被ばく労働問題などで省庁交渉

2月19日に、全国安全センターなどが呼びかける第13回目の「被ばく労働問題に関する省庁への要請」が行われた。要請内容は労災防止対策、偽装請負問題、健康管理のあり方、緊急作業の被ばく線量引上げ問題など。国側の発言は相変わらずひどく、抽象的で具体性がなかった。【川本】

原発の労災防止対策は、法改正ないしは特別立法と国の積極的関与が必要
福島第一原発で労災事故が激増している。最も大きな原因は、安全対策を講じるべき東京電力に法的裏付けがないため、結局、各元請にお願いするしかないこと。1日7千人もの労働者が世界で初めての作業に従事しているのだから、それなりの仕組みが必要である。ところが、国は、大臣が社長を呼んで、「当事者意識が足りない」と叱りつけるしかないのだ。それでうまくいくはずがない。
今でもできることはある。監督署が日常的にきちんと安全対策のチェックを行えばよいのだ。ところが「月に1回は立ち入り調査をしています」と言うだけ。その結果が、労災の激増、死亡災害だということが理解できていない。

偽装請負が増えている
東電のアンケートでは、偽装請負ではないかと考える労働者が3割にものぼり、同様の1年前のアンケート結果よりも増えている。国は、一般的に偽装請負の実態があれば対策を講じると回答を繰り返すが、結果に基づく対策を講じていれば、減るのが当たり前。実際には放置されていると言う指摘に、交渉出席した本省の職員は「そうですよね」と苦笑するしかないのだ。東電と協力して、アンケートの原本をも活用して、本気で違法派遣や偽装請負をなくすことが、現場の労働条件向上につながるはずだ。

緊急作業に従事させるな慎重かつ真摯な議論を
要請書にある通り、原子力規制員会は、原発事故の際の緊急作業において、現行の労働安全衛生法で定められた被ばく線量の制限値を引き上げようと言う議論をしている。厚生労働省はもちろんのこと、防衛省も消防庁も、自らそれを引き上げるための議論はしていないことを確認した。しかし政府が方針を出せば、厚労省も検討すると言う。
一方で交渉に出席した原子力規制部原子力規制企画課の課長補佐の戸ヶ崎氏は、国際的基準と福島第一原発事故をふまえて、議論しているという。そして、あくまでも事業者、原発で言えば電力会社のあり方を規制するのが規制庁の役割と言う。つまり労働者を想定している。自衛隊や消防署員のことは視野に入っていないようだ。
あらかじめ放射線障害を引き起こすような放射線を浴びることを、「教育」「訓練」を受けて「志願」したからといって、会社が労働者に命じることが許されるはずがない。そうした労働契約法や労働安全衛生法の精神を根底から踏みにじることを前提にするのが、原子力発電所なのだ。原子力規制委員会は、労働者にそうした被ばくをさせてはならないことを前提に、どのような立場のどういう組織と人に緊急作業に従事してもらうのかを、慎重かつ適切に議論することが求められる。もちろんそうした緊急作業の可能性を高める原発の再稼働は許されるはずがない。
第13回 被ばく労働問題に関する省庁への要請書(15年2月19日付)
1.東電福島第一原発の労働災害防止ついて
1) 昨年来、東電福島第一原発等で労働災害が激増している。国として労災多発の原因をどのように考え、今後労災防止対策を徹底するため、どのように取り組むか明らかにすること。

2) 本年1月22日、厚生労働大臣が東電に対し、「原子力発電所の労働災害防止対策の徹底について」のなかで、「東京電力は、単なる発注者ではなく、原子力施設の所有者であり、原発事故の当事者であるとの自覚のもと、当事者意識を持って施設内の労働災害防止に万全を期すこと」等を要請した。労働安全衛生法上の責任がない東電に対し、国がいくら当事者意識を持てと要請しても、その実効性は限られており、抜本的な労災防止対策に取り組ませることができない。原子炉等規制法においては原子炉設置者が責任主体であることから、労働安全衛生法令においても原子力事業者を、被ばく管理を含めて労働安全衛生法上の事業者とみなす規定を設けること。
3) 福島第一原発構内で発生した労働災害について、「東京電力が資源エネルギー庁に送る事故発生時の連絡メール」、「各労働基準監督署に届けられている死傷病報告書」及び「被災労働者に支給した療養補償給付」を照合し、全貌を正確に把握して分析を行い、労災隠しの撲滅、予防対策に活用すること。

