの障害年金請求の代理をしています。私は今までも、困っている人にどう向き合うかということをやってきたつもりですし、喜ばれる仕事なのでやったほうがいいなと思い、その仕事をしています。その関係で、医療ソーシャルワーカーとのお付き合いも若干あるところです。労働災害や公務災害の請求や成年後見活動もしています。今は、知的障害とてんかんを持つ方の補佐人として活動しています。
資格としては、社会保険労務士、特定行政書士、ファイナンシャルプランナー、第一種放射線取扱主任者、医薬品登録販売者、他放射線関連免許などを持っています。放射線技師になるまでは理科系の勉強をし、その後、年を取ってから通信大学で法律を勉強していた時、講義の中で「法律というのは数学と同じだ」と言われました。困っている方が相談に来て、その人の問題を解決するため、この法律のここに当てはめて解決するのが法律の仕事。数学の問題でこの方程式に当てはめて答えを出すというのと原理は同じという話でした。その時、なるほどそうだったんだと思い、その影響もあって、自信を持って社会保険労務士などをやらせて頂いています。
資料@頁の右下にあるQRコードから私のホームページがご覧頂けます。事務所のキャッチコピーは「障害年金・成年後見・遺言・親亡き後のサポート」で、障害に着目したことを書いています。障がい者の方や、高齢で生活状況が悪くなったなど色々な相談がきます。入院してソーシャルワーカーの皆さんの元に相談に来る方も本当に様々な状況にあり、一番困っていることをご相談されるということだろうと思います。そういう大切なお仕事をされている皆さん方に、今日は少しでも持ち帰って頂けるものがあればと思っています。
公務員の数
公務災害は公務員が対象です。人事院年次報告書によると公務員は総勢339万人で、日本で働く人全体の5%か6%で、少数ですが決して少ない数ではありません。分類すると、国家公務員17・4%、地方公務員82・6%と多くは地方公務員です。国家公務員のうち、大臣など特別職50%、一般職50%。横須賀などで非常に多い防衛省職員、自衛隊は特別職です。ですから神奈川県の病院にお勤めならば、公務員の方から相談を受けることは十分にあり得ると思います。
地方公務員の仕事
地方公務員の仕事について。一般的に「公務員は何をやっているの?」と、私が現役の時に聞かれたら、「横須賀市役所の技術職です」と答えます。学校の先生だと「公立学校の教員です」、消防署の方だと「横浜市の消防です」、または「県警です」という言い方になると思います。例えば、横浜市立市民病院の看護師は、この区分で言うと「技術職」に当てはまります。
公務災害では公務災害申請書での区分になります。公務災害に関する決まりは地方公務員災害補償基金のホームページ地方公務員災害補償基金(chikousai.go.jp)に網羅されていますが、それほど細かく決まってないのが実態です。
公務災害申請書の区分では、まず大きく9つに括られます。「義務教育学校職員」は小中学校の先生、「義務教育学校職員以外の教育職員」とは幼稚園や高校の職員。「警察」、「消防」、「電気・ガス・水道事業職員」。電気やガス事業を自治体がやっている場合があり、例えば九州には○○市営ガスというのが今でもあると思います。「運輸事業職員」は横浜市営交通の地下鉄やバス。川崎にもバスがあります。「清掃事業職員」はゴミの収集やゴミ焼却工場で働く技術的な方や現場作業の方。「船員」は昔、横須賀にも船舶があり、港湾を管理する仕事です。「その他」は市役所で働く事務の方です。放射線技師も「その他」です。
次に内訳として、「医師・歯科医師」、「看護師」、「保健師・助産師」、「その他の医療技術者」など16に細かく区分され、統計に反映されます。
公務災害認定請求書
公務災害認定請求書には、怪我したり病気になった人の住所や名前を書きます。亡くなった場合は、被災職員の妻や夫が代筆することがあります。所属団体名・横須賀市役所、部局名・保健所、職名・放射線技師で常勤と。名前、生年月日、共済番号(健康保険番号)と、「〇月〇日〇時頃に怪我した」とか「いつからいつまで化学物質に曝露した」と書きます。災害発生場所「保健所の建物の階段で転んだ」や傷病名「右大腿骨骨折」や程度「1ヶ月入院」についても書きます。災害の発生状況については、ここに書ききれない場合は別紙を付けます。これを職場の所属長に出して、その人が「間違いありません」という事と名前を書く。これが嫌な手続きの一つです。
添付書類として、診断書や交通事故証明や見取り図など、参考になるものを出します。私も大昔に市役所のソフトボール大会で手を怪我した時、グローブをはめてボールを投げる見取り図を書いて提出しました。場合によっては、レントゲンや写真を付けます。
