「改正」労安法のストレスチェック

2015年12月からの施行ということで、まだまだ準備中の職場も多いようだが、十分な準備がされない、労使の信頼関係がない職場では、ぜひ「ストレスチェックを拒否しよう」という運動を呼びかけたい。【川本】

職場全体のストレスリスクアセスメントを行おう!

ストレスチェック制度については、法施行前後やそれ以降たびたび新聞で解説記事が掲載された。それらは課題や問題点に触れつつ、おおむね肯定的だが、実際には現場では大いに困惑している。労使ともに実務的に無理難題が多過ぎる。まず、「性善説に立たないと成り立たない」と専門検討会でも委員が述べたように、悪質な社長や、「非協力的」な労働者が多いと実施は無意味。手間と費用がかかることや、現実に労使ともに信頼できる産業医がなかなか見つからないこともあげられる。
根本的な欠陥は、集団分析と職場改善が努力義務となったこと。そもそも「心理的な負担の程度」を調べるという法の趣旨が完全に誤解されており、「心の健康状態を調べる」(日経新聞16年1月16日付)、「心の健康状態知ろう」(毎日新聞16年1月28日付の見出し)というように、個々人の健康状態を調べて、それに基づいた面接指導という個人対策ばかりがクローズアップされている。
面接指導についても、医師の意見や労働者の希望がそのまま通るとは限らない。つまり、法律では、医師からの意見をきいた事業者は「医師の意見を勘案し、その必要があると認める時は」「措置を講ずる」ことが義務づけられているに過ぎない。

厚労省が示した「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(以下「指針」という)では、措置を講じるにあたって、「あらかじめ当該労働者の意見を聴き、十分な話し合いを通じてその労働者の了解が得られるよう努める」、「不利益な取り扱いにつながらないよう留意しなければならない」とされる。つまり、事業者は、医師の意見に従って対策を講じなければならない法的義務はない一方で、当該労働者の了解が必要条件にはなっていない。「面接した医師は本人の事情や意見を聴き、事業所側に伝えて、労働時間の短縮など必要な措置をとってもらう」という上記の毎日新聞の記事は、まさに性善説に立つあまりにも楽観的な認識。むしろ企業にとって「必要があると認めるとき」にだけ措置を講じればよいのであり、医師の意見や労働者の意向とは必ずしも一致しないからこそ、「指針」で、事業者に対して、「労働者の了解が得られるよう努める」ことや「不利益な取り扱いにならないよう留意」を求めているのである。

多くの職場の実態をふまえると、病人探し、排除の危険性は極めて高いと言えよう。結局、事業者の法的義務は、ストレスチェックを何人受けて、何人面接指導したのか、集団分析をしたかどうかを監督署に報告するだけである。例えば36協定の長時間労働規制に比べても、事業者に適切なストレス対策を講じさせる担保はないに等しい。
やはり、自殺予防に名を借りたうつ病チェック、健康診断の延長線上でできた制度であることが問題の元凶である。そうした個人対策ではなく、まずは職場全体のストレスリスクアセスメントを行うよう義務付けるべきだ。その一環として職場改善を進める上で、労働者個々人の意見を聞くことなら意味があるだろう。
労働組合がしっかりしていれば、ストレスチェックも活用できるのではないか、という意見もあり得る。もちろんそういう職場では、欠陥だらけの今回のストレスチェックに縛られることなく、きちんと活用してほしい。さらに労働組合がきちんとした「職場のストレスアンケート」を取るなどの活動を充実させる。本人や同僚のことも含めて気になることは労働組合に情報を寄せてくれという活動を展開して、会社に職場改善要求や、もちろん必要に応じて個人対策を講じるべきである。