職場のハラスメント問題を考える春闘学習会:よこはまシティユニオン
4月4日、よこはまシティユニオンが職場のハラスメント問題をテーマに学習会を開催した。後日詳しい記録がまとめられるとのことであるが、参考になる話がたくさんあったので簡単に内容を報告する。 【川本】
目次
石川由美子さん(女のユニオン・かながわ)の話
石川さんは、10年近くにわたって東京都で労働相談を担当してきた方である。行政として、労働者の相談を受けて、会社との間に入ってあっせんを行い問題解決を図る。裁判所などのように法的強制力があるわけではないので、双方が合意することが重要であり、事例も踏まえて相談対応のポイントを解説。
事例の紹介
入社間もない経験の浅い女性社員のセクシュアルハラスメント事例について、相談から解決までの2件を紹介した。
どちらのケースでも加害者は「仕事のできる」上司として評価されており、会社は被害者が感じていた苦痛を理解していない様子で、あくまでも個人間の問題という姿勢を崩さなかった。時系列で細かな事実関係やその時の言動を整理し、当時の被害者の心理を説明した。「男性が嫌いな上司にゴルフに誘われた場合」、実は2回目に断る方が難しいという例を出して説得したところ理解は示したが、結局は両ケースとも金銭解決で被害者が会社を辞めることになった。
性自認が女性で、障がい者枠で採用された社員のケースでは、会社に落ち度はないものの、行政が間に入ったことで本人の精神状態が落ち着き、就労を継続できた。
相談対応のポイント
①安心感
被害者は相談に来るまでに十分に傷ついているので、まずは安心して話せる信頼関係を築くことが重要になる。自分が悪いのではないか、信じてもらえないと考えて、被害の証拠もない、記憶を整理することもできていないことが少なくない。聞く姿勢や場所は重要になるが、相談を受ける側も疲れないようにする必要がある。余裕がないと相談を受けることはできない。
②事実を確認する
時系列で整理して、組織図や職場の配置なども確認する。必ずしも必要でないこともあるが、それを見て相談者が冷静になり忘れていたことを思い出すこともある。証拠がなかったり、自分に有利なことしか話さない人もいるが、否定的にはとらえない。相談した人の反応を尋ねると、証拠になることもある。いずれにせよ交渉する場合は全体像をつかむ必要がある。
③着地点の確認
相談者が何を目標とするのか、将来像を確認する。知識だけなら相談者の方が詳しいこともあって、こうなるはずだと決めている人もいるし、逆に精神的不調からどうすればよいのか、自分で決められない人もいる。いずれにせよ法的、制度的に可能なことと不可能なことはきちんと説明する。様々な選択肢を示して、相談者自らが決めたことを支援することが大切だ。
山本有紀弁護士(湘南合同法律事務所)の話
山本弁護士は数多くの労働事件に関与し、よこはまシティユニオン組合員らのセクハラ労災裁判(加害者や企業を相手取る民事損害賠償や労災不支給処分取り消し)の代理人も務めている方。もちろん雇用関係その他多くの労働事件の経験がある。ハラスメントについては、裁判所による賠償の実現は容易ではなく、労働組合による被害者救済とあわせた再発防止、改善の取り組みが重要である。
ハラスメント被害の現状
厚生労働省の調査では、過去3年間にパワハラ被害を受けた人は19・3%、セクシュアルハラスメントは6・3%、カスタマーハラスメントは10・8%。パワハラやセクハラを受けた後に「何もしなかった」がそれぞれ36・9%、51・7%に上る。その理由としては「何をしても解決にならないと思ったから」が半分以上を占めている。つまり、行政や弁護士などに相談する人は被害者のごく一部であり、裁判に至る人はもっと少ないことになる。
ハラスメントに関する裁判の現状
ハラスメントの損害賠償問題を裁判で解決できるか。率直に言って非常に厳しい現状にある。その理由は以下3つのハードルが高いことにある。
①客観的事実の立証
ある事件では被害者に、「嘘を言う問題児が来た」、「嘘をつくから信じない方がよい」と言うなどして、仲間はずれにした加害者が、「言っていない」と言い張ったことから、「上記事実を認定することはできない」との判決になった。職場の会話や噂話を明瞭に録音することなどできるはずがなく、仲間外れになった被害者の側に立ってくれる人を見つけることはもっと難しい。
②行為の違法性の認定
高松地裁の判例で、「手や腰に触れた行為や職場でスカートの裾を持ち上げた行為等」をセクハラとして違法性を認定した。一方で「業務で移動中の車内で容姿を褒めたり口説いたりした行為」、「交際を求めるような発言をした行為」、「住所を聞きインターネットで調べた行為」については違法性を否定した。
札幌高裁の「旭川公証人合同役場事件」の判例では、メッセージアプリをインストールさせて、業務時間内外を問わずハートマーク等を送る行為について、会食を断られた後については違法性を認定した。しかし、二人だけの会食に誘う行為、一緒に帰宅しようと申し出て、断られてもなおもついていった行為についてはいずれも違法性を否定した。
③損害額(が低い)
上記①の事件は事実認定がされなかったので賠償額はゼロ。②の高松地裁の事件の賠償額は33万円(請求は約2248万円)、②の札幌高裁の事件は賠償額は33万円(請求は約667万円)という結果である。
京都地裁の学校法人つくば開成学園事件では、意に反する性行為も含めたセクハラを事実認定し、それと原告のうつ病やPTSD等との因果関係も肯定。ところが原告には父親の性暴力など幼少期のトラウマや解離障害等があるという理由で、損害を全部被告らに負担させるのは相当ではないとして4割減額。結果として請求額約7000万円に対して、594万円しか認めなかった。
まとめると、裁判所は、原告側にハラスメントに当たる行為一つ一つの客観的な立証を求め、それらをバラバラにして違法性について評価をする。変えようのない成育歴や既往症を理由に賠償が減額されるわけで、被害者の救済や再発防止にもつながらない。
職場の取り組みに一定の効果はある
厚生労働省の調査によると、ハラスメント対策に勤務先が「積極的に取り組んでいる」と回答した者で、パワハラを経験した割合が最も低く(15・5%)、「あまり取り組んでいない」職場では最も高かった(35・1%)。同様に「積極的に取り組んでいる」と回答した者で、セクハラの経験が5・5%、カスハラが12・2%と最も低かった。
事後的な法的判断よりも対策が重要
使用者や加害者が事実や評価について争ったまま迎える司法の判断(判決)は、労働者を救済し、ハラスメントを防止する内容には至らないことが多い。したがって、職場のハラスメント問題への効果的な取り組みは、ハラスメント相談窓口の積極的に利用して、その機能を向上させることや労働組合による職場環境の改善ということになる。
まとめ
会場には、よこはまシティユニオンの組合員の他に、全造船関東地協労組ジァム分会、ユニオンヨコスカ、湘南なぎさユニオン、女のユニオンかながわの組合員も参加。各ユニオンにはハラスメント相談が数多く寄せられている。「大変参考になりました」という被害当事者からの発言もあった。
お二人の話をふまえると、客観的な証拠をどれだけ確保できるのか、職場の仲間の支援がどれぐらい得られるのかが、非常に重要であると改めて感じる。それを踏まえて、手段や目標を十分に相談者と議論して一致して、取り組みを進めなければならない。会社や加害者の対応に変化があるように、本人も迷い、どうすればよいのかわからないことがある。本人の意向で多くの人たちで議論することができないこともある。職場のハラスメント問題は、まさにユニオンの団結の質、仲間との信頼関係が問われる課題である。
