Q&A住民によるアスベスト使用建物の解体工事監視のために(大気汚染防止法と石綿障害予防規則が改正)

1.身近なところで起きている解体・改修工事に注意しよう!
Q 家の近くのマンションで解体工事が始まりました。アスベストが飛散していないか心配です。アスベストの有無はどうやって確認したらいいですか?
A 工事現場に掲示板が設けられているはずです。それぞれの法律(大気汚染防止法、建設リサイクル法、石綿障害予防規則)に基づいて3種類の掲示板がありますが、周辺住民が見なければならないのは、何々自治体に届け出たと明記してある大気汚染防止法に基づく掲示板です。今回(13年6月)の同法の改正で、「アスベストの事前調査の結果を工事の場所において公衆に見やすいように掲示しなければならない」(同法第18条の16の4、同施行規則第10条の8)とされたため、これを見ればアスベストが使われていたかどうか確認できます。調査の結果は、①調査を終了した年月日、②調査方法、③特定工事に該当する場合は、特定建築材料の種類(石綿がある場合はその種類)が表示されています。

Q 駅前再開発に伴い、私たちの団地の近くの大手某社の社宅が解体されることになりました。そこで、団地の自治会で環境アセスの資料を取り寄せたところ、石綿入りモルタルが110トンも使われていることがわかりました。この石綿入りモルタルは吹き付けアスベストですか?
A どの建材にアスベストが使用されていたかについては石綿含有建材一覧で調べることができますが、塗材に使用されているモルタルについては掲載されていません。「モルタル混和材の中に相当量の石綿が含有するものがある」として、厚生労働省が「蛇紋岩計左官用モルタル混和材による石綿ばく露の防止について」を出して、石綿障害予防規則の規制対象となると通知したことがありますが、環境省は大気汚染防止法の対象となる「特定建築材料」に当らないとしています。従って、吹き付けアスベストなどのレベル3対応扱いとはならなくとも、石綿が含有されていることが明らかであれば、発注者や施工業者に対して、レベル1対応でアスベスト除去工事を実施するよう発注者や施工業者に要望されたらよいと思います。

2.敷地境界濃度10本/Lであれば安全なのでしょうか。
Q 事前調査の結果、アスベスト濃度は10本/L以下だから安全と言われました。本当に安全なのでしょうか。
A 10本/Lは、石綿製品・製造工場があった時の敷地境界の濃度基準で、人間の健康リスクに基づいた基準ではありません。今回の大気汚染防止法改正のために開催された石綿飛散防止専門委の中間報告でも「当該基準は、石綿の中でも毒性の比較的弱いクリソタイルを対象としたものであり、これより毒性の強い石綿も使用されている特定工事の現場では緩すぎるとの指摘がある。このことを踏まえると、一般大気環境濃度の状況も参考に、引き続き検討が必要である」としており、従来の10本/Lを安全基準とする考え方はとられていません。

3.事前に、アスベスト除去工事の説明会を開催させよう!
Q 大手ゼネコンから、分譲マンションの建設計画についての事前資料が配布されてきました。工事の工程表には、事前の解体工事でアスベスト処理の工程も含まれているようです。アスベストが飛散しないかと不安ですが、工事が安全に実施されるかどうか、確かめる手立てはないでしょうか?
A 解体工事のアスベスト処理について、別途に説明会を開催させてはどうでしょうか。大気汚染防止法には、掲示板などの周知義務は明記されていますが、説明会の開催については触れられていません。しかし、神奈川県の「アスベスト除去工事に関する指導指針及び同解説」には掲示板の設置以外の周知方法として、「説明会や各戸訪問による説明、チラシ配布、回覧板利用等」が挙げられています。

