オルト-トルイジンによる膀胱がん労災認定闘争の取り組みに学ぶ(職業がんをなくそう集会)

職業がんをなくそう集会
オルト-トルイジンによる膀胱がん労災認定闘争の取り組みに学ぶ

2016年10月15~16日に、福井県三国市で「第2回職業がんをなくそう集会in 福井」が開催され、当センターから川本、鈴木が参加した。昨年12月、芳香族アミン類の一つであるオルト―トルイジンにばく露した労働者に膀胱がんが多発していることが報道された。まさにその現地で、現在の職場の状況と、それまで職業がんの労災認定闘争や根絶の取り組みを行ってきた労働組合や団体が集まり、情報を共有し、議論した意味は非常に大きい。
集会では、関西労働者安全センターが印刷工場での胆管がん被害について、当センターは保土谷化学のベンジジン労災問題について報告した。ここでは、当事者である化学一般関西地方本部三星化学工業支部書記長の報告を紹介する。【川本】

■悲しい現実 その1  責任をとらない管理職
三星化学工業福井工場では、現時点で、現職5人と退職者2人が膀胱がんを発症した。他工場の現職1人と退職者1人を合わせ9人の発症となっている。
今年1月に組合を結成し、作業環境改善や安全衛生教育の実施、労働条件改善を求めている。しかし、従業員39人中組合員は6人であり、発症した3人は手術後は普通に同じ作業をしているためか、がんの恐ろしさを同僚は認識しておらず、むしろ避けているのが現状。なぜ同僚は目覚めないのか。ばく露しても必ず発症するものでもなく、「自分は大丈夫」という期待を持ってしまうし、潜伏期間が20年前後ということもある。さらに、いまだに労災認定されていない。管理職は誰一人被害者に謝罪していない。今でもばく露してしまう職務命令を平気でしてくるので、毎日毎日がとても大変である。

■悲しい現実 その2  過ちを認めない経営者
私は昨年12月7日に、労働基準監督署に労災の請求用紙をもらいに行った。同日午後に監督署の最初の立ち入り調査が行われた。厚生労働省は、12月18日に福井工場で取り扱っているオルト―トルイジンなどについて全国的に注意喚起を発表したが、会社は、12月21日まで製造を続けた。22日からは報道関係者からの問い合わせがひどくなり、仕事どころではなくなり自宅待機となった。会社は今年1月4日から再び製造を開始しようとしたが、組合からの要請もあり、オルト―トルイジンの製造は取りやめた。
1月15日に、東京で代表取締役社長らに組合として要請したが、社長は業務上の疾病であることを認めなかった。4月になって、社長らが各被災者宅を訪問して、口頭及び文書にて謝罪を行った。しかし今日に至るまで補償についての話は一切ない。組合としては5月に労働協約案を提出したが、会社は拒否している。

■悲しい現実 その3  救いの手(組合に救われた命)
三星化学工業は、1955年に操業を始めた。従業員は約180人。本社は東京都板橋区にあり、福島県相馬市にも工場がある。
福井工場の操業は1989年。福井工場で扱う原料はオルト―トルイジンとアニリンを中心にすべて芳香族アミンだが、安全データシート(SDS)が職場に配置されたのはわずか5年前のことだ。安全衛生教育は全くなく、組合からの指摘を受けて、今年2月に初めて行われた。発がん性についての説明はそれまで一切なかった。5年前から私たちは何度も改善や中止を求めてきたが、一切無視されてきた。
このような中で膀胱がん発症者が3人目となった昨年9月に、化学一般関西地方本部に相談し、今年1月24日に三星化学工業支部を結成した。
私たちは、膀胱がん多発という辛くとても悲しい事件から多くのことを学んだ。労働組合がなければ、職場環境やすべての労働条件で根本的解決を図ることができないことを知った。三星化学工業の労働者は組合に命を救われた。膀胱がん検査が強化され、6人目の発症者は早期発見で助かった。このことは他社で同じ物質を取り扱う事業所の現職・退職者の方についても同様だと思う。組合があるからこそ、ばく露対策も進む。

■希望の灯り 職業がんをなくす闘い
昨年12月、膀胱がん多発問題を公にした。立ち上がった勇気の源はどこにあったか。それは「石橋良信さんの職業がんを労災認定させる長年の闘い」があったからだ。私たちは石橋さんの闘いから希望の灯りをいただいた。石橋さんの闘いは労災認定を求める闘いだが、真の目的は「職業がんをなくす」ための闘いであったと思う。闘いは今年2月に最高裁で敗訴したが、故石橋さんとご家族の願いである「これ以上職業がんで苦しむ人を生み出さないでほしい」という願いを、希望の灯りをいただいた私たちが引き継がなければならないと思う。石橋さんの14年間の闘いに係わってこられた多くの先輩方や石橋さんのことを鑑みたとき、私たちはとても不肖であり、どうしても足が前に出にくいことがある。なんとか克服していきたいと思うのでよろしくお願いします。