そして任命権者が、私の場合だと「その他」と「その他の医療技術職」という区分になるので9と04と書き入れます。これが全国の公務災害統計に反映されていきます。
地方公務員の人数内訳
総務省の統計による地方公務員数の内訳です。国家公務員を除く地方公務員は280万人です。病院の放射線技師だと「公営企業等会計部門」に、保健所の放射線技師なら「福祉関係を除く一般行政」になります。「福祉関係」にはケースワーカーや保育士が入ります。「教育部門」、小中高、幼稚園も含めたものが同数いるということです。そして「警察部門」と「消防部門」がある。ざっくり言うと、患者の3分の1は学校の先生と思っていいと思います。
これら職員の公務災害統計から
公務災害申請書に基づいて公務災害を受けた人の統計です。一般財団法人地方公務員安全衛生推進協会(https://www.jalsha.or.jp/)は、地方公務員災害補償基金のホームページにもリンクがはってあります。
令和3年度の認定件数を職員区分別に見ると、「義務教育学校職員」と「義務教育学校以外の職員」があわせて35・4%で、「その他の職員」41・2%とだいたい同じです。印象として、怪我するのは「消防」や「警察」が多いのかなと思っていましたが、そうではないということです。怪我だけでなく、いろいろな疾病があり、職員数に比例して災害認定がされているということだと思います。
主な職種別千人率(その他職員除く)
これは、平成24年度から令和3年度まで、職種別で職員千人に対し何人が公務災害認定されたかというグラフです。トップは「清掃事業職員」で、千人中21・3人が公務災害認定を受けています。少し減ってきているのは、職員数の減少に比例していると思いますが、未だ環境が良いとはいえないということが読み取れます。「警察職員」はなぜかわかりませんが、令和2年度に急減しています。「消防職員」は意外と元々少ない。消防職員は消火する人と救急隊員の2種類あり、救急隊は非常に忙しい職場だと思いますが、消火はそれほど頻繁ではありませんが、昔から公務災害の割合は一定しています。
話は脱線しますが、私の組合役員時代、清掃パッカー車でゴミ収集をしている組合役員の先輩がいました。何十年のベテラン職員でしたが、パッカー車に指を一本巻き込まれて飛ばされました。いくらベテランでも事故は起こることを如実に物語ることだと思います。指が無くなったので、お腹に指を埋め込んで肉を付ける療法をされ、骨はないが形として指は残りました。まだそういう事故が身近にあった、今もあるだろうということです。
その他職員を入れた職種区分千人率
先ほどの認定請求書で上下の区分があり、下の区分に医師や看護師がありました。これはその職種区分の千人率を比較した表(令和3年度)です。ダントツに高いのは「医師・歯科医師」です。先ほどの清掃職員は、上の表であれば「清掃事業職員」と「清掃職員」となっていたのが、若干こちらの方が狭い定義になっているようで、清掃工場で焼却している人はここに入ってないと思いますが、正しいかわかりません。少し統計的な数字が異なりますが、このような順番に変わっています。
次に高いのが「調理員」「清掃職員」「看護師」と続きます。私のような放射線技師は「その他医療技術者」に位置し、「警察官」より高いです。このグラフから、病院は危険なところだということがわかります。恐らく怪我が多いと思います。私も組合活動をする中で、市立市民病院の看護師が腰を痛めたとか怪我したという話をよく聞きました。
「調理員」は28・47人と多い。小学校で給食を作っている職員の方で、ほとんどが女性です。今は子供の数が少ないので1つの学校で作る量は少なくなったとは言え、1クラス35人として200~300人分の給食を作ります。そのため1・2~1・3mの大きな回転釜に具材を入れ、バーナーで火を付けて回しながら大きなへらで全身を使ってかき混ぜる作業をします。すると、頸肩腕など首や肩、腰を痛めたり、ばね指などになることが非常に多い。今も基本的原理は変わっていないので災害発生が多いことは今も変わらないと思います。
「医師」はどういう怪我をされるのか、よくわかりません。ご存じのことがあれば、後でご教示頂ければと思います。
「清掃職員」は、パッカー車でのゴミ収集は急ぎの作業です。通常、運転手と2人作業で、その日に出されたゴミを市内から全部回収すれば終わりです。すると、落ち着いてゆっくりやろうというより、早く終えて早く事務所に戻ってのんびりしようという気持ちになるようです。当時はそうでした。このような慌てる作業、急がせる作業は怪我につながります。病院職場ではどうですか。この仕事を〇時までにやらなきゃというのは病院でもあるかなと感じています。
