12労働基準監督署・神奈川労働局交渉の報告

12労働基準監督署・神奈川労働局交渉の報告

今年も7月10日から21日にかけて神奈川県内の12の労働基準監督署との交渉と、8月1日には神奈川労働局との交渉が行われた。あくまでも要求と回答という形をとっているが、最近はむしろ互いに情報交換をしながら地域の課題や対策が共有できる場にもなっている。資料を用意して、署の取り組みや自らの考え方を積極的に述べる職員と、資料も少なく、尋ねられたことだけを淡々と答える職員との違いは大きい(資料は用意するが説明が少ないとか、資料を用意しないかわりに説明が詳しいという人はあまりいない)。
署、局の回答や議論をしたことを簡単に報告する。また、監督署から提供されたわかりやすい資料もあわせて紹介したい。ぜひ来年も多くの皆さんの参加を呼びかけたい。【川本】

【相模原】

▼署の説明から 労災発生件数が1割増加した。とりわけ社会福祉施設、道路貨物運送が増加傾向にあり、食料品製造業も相変わらず多い。精神疾患の認定数が増えたのは、津久井やまゆり園の職員のケースがあったため。
▼やりとりから 建設ユニオンの仲間から、「ぎっくり腰は労災にならないと事務組合に言われた建設労働者がいる」、「整形外科医も同様の認識の人が多い」と指摘があった。実際に手続きを行う両者に対する啓発をお願いしたい。担当者は2~3年で変わるにも関わらず、毎年、資料が他署と比べて少ないことが気になる。

【横浜西】

▼署の説明から 面積でも人口でも、横浜市全体の約3割を占める。労災発生件数も若干増加したが、とりわけ建設業が多い。労災だけではなく、労働基準法違反の申告件数でも建設業が多い。請負なのか労働者なのかがあいまいなケースも多い。労働相談も増えている。資料も説明もわかりやすかった(22頁の表「休業4日未満の届け出件数等」参照)。

【横浜南】

▼署の説明から 労災発生件数は減ったが、社会福祉施設は減らない。転倒、腰痛、交通災害が多い。社会福祉施設では、疲労性の腰痛はなくなったという事業主や、逆にどうしても防げないという人もいる。そういう事業所では人の入れ替わりが激しい。アスベスト労災も相変わらず多いが、造船や港湾が目立っている。特別教育をしていないということで書類送検された珍しい例がある。詳細は言えないが、他にもいろいろな違反があったために全体で看過できなかったとのことである。

【横須賀】

▼署の説明から 労災が増加している。やはり社会福祉施設対策が重要課題である。原因については、人手不足と明言。例えば腰痛は一人で無理をすることで起きる、施設自体はバリアフリーなのに、忙しいので転倒事故も多くなる。
▼やりとりから アスベスト被災者から、傷病補償年金への移行、ネブライザーの労災適用(局へ要求している)などについて重ねて要求があった。ユニオンヨコスカからは、メンタル労災について、個々人の心理的負荷を評価するときに、職場全体の雰囲気や状況をきちんと把握してほしいと要望があった。

【小田原】

▼署の説明から 特徴としては、観光地なので旅館業対策がある。転倒災害防止は他署でも課題となっているが、滑りにくい靴にするとか、路面の改善などの対策が事実上難しい。数千人規模の物流拠点ができたために、その対策も課題である。

【川崎南】

▼署の説明から 労災補償に関しては、決定までに調査が以上に長引いた事例が相次いだため、改善を求める要求をした。実は4月から課長さんが代わったため、詳細な事情はわからないが、個別担当者の問題ではなく、組織全体できちんと反省してもらいたい。資料も石綿除去工事件数や4日未満の休業災害の両方ともないなど、準備不足。説明は丁寧でわかりやすかっただけに残念である。
社会福祉施設の労災が、他署と比べても案外少ない。神奈川シティユニオンの組合員の職場での労災隠し事例が報告された。