Q 説明会に出ても、アスベストについての専門的なことはわからないので、あまり乗り気にはなれません。行政の方でも一緒に来てもらったらいいのでしょうか?
A 住民の立場に立つアスベスト対策のNPOの専門家に相談し、できれば説明会に立ち会ってもらうのがいいと思います。事前に、アスベスト使用状況等の現地調査もしてもらいレクチャーを受けておくことも大切です。
4.石綿飛散事故が起きたとき、どうしたらよいですか?
Q 校舎新築のために旧校舎解体中の学校の側を通ったら、機械ばらしで解体していたため、運動場で粉じんが濛々と飛散していました。アスベストも含まれているのではないかと心配です。どうしたらよいでしょうか。
A 解体工事中に立入調査をする権限をもっているのは、労働基準監督署と自治体の環境課の担当者です。自治体はこれまで石綿の届出がない解体工事については、立入の権限を行使しようとはしませんでした。しかし、今回の大気汚染防止法の改正に伴って、立入調査の権限が拡大されて、届出がない場合でも立入り調査ができるように法令解釈が改められました。従って、労基署ばかりでなく自治体にも通報して、石綿を飛散させるような違法工事を止めさせなければなりません。

Q 事故現場近くに住んでいるので、自分や家族の健康影響も心配です。健康診断などを受けた方がいいのでしょうか?
A すぐに健康診断を受けても、結果は何も出てこないと思います。長期的な健康リスクについて、考えていくために、①石綿の飛散量はどのくらいだったか、 ②学校関係者や周辺住民の曝露状況はどうだったのか、などの情報を集めて第三者委員会を立ち上げ、将来の健康リスクをシミュレーションして、健康診断の必要性や被害補償などについて報告書を作成し、リスク削減の実施計画を立てて行くべきでしょう。
5.大気汚染防止法改正のポイントは何ですか?
Q 新聞で大気汚染防止法が改正されたことを知りましたが、どういう背景があったのですか?
A 環境省は、アスベストが使用されている建築物が約280万棟と推計され、平成40 年頃をピークに全国的にこれらの建築物の解体工事が増加することが予想されることを背景として上げていますが、直接的には東日本大震災の被災地で石綿飛散事故が起きたことが大きいでしょうね。

Q 今回の大気汚染防止法の改正点はどんなものですか?
A 法改正については以下の3点です。①届出義務を施工業者から発注者に変更し、発注者にも責任を負わせたこと。②石綿の事前調査と発注者への調査報告の説明を義務付けたこと。③立入り調査の対象に石綿の届出のない解体工事も加えること。しかし、当初環境省の石綿飛散防止専門委員会で上げられていた改正項目はもっと多かったんです。

Q 石綿飛散防止専門委ではどんな改正項目が上がっていたんですか?
A 次の7項目が上げられていました。①発注者の責任の明確化、②事前調査の義務付け、③立入権限の強化、④大気濃度測定の義務付け、⑤罰則の強化、⑥アスベスト除去後の完了検査、⑦周辺住民への情報開示(周知義務)。

Q ④~⑦の改正項目は削られてしまったんですね。
A 住民が石綿の解体工事を監視する場合、⑤罰則強化と、⑦周辺住民への情報開示(周知義務)は重要です。削られてしまってとても残念です。しかし、周知義務については石綿障害予防規則(法第119条)と建設リサイクル法(第53条)で、掲示しない場合について罰則を定めているので、現状でもこれらの法律を根拠に発注者や施工業者に周知義務があることを認めさせていくことが必要です。

Q ④大気濃度測定の義務付けについては、石綿飛散専門委員会で敷地境界濃度10本/Lをどうするかで議論があったんでしょうか?
A 同専門委の中間報告では、10本/Lでは「緩すぎるとの指摘」と書かれてますが、同委員会では1本/Lという意見も出され、同省報告書で両論併記もされているので、改正法に明文化されていなくとも、今後は1本/Lについても健康リスクの基準の目安として考えていっていいのではないかと思います。