公務災害の手続き
公務災害手続きについて、地方公務災害補償基金のホームページの説明をそのまま掲載しました。
ここで、怪我の場合と、化学物質過敏症の場合を考えてみます。転んで怪我して病院に行くと、これは公務災害だから申請しなさいと医者に言われたり、職場の上司から言われますが、化学物質過敏症だと誰からもそんなアドバイスがありません。 公務災害認定請求書を自分で作って所属長(看護師なら師長、医者なら副院長)に出すと、所属長が捺印し、横須賀なら横須賀市役所の人事課で間違いありませんということで、神奈川県庁にある神奈川県市町村職員災害補償基金に行きます。
怪我の場合は早いです。間違いなく職場で転んだから公務災害と確認されるから、医療費の請求も所属長に出し、最終的に神奈川県庁に行き、医療費が支払われ治療を受けるという流れになります。 ところが化学物質過敏症の場合は、申請書を所属長に出すと、「そんなの知らない」と言われ、捺印までひと月ふた月かかる。それから市の人事課でも「何これ」という話になり、よくわかりませんという意見書を書くのにまたひと月ふた月かかり、神奈川県庁に届くまで約3ヶ月かかります。それから、これは神奈川県内で決めないで東京の本部に相談して下さいということで特定事案協議になります。そこでおおよそ1年かかります。つまり、約2年かかって決定され、そこから初めて医者に行って薬をもらったのを請求する。
この図では同時にやれるような雰囲気ですが、同時ではなく、時間がかかるということをおさえておいてください。
説明文書でも
地方公務災害補償基金のホームページには「被災職員は支部長(神奈川県庁)に対し、所属長(職場の上司)を経由して公務災害であることの認定請求を行い、これと併せて医療費の請求を行う」と書いてありますが、実際は「併せて」ではなく、「後から」です。これを堂々とホームページに書くのはいかがなものかと思います。しかも「支部長(県庁)は内容を審査の上、速やかに認定し」と書いてありますが、化学物質過敏症の場合は基金本部の理事長が決めますから、まったく違います。2年もかかるのに「速やかに」「結果を通知し、補償の支給を行います」と書いてあります。
今、私は横須賀市をベースに話しているので神奈川県庁と言ってますが、政令指定都市である横浜、川崎、相模原の職員の場合は、横浜市役所、川崎市役所、相模原市役所に提出します。
他県のホームページの説明文を調べてみると、正直な県庁は、同時にやるようなニュアンスは省いたり、時間がかかることを暗に匂わせて書いてあったりします。
申請手続きは
公務災害の申請手続きはシンプルで、まず認定請求書を出します。ご本人もしくは私のような手伝っている者が、間違いなく公務をやっている時に(公務遂行性)、間違いなく仕事に起因して病気になった(公務起因性)ことを明確にすることが非常に重要です。これは民間の労災でも同じですが、起因性の認識というか、さじ加減というか、そこが若干違うのではという問題意識があります。例えば、公務員もパワハラや職場の人間関係で悩むことはありますが、認定率が明らかに少ない。統計上少し違うのではと指摘されるところです。
公務上災害の認定基準は非常に古く、平成15年に本部から各県あてに通知しています。化学物質過敏症については、「化学物質等にさらされる業務に従事したため生じた次に書かれた疾病」であり、「発症させる原因になるのに足るものであり、かつ、当該疾病が医学経験則上、当該原因によって生ずる疾病に特有な症状を呈した場合は、特に反証のない限り公務上のものとして取り扱うものとする」と書かれています。
私たちは、ホルムアルデヒドを使えばだいたい化学物質過敏症になるだろうと思いますが、公務災害基金は「医学経験則上・・・特有な症状を呈した場合」に当てはまらないと考えているように思えてなりません。裁判などで公務認定されたケースはありますが。例えば、ホルムアルデヒドを扱って皮膚の障害になった(皮膚炎、目が赤くなった等)のは医学経験則上、相当特有な症状ですが、化学物質過敏症まではいってない。皮膚炎までは反証のない限り公務上として取り扱うという書き方になっています。そこの公務起因性を一生懸命証明しなければならないという難しさがあります。
公務災害の問題点①
公務災害の問題点を3点あげます。