【厚木】

▼署の説明から 労災発生件数は昨年とほぼ同じ。多くの工場が倉庫や物流拠点になってきている。それに伴い、陸上貨物取扱業の労災が増えている。4日未満の休業災害を分析したところ、転倒、腰痛災害が多い。予防対策に向けた講習会を開催していきたい。
わかりやすい資料が提供された(23頁の表参照)。
▼やりとりから 建設ユニオンから、足場の特別教育の義務化に伴う墜落・転落災害の減少はあったのかと質問があった。署としては、建設業は他業種よりも自主的な災害防止に関する取り組みが活発で、一つの法改正の効果がはっきりすることはあまりないかもしれないとのこと。

【川崎北】

▼署の説明から 従来から資料提供も説明も充実している。人事異動もあったが相変わらずわかりやすくてありがたい(24~25頁の表参照)。例えばストレスチェックの状況も資料提供があった。ただ気になるのは、1000人未満の事業場は集団分析をしていない事業場は、分析した事業場の3分の1程度なのに、なぜか1000以上の事業場では、分析をしていない事業場が4ヶ所で、した事業場が2ヶ所の2倍と逆転している。こうしたことも資料があって初めて議論ができることである。
労災事故も増えている。住宅が増加傾向にあり、従来からの社会福祉施設対策に加えて小売業も今後の重点となる。

【平塚】

▼署の説明から 労災が増加しており、従来からの製造や建設は減っている一方で、小売り、社会福祉、飲食店という「主要三次産業」が増加。
いじめや嫌がらせの相談が相変わらず多い。労働者側の意識の高まりもあるが、やはりひどい会社が多い。

【鶴見】

▼署の説明から 陸上貨物運送業の労災がなかなか減少しない。労災発生現場自体は業種を問わないので、横断的な対策が必要になっている。上肢障害も署の規模の割には多い。調理師、介護、メッキ関係の労働者など。

【藤沢】

▼署の説明から 第三次産業での労災が増えている。店舗などの小売業は対策が容易ではないが、許認可権をもっている保健所にリーフレットを配布させてもらうなどの取組みをしている。社会福祉施設については自治体との合同会合に参加して、腰痛対策などに取り組む。
▼やりとりから 腰痛で労災請求中の運輸労働者が、長時間労働が大きな問題であり、心臓疾患なども健康保険でかかっている人や退職を余儀なくされた人も多いと実態を訴えた。

【横浜北】

▼署の説明から 社会福祉施設の労災が大幅に増えている。横浜市の健康福祉部局と、横浜市内の4つの監督署が合同で、腰痛対策の講習会を開催する。労働時間対策などについては、本省や労働局へのメールによる情報提供に基づいて、週数件は管内の事業場の件で回ってくるので対応している。

いくつかの署で議論となったこと

ストレスチェック

法の施行は15年12月だが、本省が報告書の提出時期を各事業場の事業年度の終了後などでもかまわないという通達を出したために、実施しても届けていない事業場もある。届出率はどこの監督署でも約7割前後で、これから自主点検などの形で指導をしていくとのこと。ちなみに本省が6月末時点で、実施率8割という数字を発表している。
ある監督官は、まさに集団分析と職場改善こそが重要と考えた運用を推奨していると明言。残念ながらそういう考え方の事業場は多くない。
「働き方改革」の残業規制の適用猶予や除外

ほとんどの監督署で、上に伝えるという回答だったが、「要求のとおりだと私も考える」、「人間の体は運転手だろうが事務職だろうが同じですからね」と積極的に語る監督官もいた。

学生、学校向けの
労働法規啓発を

労働相談ネットワークからは、いわゆるブラックバイト対策として、学校を通じて学生向けのチラシの配布の要求があった。

上肢障害の給付と
報告のズレ

上肢障害については、労災保険給付と死傷病報告書の届出数の差異があまりにも大きい。例えば、厚木署では平成28年度に24件が業務上認定されているのに、28年の報告はたったの4件。年度と年の違いとは考えられないし、20件すべてが休業4日未満とは思えない。来年以降もう少し詳しく分析を要求したい。

社会福祉施設の
腰痛などの対策

ベッドや車いすへの移乗する際の腰痛が多い。自治体との関連が高いことから、共同で講習会を開催したり、自治体主催の会合に監督署が参加して労働関連の課題を提供する取り組みが各地で行われている。