Q 大気汚染防止法の改正部分を読んでみたんですが、③立入権限の強化の文言がどこにも見当たりませんね。
A パブコメでも、立入調査の権限強化の文言を入れるように提案したのですが、環境省は、大気汚染防止法第26条の「特定工事の場所を立ち入り」を「解体工事等に係る建築物等若しくは解体等工事の現場に立ち入り」と文言を変更しているので、石綿の届出のない解体工事も立入調査することができると解釈されると説明していますが、わかりにくいですね。環境省には、今回の大気汚染防止法の改正を実効性のあるものにするために厚生労働省とも連携して、全国一斉の立入調査のアクションプログラムを立ててほしいですね。

Q すると、いずれにしても今回の大気汚染防止法の改正のメインは、①発注者の責任の明確化と、②事前調査の義務付けに絞られてくるわけですね。
A 今回の改正の最大に狙いは、やはり①発注者の責任の明確化のところであって、その理由を中間報告では「石綿を使用した建築物等の解体工事等を施工業者に発注する際に、できる限り低額で短期間の工事を求めること、また施工業者も低額・短期間の工事を提示することで契約を得ようとすることにより、石綿の飛散防止対策が徹底されなくなる問題がある」そして、「発注者が石綿の飛散防止対策の重要性・必要性を十分に理解した上で、適切な特定工事を実施できる施工業者に適正な価格で発注することを確保することが重要である」としています。発注者の責任については、石綿飛散防止専門委でも、石綿除去工事に携わる施工業者のダンピング問題などが散々議論されたので、法改正にも十分反映されていると見ていいと思います。しかし、問題は、②事前調査の義務付けのところだと思います。

Q 事前調査が義務付けられたのはいいことですが、誰がそれをやるんですか?
A 改正法の第18条の17では、事前調査の実施主体は工事の受注者となっています。しかし、石綿飛散防止専門委では、発注者に対し建設業者又は調査機関に事前調査を実施させることを義務付ける考え方もあったのです。改正法のように、実施主体を工事を請け負う建設業者=受注者とすると、建設業者が事前調査をするか、建設業者が必要に応じ調査機関に事前調査を委託する場合がありますが、石綿の事前調査をめぐって、建設業者の施行部門と調査部門、委託する場合は、建設業者と調査期間との間で利益相反の問題が生じてくる可能性があります。その点では、事前調査の実施主体が発注者の場合は、発注者が委託する調査機関を建設業者と利益相反にならないような調査機関を選択する余地があると考えられるのです。

Q 事前調査する専門の調査機関にはどういう団体がありますか?何か資格制度みたいなものがあるんですか?
A 資格としては、アスベスト診断士と建築物石綿含有建材調査者があります。しかし、アスベスト診断士の制度を発足させたJATI協会は、旧石綿協会を引き継ぐ団体で、中皮腫・アスベスト疾患患者と家族の会などの患者団体から、「石綿協会は石綿を使用しても大丈夫と言ってきた。過去を反省せず、危険な石綿の調査を任せろというのは容認できない」と批判されており、このアスベスト診断士の下に事前調査を実施した場合は、要注意ということになります。その点では、国土交通省が創設した資格制度として「建築物石綿含有建材調査者」による事前調査を勧めたいと思います。

Q ⑤アスベスト除去後の完了検査というのはどういうことなんでしょうか?
A ずさんな除去作業で、石綿の取り残しがないように養生シートを撤去する前に石綿の除去が確実に実施されたかについて完了検査を行うことです。しかし、これは施行規則からも外されてしまいましたね。石綿飛散防止専門委でも「自治体による完了検査を受けることを義務付ける場合、自治体側でも当該除去作業の完了時に求めがあれば対応できる体制の確保が必要となるが、現状では実現は難しい」との理由が上げられていました。

Q お話を伺っていると、今回の大気汚染防止法の改正は、当初石綿飛散防止専門委で検討されていた内容からかなり後退したものになっているようですが、住民サイドからどう活用していったらよいのでしょうか?
A 石綿飛散防止専門委の中間報告が出された段階で、改正法案の内容を強化される取組の方向として「石綿の飛散防止対策に関する関係者の取組強化の方向(案)」が出され、法律の改正で定めるか、規則の改正で規定するか、或いはマニュアルで対応するか、表に分けて整理されています。この表で、今回の大気汚染防止法の改正で法や施行規則で何が削られて、何がマニュアルで対応することになったのか? また、マニュアルからも落とされたものとして何が今後の検討課題となっているのか、チェックする必要があるのではないでしょうか。その上で、法や施行規則、マニュアルから削られたり、外されたりした項目でも、今回の法改正の当初の主旨はこういうことであるから、法文や規則に書いてなくとも、重要な項目だからと要求していく必要があるでしょう。

