いのくら 神奈川県交渉の報告

 センターは、県民のいのちとくらしを守る共同委員会(略称「いのくら」)に参加し、毎年、神奈川県に対し労働安全衛生等の課題について要求、交渉を行ってきた。今年は、労災手続きを嫌がる精神科等の医療機関の問題を取り上げた。

センターの要求

 労災指定医療機関ではないことを理由に、通院中の患者さんに対して「労災請求するなら転院してもらう」とする病院・診療所が多数見受けられ、ホームページ等で「労災請求を希望する患者は診察しない」とする病院・診療所も存在するが、いずれも明らかな医師法違反であるので、県が指導を行うこと。

神奈川県の回答

 医師法に定めのある医師の「応招義務」に関しては、国通知「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」において、患者を診察しないことが正当化される事例について、患者の迷惑行為、医療費不払いなどのほか、医師の専門性・診察能力、当該状況下での医療提供の可能性等のほか、患者と医師との信頼関係等も考慮して解釈されるといった記載があります。こうした状況に該当せずに診療を拒んでいる場合は、医師法違反になり得るものですので、県が所管する病院等に関し、立入検査等の機会を捉えて指導していきます。

 上記回答を受け、他団体とも協議の結果、雇用課題の最重点要求として12月18日に以下の通り要求した。

雇用課題最重点要求

 精神科ないし心療内科の病院・診療所において患者が労災請求することだけを理由に診察しない、あるいは転院を促すことは医師法違反であることを、県が所轄するか否かに関わらず、全ての医療機関に周知・啓発するとともに、患者等から情報提供があった場合には立ち入り検査等を行い事実確認の上、指導すること。

趣旨説明

 神奈川労災職業病センターや地域の労働相談活動に積極的に応じている労働組合・団体には、メンタル労災の相談が急増している。それは労働基準監督署や県などの行政機関、弁護士等でも同様である。他の疾病と異なり、休業が必要なぐらい症状が重篤化していても、数週間先にならないと診察を受けられないことも珍しくない。そうしてようやくたどり着いて治療を始めたところ、仕事や職場が原因であると主治医に説明した途端に、「うちでは労災は診れない」と転院を進められたり、事務の方から「全額自費で払ってください」「うちは労災指定医療機関ではない」として、労災請求手続きに全く協力してくれない事例が非常に多い。
 その結果として労災請求しないまま請求に至らず休職期間満了となり、退職を余儀なくされることもある。休職期間満了直前になって労災請求しても、多くの会社の休職期間は半年から1年半であることが多く、労働基準監督署が調査した結果、関係者がすでに退職している、記憶や記録がないなどの理由で、事実関係不明とならざるを得ないこともある。いわば労災「隠し」である。
 実際のところは、健康保険扱いで治療を続けて傷病手当金をもらいながら、労災保険請求すればよいだけのことである。傷病手当金の請求用紙にも労災請求中であることを記入する欄があらかじめ存在している。つまり上記の対応は、単純な医療機関側の誤解でしかない。しかしながら仕事を休業しているような被災者にとって、医療機関側に誤解を解くことは不可能に近く、当センターが医療機関に何度も説明したり、なんとか手続きに協力してもらうことが何度もあった。被災者が主治医や医療機関との関係悪化から、やむなく転院したことも一度や二度ではない。上記の通り、すぐに診てもらうことは容易ではなく、精神疾患の患者にとっては生命に直結する問題である。
 神奈川県はこうした実態を踏まえて、医師法違反について啓発活動を行うとともに、情報提供があった場合には直ちに立入検査をするなどして指導することを強く求める。【川本】