まず、因果関係の判断が難しい判定は実質、本部審査になります。明確に、本部に相談しなさい、本部が決めますと言われている病気は「職業性難聴」「振動障害」。チェーンソーで木を切ることで発症します。給食調理員などに多い「頸肩腕症候群」「指曲がり症」。「脳脊髄液減少症」は公務では私は聞いたことがありません。そして「化学物質過敏症」「シックハウス症候群」。「その取扱いが困難であると事務長の認めた公務災害」は範囲が非常に広く、よくわからないと県庁が言ったら全て本部に行くという作りになっています。
それとは別に、「本部と協議する職業病」があります。「心・血管疾患」「脳血管疾患」「精神疾患」「石綿による疾患」「放射線障害」などです。公務により精神疾患を発症した人は非常に増えていて、その人数は明確に教えてくれませんが、肌感覚として3~4割。神奈川県各自治体から出された全体の3割程は本部に行っているようです。そうなると神奈川県ではどれ位時間がかかるかわからないということになり、決定までが遅くなります。化学物質過敏症の場合、下手すると2年かかります。
従って決定までが遅い
平成6年に標準処理期間が定められ、療養補償及び休業補償は6ヶ月や8ヶ月で決定しなければいけないとされましたが、全く守られていません。しかも、この通知には「判断根拠となる各種資料の分析に時間を要する等判断が極めて困難な事案については、標準処理期間を超えて審査を行ってもやむを得ない」という言い訳が書いてあります。
公務災害の問題点②
次の問題点は非常にややこしい話です。皆さんの所に相談に来られた方が「横浜市役所に勤めている」と言ったとします。すると県庁に書類を出せば終わりかというと、そうではありません。横浜市役所の「常勤職員(一般職、特別職)」ならば地方公務員災害補償法の適用になります。「再任用短時間勤務職員」はもともと常勤職員で60歳を超えて再雇用されている人も地方公務員災害補償法の適用となります。「常勤的非常勤職員」は横浜市役所で月曜から金曜まで1日8時間働いている人で、地方公務員災害補償法の適用となります。ところが、「臨時職員」は横浜市役所で1日4時間だけ働く人で、地方公務員災害補償法に基づく条例の適用となります。従って、どういう扱いになるかは横浜市の裁量で決まるということになります。
「臨時職員等」とは、水道や横浜市営バス、横浜の清掃の方、横浜市立病院の方などで、「労基法別表1に掲げる事業に雇用される者」とはこの業種になります。ここで働くパートの方は労働者災害補償保険法の適用となるので、労働基準監督署に請求書を出します。
つまり、横浜市立病院だから横浜市の職員ということで地方公務員災害補償法が適用されると思ったら違うこともあるということです。かなりわかりにくいので注意が必要です。
労働基準法別表第1も非常にわかりにくく、病院の皆さんはこの13号「保健・衛生業」に入ります。病院、クリニック、保健所、尿検査や血液検査をするラボの他、保育所の保育士もここに入ります。障害のあるお子さんが通う施設もここに入ります。各区分の詳細まで知る必要はありませんが、臨時職員は民間労災の場合もあるということを覚えてておいてください。
公務災害の問題点③
3番目の問題点は、認定基準が民間のと微妙に違うということです。私どもは、公務災害の方が少し厳しく、おかしいと思っています。精神疾患の認定基準を例に出しました。いわゆるカスタマーハラスメントについて、労災保険では、「顧客や取引先、施設利用者から著しい迷惑行為を受けた」として、「弱」「中」「強」になる例がそれぞれ細かく書かれています。「強」の例としては「治療を要する程度の暴行を受けた」「人格や人間性を否定するような言動を反復・継続するなどして執拗に受けた」とあります。「中」になるのは「反復・継続していない」とあります。
公務においても、住民票を出す所で住民が怒鳴る、学校の先生に対する保護者からの嫌がらせ等カスハラは結構あります。しかし、公務災害の認定基準には「公務に関連し、住民からひどい嫌がらせ、いじめ、暴行を受けた」と非常にさくっと書いてあり、トラブルの状況について「程度、内容、継続期間、周囲の反応、当局の対応」を勘案して判定するというだけです。言い方は悪いですが、公務災害は判定するところのさじ加減で決まります。
公務災害認定事例
宝塚市立病院の臨床検査技師がホルムアルデヒドを扱っていて、シックハウス症候群で20年に公務上認定されました。