6.石綿障害予防規則のポイントは何ですか?
Q 今回、石綿障害予防規則の方も改正されたんですね。
A ええ、しかし、あくまでも大気汚染防止法の改正に伴っており、ごく一部の改正に留まっています。

Q どんな項目が改正されたんですか?
A 改正された項目は、施工業者が石綿の作業を実施する際の技術的なところなので、以下の改正の趣旨について見てもらった方がわかりやすいと思います。「東日本大震災の被災地で実施された石綿の除去作業では、前室や集じん・排気装置の排気口からの漏洩が確認されている。・・・煙突内の石綿等が使用されている保温材、耐火被覆材等が著しく劣化している場合に、・・・飛散事例が確認されている」

Q 石綿の事故例から言うと、排気口から石綿が洩れた事例が多かったということですね。それと、煙突にも石綿が使われていたんですね。
A そのため、排気口から石綿が漏洩しているかどうか点検することが明記されたんですが、それだけでは不十分で、排気口で換気量を測定することが必要でしょう。煙突に石綿が使われていたことは、施工業者も知られていなかったということは、神奈川でも綾瀬小の石綿飛散事故で明らかになりましたが、今回改めて煙突も含めて保温材・耐火被覆材について作業規制したということです。

Q すると、石綿障害予防規則は石綿除去作業に従事する労働者を対象とする規則なんですね。住民にとってあまり関係ないのかな?
A いえ、そんなことはないと思います。石綿障害予防規則にしたがって工事現場の労働者の安全が守られていれば、アスベストが周辺に漏れたり飛散する事故を起こすことはないのですから、やはり労働者に危険な作業をさせないように石綿障害予防規則を強化させていくことは、住民にとっても大事だと思います。もちろん、労働安全衛生法令の罰則を強化して、事業者に違法な工事をさせないようにさせることも重要です。

7.自治体の上乗せ条例が今後の課題
Q 今回、大気汚染防止法と石綿障害予防規則が一部改正されたのですが、他の法律や制度にも波及するんですか。
A ええ、もちろん波及します。特に、大気汚染防止法の改正については、自治体でアスベスト条例をもっているところは改正する必要が出てきます。アスベスト条例がない自治体では、改正された大気汚染防止法がそのまま適用されることになります。

Q アスベスト条例がある自治体でも、今回の大気汚染防止法とまったく同じところが改正されるだけなんでしょうか?
A 実はそこが問題なんです。大気汚染防止法の第32条(条例との関係)では、「建築物等を解体し、改造し、又は補修する作業について、その作業に伴い発生し、又は飛散する特定粉じんの大気中への排出又は飛散に関し、条例で必要な規制を定めることを妨げるものではない」とあるので、今回の改正された大気汚染防止法に上乗せする条項を自治体の条例で制定してもかまわないわけです。

Q 実際にそういう上乗せ条例を制定した自治体があるんですか?
A 川崎市や大阪府がそうです。川崎市では、レベル3対応の石綿含有建材の解体工事にも届出義務を課してますし、大阪府では、立入調査できる場所を工事現場だけでなく事務所にまで拡大する条項を上乗せしています。しかし、他の自治体では、今回の改正条項である①発注者の責任、②事前調査の義務付け、③立入調査の権限強化に限定するところが多いですね。

Q 条例の制定や改正なら、住民が地元の議員らとともに議会に働きかけて、つくらせることもできます。
A そうですね。今後、大気汚染防止法の上乗せ条例を作らせていくことがアスベスト問題と取り組む住民の運動の大きな課題ですね。