職場のいじめ嫌がらせパワハラ問題について ユニオンは苦労しながらも経験を蓄積して問題解決に対応している

いじめ メンタルヘルス労働者支援センター代表 千葉 茂
働きやすい職場を作るために
第1分科会「メンタルヘルスⅠ/パワーハラスメントをなくすためにできること|相談・予防対策の現状と課題」には33人が参加した。
分科会の呼びかけ文は次の通り。「職場のいじめ・嫌がらせ行為で被害にあった労働者は、身を守るために退職したり、職場内の人間関係などから声を上げられずに泣き寝入りしてきました。そのため長い間、職場の問題としてきちんと捉えられずに放置されてきました。しかし最近では、被害を受けた労働者が少しずつ声を上げ、労働組合などで対応するケースが増えてきています。行政や労働組合、労働団体に寄せられる職場のいじめ・嫌がらせの相談件数は激増していますが、それぞれの相談窓口が問題解決の困難性をかかえて対応に追われる事態となっています。相談を受けるにあたって心がけている点、社会への要求・交渉におけるポイント、職場復帰・社会復帰に向けての取り組み等、具体的な事例や対策を交流しましょう。そして、働きやすい職場作りにつなげましょう。」
「パワハラの予防・解決に向けた提言」の評価
分科会では、まず、今年3月15日に発表された「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」から提出された「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」の解説と評価の報告があった。

▼「予防・解決に向けた取り組み」の中の、それぞれの立場からの取り組みの最初に「トップマネージメントへの期待」が掲げられている。取り組みは、上司が主導して組織的に行わなければならない。しかし「提言」全体としては、いじめは個人的問題ではなく、構造的問題から発生しているという捉え方が希薄。個人的問題と捉えると、予防・防止策も個人的対応に終始する。いじめは、実際は、会社ぐるみ、会社の指示、暗黙の了解、「社風」から発生している現象がほとんどだ。解決にあたっては構造的問題にメスを入れる必要がある。それが「予防」にもつながる。労働者にとって雇用不安が一番のいじめ。雇用不安がトラブルを発生させている。

▼初めて「パワハラ」の概念規定が行われたことは歓迎する。「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対し、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」という概念規定についての評価はこれからの活用如何。解釈をめぐって「ここまでは大丈夫、許される」というような議論に終始するのはいい労使関係とはいえない。つまらない議論だ。そのようにして解決しても問題の芽は残る。根を絶やす取り組みが必要。

▼いじめはどのような関係の下で行われるかということで、「報告」全体は「職場」にせばめられている。社員以外は対象になっていない。処遇の格差や雇用形態の差別は、労働者個人としては克服できない課題。しかし「人間扱い」しない処遇や人権感覚の欠如がはびこっている。労働者にとって、差別は二番目にきついいじめだ。いじめはつまらないものという感性・価値観の習得による肌感覚での気づきができる職場環境・雰囲気作りが必要。そのためには、職場環境を自分たちで作り上げて認識を共有する「仲間」が必要。そしていじめが起きてしまっても、会社や職場、労働組合が自力で解決したという自信は労働者からの信頼を呼ぶ。自力で解決した経験は会社の財産である。