4) 東電には現場で発生する労働災害を防止するための責任、能力、技術、経験が決定的に欠如しており、東電任せでは労働災害を防止できない。国の監督機関は福島第一原発に常駐し元方事業者と合同して現場の監督指導に徹底して取り組むこと。

2.偽装請負、違法派遣の防止、労働法令違反の防止について
1) 東電の労働環境に係るアンケート結果(第5回、14年9月公表)でも、回答者の約3割の作業員に偽装請負が疑われた(前回アンケート結果より増えている)。厚労省、経産省はこの東電アンケート結果をどのように受けとめ、対応すべきか明らかにすること。

2) 偽装請負や違法派遣が後を絶たない実態を鑑み、福島第一原発で働いた労働者に関する労働基準法、職業安定法ないしは労働者派遣法、労働安全衛生法違反の事例を監督機関が集約すること。そのために、厚生労働省と資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室の連携の仕組みを確立すること。

3.福島第一原発作業員の健康管理について
1) 11年12月16日の「収束宣言」までの緊急作業従事者と同じく、それ以後に事故収束作業に従事した作業員にも退職後の長期健康管理制度を適用すること。

2) 電離則健診等の偽造問題に対し、行政官庁がとった元請事業者及び下請事業者に対する監督指導の内容と再発防止対策について明らかにすること。

3) 今年12月に施行される改正労働安全衛生法のストレスチェックについて、さまざまな規模の事業主が混在する福島第一原発ではどのように適用されるのか。具体的にはどこの会社がどのようにストレスチェックを行い、集団的な分析による職場環境改善にどう取り組むのか明らかにすること。

4.緊急作業対策について
ICRPが勧告し、放射線審議会でも確認されたとおり、原発事故時の緊急作業は教育、訓練、志願の3原則が明示されている。しかしその原則に応じた法整備は可能なのか。労働者にやらせることができるのか。緊急作業における消防や自衛隊の位置づけはどうなるのか。または志願者による「特別」隊が必要になるのか。
昨年12月10日、原子力規制委員会は、緊急作業時の被ばく基準を緩和し、被ばく線量の制限値を250ミリSvに引き上げること、緊急時被ばく線量と平常時被ばく線量を別だてに管理する方向で検討を進めようとしている。
昨年12月26日に開かれた厚労省の「第1回東電福島第一原発作業員の長期健康管理等に関する検討会」では、ICRPが想定し被ばく線量を引き上げざるを得なかった緊急作業とは、救急隊員や医療者の作業であり、東電社員などのいわゆる原発作業員の作業とは異なるのではないかといった意見が複数の委員から出された。また今年1月15日の第2回検討会では、ICRPの正当化原則における被ばく限度及び諸外国の例について、委員のあいだの認識差が目立っていた。

1) ICRP2007の緊急時被ばく状況における職業被ばくの参考レベルとして示された、①救命活動(情報を知らされた志願者)、②他の緊急救助活動は、電離則で規定する緊急作業には該当しない。またBSSにおける緊急作業として、①救命措置、②健康への重大な確定的影響を防止するための措置、並びに破局的条件の進展を防止するための措置も、電離則に規定する緊急作業に該当しない。したがって国際機関における緊急被ばく状況における被ばく線量の参考値を規準に、現行の電離則の緊急作業時の被ばく線量限度を引き上げないこと。

2) 緊急作業の被ばく線量と、平常時の被ばく線量の管理を別だてにせず、1年50ミリSv、5年100ミリSvによる線量管理を徹底すること。

3) 年間の被ばく線量限度を超えて緊急被ばく状況に介入する労働者は「志願者」でなければならない。しかし志願という必要条件は労働諸法規になじまない(労働者は即時退避、労安法第25条の「事業者は労働者を作業場から退避させる等の必要な措置を講じる」義務がある)。厚生労働省は、志願を必要条件とする緊急作業に、事業者が労働者を従事させることはできないことを原子力規制委員会及び政府に表明すること。

4) 消防法やそれらの内規においては、あらかじめ確定的影響や確率的影響、死亡を前提にした消防士の救命活動、救助活動を想定することはできない。消防隊員が緊急作業には従事できないことを総務省消防庁は原子力規制員会及び政府に表明すること。

5) 自衛隊法においては、あらかじめ放射線による確定的影響、確率的影響、死亡を前提にした自衛隊員の救命活動、救助活動を想定することはできない。自衛隊員が緊急作業には従事できないことを防衛省は原子力規制委員会及び政府に表明すること。

6) 上記の見解と異なり、厚生労働省、総務省消防庁、防衛省が原発事故時の緊急作業に従事する可能性があるとすれば、そのために必要な法整備について明らかにすること。