労働基準監督署も、病理検査室の換気装置が壊れていたにも関わらず放置していたということで是正勧告していました。宝塚市は、第三者委員会の大学の先生などを呼んで不備の原因などを調査しました。これについては宝塚市役所のホームページで第三者委員会報告書を見ることができます。その大学の先生によると、換気装置が壊れていたのに大丈夫だと言って全然直さなかった検査技師の役付の人がいて、作業環境測定としてホルムアルデヒド濃度を測る際、ホルムアルデヒドを扱っているときに測定しなければいけないのに、扱ってない時間に測定するよう業者に頼んだりしていたとのことです。その人に聞き取り調査したが、悪いことをしたという意識が全く無い。だからこういう事が起きたということです。検査技師も知識が無く、自分の身体を大事にしない、専門外だから知らないということなのか職場の閉鎖性なのか、第三者委員会報告書には問題点がいくつか指摘されています。 私は、病院という職場の体質の問題だと思います。臨床検査技師という有害薬品を扱う職種でそういう理解が無いというのが実態なのです。
病理検査室における曝露の実態
ある自治体立病院の事例です。病理検査室で切り出し作業(顕微鏡で見るため臓器を切片にする)の際、切片が腐らないようホルムアルデヒドを使いますが、大量に使用したことで30代女性が化学物質過敏症になりました。実は、その職場に異動してから、皮膚が赤くなる、喉がおかしい、目が乾く、慢性疲労感が出て頭痛や倦怠感、生理不順など様々な症状が出ましたが、それと化学物質との関係に全く気づかず、想定もしませんでした。
当時、その職場は防毒マスクをして作業すべきレベルの環境(管理区分3)で防毒マスクは置いてありましたが、みなマスクを付けずに作業していました。彼女も、ホルムアルデヒドの危険性や防毒マスク等について説明も教育も全く受けていませんでした。しかも、彼女は病院側のミスで特別健康診断の名簿から漏れていました。また、病院の安全衛生委員会で、この職場は劣悪な環境だという報告されなければいけないのに、安全衛生委員会の議事録には全く載っていませんでした。
彼女は、1年数ヶ月働くうちにどんどん具合が悪くなりましたが、ストレス症状だと思っていました。ついに耐えられなくなり退職した後、ネットなどでいろいろ調べて、ホルムアルデヒドと化学物質過敏症のことを知りました。ところが、神奈川県には化学物質過敏症専門の病院がなかったので、東京の専門クリニックを受診し、化学物質過敏症の確定診断を受けました。それから神奈川労災職業病センターに相談し、公務災害請求を行い、現在まだ審査中です。
公務災害請求の特徴
公務災害と民間の労災の違いと特徴について。 公務災害は非常に情報収集しやすい。各自治体の公文書公開条例に基づき、作業環境測定記録や作業日誌などを請求すると、コピー代だけで誰でも簡単に入手できます。民間会社だと、会社の重要な情報だから開示できないということもありますが、公務災害の場合は、この点は、やりやすい。
また、公務災害の場合、原則、最初の災害認定を職場の上司に出しますが、これは非常に心が重い。例えば、パワハラされた人がパワハラした人にハンコをもらわなければいけないのは全くナンセンスです。神奈川県では、やむを得ない事情があれば基金支部(県庁)に直接出せば良い、県庁がかわりに上司に聞くという明確なルールがあります。こういうやり方があることを知っておいて下さい。
自治体立病院の労災
病院の問題について。ソーシャルワーカーなど専門職の悩みは、違う職種に愚痴は言えても、わかってもらえないことがあるかと思います。専門性=閉鎖性の傾向があり、「大変ね」とは言ってもらえても、「こうして解決したら良いよ」という話にはなりにくいと思います。
自治体立病院の安全管理監督者は労働基準監督署ですが、労基署が病院に立ち入り検査することはあまりありません。なぜなら、医者がたくさんいるから安全だと思っているからです。更に自治体の病院だと、労基署の人間でさえ、「うちの管轄ではないでしょう」というぐらいの知識です。前述のように病院、保育所、保健所などは公衆・保健衛生の業務なので、労基署が立ち入り検査し、場合によっては上司を逮捕することもできます。しかしこれは法律上のことで、実態は何もされていません。
誰かに相談したい時
入退院の際など病院で一番身近な相談者はソーシャルワーカーです。「実は職場でこういう事が」という話になった時、今の話を思い出していただければと思います。
まず行政、市役所とか労基署など公的機関に相談するのも一つの手です。健全な職場であれば、職場に相談するのも手です。また、大体の自治体には自治労や自治労連などの労働組合がありますので、公務員であれば労働組合に相談するのも一つです。
外部には、社会保険労務士や神奈川労災職業病センター、1人でも入れる労働組合など色々な相談機関があります。皆さんも一緒に探してあげればと思います。