労働局交渉でのやり取りなど

労働局交渉では、資料に基づいて50分程度の解説があり、その後、質疑応答、意見交換を行った。

業務上疾病の発生状況

労災発生状況について尋ねると、労働局がまとめた「神奈川県下における労働災害と健康の現状」というパンフレットに基づいて、説明される。その数字は休業4日以上の死傷者数なのだが、使用者が遅滞なく報告するように義務付けられた死傷病報告書をまとめたものだ。業務上疾病では、死傷病報告書の数字と、労災保険給付を受けた数が大きく異なることがある。
とりわけ目立つのが、上肢障害。例えば、平成28年の死傷病報告書では「手指前腕の障害及び頸肩腕症候群」は19件。一方で平成28年度に上肢障害で労災給付を受けた人は79人にのぼる。この差は毎年のことであるから、おおよそ会社が労災と認識せず監督署に届けを出していないとしか思えない。実は、脳心臓疾患や精神障害も同じような差があるのだが、労働局もそれを見越してなのか、労災給付の方の数字を上記のパンフレットで使っている。従って上肢障害の数や分析、対策も、給付の方の数字に基づいて行うべきではないか。
労働局も、検討したいと回答した。

アスベスト問題は
労働局独自の取組みを

毎年11~12月頃にアスベスト労災の認定事業場の公開が行われる。建設現場でも多くのアスベスト被害が生じているが、一口に建設業と言っても、どのような作業をしてきたかは大きく異なる。製造業であれば、いろいろな業種別に分かれているのだから、事務も大工も一緒というのでは意味がない。せめてもう少し作業内容がわかる形での発表を行ってもらいたい。本省が決めることかもしれないが、備考欄では、名前が出る企業側の言い訳めいた記載(例えば「出張先での作業」など)も目立つ。本当の意味で役に立つ情報公開を望みたい。
書類の誤廃棄が問題になったため、神奈川局では、署ではなく、局で一括して保管することが決まっている。もちろん目録づくりもするという。基本的には紙で保管するようだが、量の問題や活用のしやすさから言って、デジタル化してもらいたいところ。
足場からの墜落転落災害は減っているのか

労働局がまとめた「神奈川県下における建設業労働災害の現状と対策」にも触れられているが、建設業では「墜落、転落」災害が多い。平成27年7月に改正労働安全衛生規則で、足場の組立て等(解体又は変更)の業務に従事する者を対象として特別教育の受講が義務づけられた。建設ユニオンからは、その効果は出ているのかと質問が出された。
労働局は、確かに発生件数そのものは減少傾向にあるが工事量の問題もあり、なかなか特別教育の有効性の見極めは難しいとのこと。署でも同様の回答だった。しかし、建設業の墜落、転落災害と言っても足場からとは限らないわけで、もう少し詳しい分析を要請した。

有期雇用労働者への
無期転換ルールの周知

来年4月から、5年以上反復更新で雇用されている有期雇用労働者が、期限の定めのない雇用を求めることができる。いわゆる無期転換ルールである。大企業は、法改正があった4年前から対応しているし、厚労省も企業向けには就業規則の変更などの啓発活動をしている。しかし、自動的に無期転換されるわけではないので、より重要なのは当事者への周知のはず。労働局は自治体とも協力して進めていくと言うが、具体性がない。リーフレットを作成して配布するなどの取組みを求めた。ちなみに、7月30日に本省が記者発表したが【注1】、その見出しにも「厚生労働省では、各企業における無期転換ルールへの対応に向けた準備を呼びかけています」とあり、会社向けの印象が強い。

労働相談をメールで

厚生労働省本省のホームページには「相談機関のご紹介」のページがあり、平日夜間や土日にフリーダイヤルで相談を受ける「労働条件相談ほっとライン」や、「労働基準関係情報メール窓口」では、労働基準法など違反が疑われる事業場に関する情報受付窓口でメールで受け付けている【注2】あまり知られていないので、本省でできることは、ぜひ神奈川労働局でも始めてほしいと要請した。
なお、昨年4月に労災保険の審査請求の制度が大きく変わった。しかし審査官自身も労働基準監督署も慣れていないのが現状。ましてや被災者には改善点は非常にわかりづらい。そのことも含めて交渉したかったが、審査官が交渉に参加していなかったので、来年は参加を求めていきたい。