質問と報告から
この後、質問と報告があった。労働政策研修研究機構の内藤忍研究員も参加し、質問に回答をしていただいた。
内部告発をしたら村八分にあったという報告があった。会社に都合悪いことをすると、別な理由をつけられて、いじめ・嫌がらせの仕返しをされることはよくある。しかしそのような行為が行われること自体、職場の雰囲気が働きやすくないということ。労働組合から雰囲気作りの対抗策を出すのも解決方法になる。
上司としての指導がパワハラといわれたという報告も。「業務の適正な範囲」の受け止め方の問題。厚労省が円卓会議を開催するに至った契機として、使用者側から業務指示を出しにくいので、パワハラの定義を出してほしいという要望もあったという。何をもってパワハラというか。上司が部下の力量をどう評価していたか、何をどう指導しようとしているのかが問題になる。力量以上のことを要求するのはパワハラだが、期待はそうではない。問題は、双方に信頼関係があるかどうか。
一方、嘱託職員として就職したが指導ということでパワハラを受け、解雇され、就労闘争と団体交渉を続けているということが報告された。
また、職場でお手盛りで賃金が決定されたり、ヤミ賃金が支払われるなど、職場で分断支配が行われているという報告があった。使用者は、労働者・労働組合の分断のためには「なんでも」する。追及されると、事実を否定したり居直り、労使関係は悪化の一途をたどる。
メンタル相談の対応について
続いて、兵庫ユニオンからメンタルヘルス相談の対応について事例報告が行われた。相談には3つのタイプがある。
①長時間労働を強いられ、体・精神に変調をきたす。②職場の環境や働かされ方に適応できずにトラブルになり、体・精神に変調をきたす。③職場以外の、本人の性格・資質(病気?)が原因でトラブルになり、体・精神に変調をきたす。
①の例として、大手建築資材会社の代理店での発注業務で、定額残業制・月20時間となっていたが、7時から20時までのシフト表が配布され、上司2名も過労で倒れて退職。2011年12月から出社拒否症になり、うつ状態の診断で休職。ユニオン加入して団体交渉し、未払い残業代と退職条件を整備して退職することで解決に到った。
①のもう1つの例として、冷凍・冷蔵庫の入出庫業務で、月100時間以上の法廷時間外労働をしていた。今年3月初旬の早朝、勤務の帰りにうずくまり動けなくなった。同居人が、出勤できないことを会社に告げると、会社は退職の手続きをしたため社会保険の資格を喪失、傷病手当の申請もできなくなりなった。生活保護を受給しながら労災申請し、認定を受けた。損害賠償訴訟の提訴を予定している。
②では、職場に成果主義、目標管理が導入され、仕事の遅い人や周りにうまく溶け込めない人などが職場から排除されている。ユニオンとしては、できるだけ雇用を継続する形での解決を望むが、小さな職場で人間関係が崩壊していて復帰が難しく金銭解決となるケースが多くなっている。
③の例は2つ紹介されたが省略する。
兵庫ユニオンは、組合員の要望を聞きながらも客観的状況を分析し、ベターな解決を丁寧に目指していると受け取ることができた。

パワハラ問題への対応について
この後、パワハラ問題で交渉する場合の注意点について質問があった。
「報告」は「職場のパワーハラスメントの行為類型」として、①暴行・傷害(身体的な攻撃)、②脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)、③隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)、④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)、⑤業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)、⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)を挙げている。これらにあてはまるかどうかが問題になる。実際の交渉場面では判断や評価が分かれることが出てくる。その詰めは今後の課題。いじめ・パワハラの形態は常に変化していく。
この他、いくつかのユニオンからパワハラ問題に対応し、解決に至った経験や経過が報告された。札幌パートユニオンは、2007年からトラブルが発生してパニック障害になったが、組合の支援で元気を回復し、医者からも回復の速さに驚かれたという報告がされた。回復を促進させたのは労働組合。「今は労働組合に感謝しています」という言葉が繰り返された。札幌パートユニオンは、労働者が職場に求めている安心を保障する癒しの場でもあるようだ。労働組合の1つの役割でもある。
今年は個別紛争を取り上げる分科会がなかったためか、この分科会は、パワハラ問題、個別紛争対応が議論の中心になった。特徴は、パワハラは個人的関係性で発生するのではなく、会社ぐるみ、組織的に起きているということ。解決に向けて、その部分を切開していかなければならない。
各ユニオンの報告は、それぞれ苦労しながら経験を蓄積して問題解決に対応していることがうかがえた。いじめの実情の訴えだけではなく、このようにして泣き寝入りすることなく解決したという報告が目立った。そのような報告を参加者が持ち帰り、それぞれのユニオンで生かしたら、来年はもっといい報告が聞けると実感できた。コミュニティ・ユニオンには希望がある。