労働組合の役割は
労組の組織率は低く、働く人は6000万いますが最大組織の連合でも500~600万しかおらず、ほとんど労組に加入してないのが実態です。そこに期待するのは無茶な話かもしれませんが、私は労働組合は使いようがあると思っています。
労働組合は「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持・改善や経済的地位の向上を目的として組織する団体」です。労働組合と言うと、○○自動車が1万円賃上げした、△△工業は満額回答したなど経済的な話題がよくニュースになりますが、労働条件の維持・改善にも取り組んでいます。 例えば、横須賀市の火葬場の職員が、ご遺体を焼く火葬炉の点検中にタオルか何かを取ろうとして巻き込まれ指を飛ばすという事故があったのですが、労働組合は機械の危険性を指摘し、そういう作業は絶対やらせないことになりました。
また、学校や保育所の建物でアスベストを吹き付けたまま使っている所があります。子供が遊ぶ教室の天井がアスベスト吹き付けということもありました。神奈川労災職業病センターから、横須賀市立の学校と保育園の点検をしましょうと言われ、組合員に対し、各学校の給食調理員や学校用務員、保育園の保育士たちに手紙をだして、アスベスト吹き付けの所は無いか聞きました。何ヶ所かあるとわかり、その中に給食調理室がありました。東京安全衛生センターと一緒に行ってみると、確かに、もこもこした白いものが天井に吹き付けてあり、今にも落ちそうな状態でした。その欠片を持ち帰り分析機関に出したところアスベストが発見されました。それで横須賀市教育委員会に抗議したら、勝手に入って何したのかと逆に文句を言われたので、労働組合として労働条件維持のためにやっているんだとけんかした記憶があります。
労働組合は憲法28条で団結権が保障されています。最低2人必要ですので職場で仲間を作り、団結して会社と団体交渉する権利があります。また、団体で行動する権利、ストライキをする権利が認められています。ちなみに、労働組合がストライキをしたことで会社は売り上げが減って損しても、労働組合にその損害賠償を請求することはできません。私も経験がありますが、昔は公務員もストライキをしました。さすがに病院を全部止めたことはありませんが、諸外国では今も堂々とやっているところもあります。 ちなみに、日本の警察は労働組合を作れませんが、イギリスはジェームズ・ボンドがいたような秘密諜報組織でさえ労働組合を作れます。日本の場合、かなり制約はありますが、権利は堂々と主張できるということです。
労組の力は結構ある
沖縄県のホームページには「労働組合の活用と組合作り」が掲載されています(注1)。自治体がこういうことをしっかり掲載しています。
労働組合法に定める「不当労働行為」は事業主が行ったら罰せられる行為です。まず、組合活動したことを理由に解雇したり給与を下げること。
次に、団体交渉を正当な理由なく拒否すること。つまり、病院でソーシャルワーカー2人で組合を作り、病院長または市長に対し、手当を千円上げて下さいと交渉を申し込むと、使用者は正当な理由なく拒否できません。「金がない」というのは正当な理由になりません。使用者が交渉を無視し、放っておかれた場合は労働委員会に救済申立の手続きができます。だからといって千円上がる訳ではないですが、話し合いの場に引きずり出すことはできます。労組をつかって職場の問題解決を図ることは重要だと思います。
また、労働組合の結成や運営に対して支配・介入すること。この場合も労働委員会に救済を申し立てることができます。
まとめ
公務災害であれ労災であれ、いつどんな災害に遭うか誰もわかりません。そんな時、もしかしたら仕事が原因ではと言ってあげる。本人は気づいていませんから。たとえ違っていても、振り返って考えて頂くことは経済的な面でも必要かつ有効だと思います。併せて、どこに相談したら良いのか伝えればなお良いでしょう。
パワハラホットラインなど電話相談の際、私は、地域の労基署や市役所にも相談する場があることを伝えています。神奈川県だと労働局の相談部門等がホームページでわかります。職場に労組がない場合は、地域の労働組合(よこはまシティユニオン、ユニオンヨコスカ等)を紹介します。実際、医療技術職の方がユニオンに加入し、事務長と交渉して職場環境を改善したという事例も聞いています。これらの仕組みを大まかに理解しておくと、相談の際に役立つと思います。そして難しいケースだと思ったらお気軽に、神奈川労災職業病センターまでお電話頂ければ対応させて頂きます。ご静聴有難うございました。