染料・顔料中間体製造工場で膀胱がん(安全センター情報)

昨年12月18日、厚生労働省は突然、「芳香族アミンによる健康被害の防止対策について関係業界に要請した」と以下の通り発表した。染料・顔料の中間体を製造する事業場で複数の労働者が膀胱がんを発症した。被災者は、オルト―トルイジンをはじめとする芳香族アミンを取り扱ったことが分かり、現在調査中。記者会見で事業場名を問われた厚労省は、「行政に相談したらすぐに事業場名が出るとなると、相談が来なくなる。所在地も含め現時点では勘弁してほしい」と答えた。
12月21日、福井県庁で、被災者2名から相談を受けた化学一般関西地本が記者会見を行った。三星化学工業福井工場で男性従業員5人が膀胱がんを発症。関連が疑われているオルト―トルイジンの危険性については、約4年前に初めて知らされた。会社がもっと早く対策を講じていれば、こんなに多く発症しなかったと訴えた。夏場は半袖で作業し、腕に物質が付いて真っ白になったという。2人は昨年8月と11月に相次いで膀胱がんと診断され、手術を受けた。同僚も今後発症する可能性がある。
今年1月15日午前、被災者2人と労組が上京し、三星化学工業本社と交渉した。社長は「すまないと思う」と謝罪した。午後には厚労省に、早期の労災認定や対策の強化を要請した。
オルト―トルイジンについては発がん性が指摘されており、2010年に国際がん研究機関(IARC)が、グループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性あり)からグループ1(ヒトに対して発がん性あり)に引き上げた。08年には国によるリスク評価の対象にも取り上げられていた。ところが国は、事業場の調査を踏まえて「リスクは低い」と評価して、何らの対策も講じていなかったのだ。
今年6月に施行されるリスクアセスメントに関する労働安全衛生法改正によっても、今回のような事態は防げない。なぜなら、リスクアセスメントの結果に基づく最優先措置として、06年指針にあった「危険性もしくは有害性が高い化学物質等の使用の中止」というカテゴリーが15年指針では消えてしまっているのだ。
今年1月21日に厚労省は、「芳香族アミンの取扱事業場に関する調査結果等について」第一報を発表した。オルト―トルイジンを取り扱っている、取り扱っていた57の事業場を調査したところ、労働者1名、退職者3名が膀胱がんの病歴を有することが判明。作業内容等を更に調査すると共に、相談フリーダイヤルを設置して対応する。【川本】