アスベスト対策のいま 大気汚染防止法改正と自治体の役割

5月25日、全水道会館で開催された緊急シンポ「アスベスト対策のいま 大気汚染防止法改正と自治体の役割」に、各地の議員や自治体関係者など80人が参加した。6月1日施行の大気汚染防止法の石綿飛散防止条項改正に合わせたタイムリーな企画だったが、同法改正後の自治体の条例改正をめぐる状況に大きな関心があることを伺わせた。【西田】

今回の大気汚染防止法の石綿飛散防止条項の改正では、発注者責任を明確化するために石綿を使用する建築物の解体工事の届出義務が施行者から発注者に変更され、事前調査が義務付けられた。しかし、東京労働安全衛生センターの外山尚紀氏が報告「大気汚染防止法の改正と今後の課題」で指摘したように、健康リスクの基準や住民周知の義務、罰則の強化などが法令化されず、今後の課題として残されたままになっている。こうした不十分な規制に終わった今回の大気汚染防止法の石綿飛散防止の改正を受け、同法施行後に全国の自治体が条例を改正し、石綿飛散防止に関わる条項をどれだけ上乗せするか注目されていたのである。
また、当センター西田の報告「自治体条例の改正状況」で、石綿飛散防止に関わる条例をもつ自治体を調査したところ、17の自治体のうち条例を改正した自治体は10で、検討中は1であった。条例を改正した自治体の上乗せ条項を見ていくと、レベル3対応の石綿含有建材にも届出義務を課したことと工事現場ばかりなく事務所にまで立入調査の権限を拡大した大阪府。レベル3対応の石綿含有建材の届出義務以外にも石綿の測定義務や説明会の開催などの住民周知義務などを上乗せした練馬区や小金井市などが目立つ。また、今回条例を改正していない自治体でも、旧来の条例で住民周知を義務付けて周知範囲まで上乗せして規定している川崎市などがある一方で、旧来の条例に届出義務の除外規定がないために施工者と発注者(大気汚染防止法の改正で届出義務が発注者に変更)が二重に届出が必要となる兵庫県のような自治体も出ている(「大気汚染防止法の改正に伴う自治体条例の改正状況」)。
さらに、今回の大気汚染防止法の石綿飛散防止条項改正では、事前調査も義務付けられた。名取雄司氏(中皮腫・じん肺・アスベストセンター所長、国土交通省アスベスト対策WG主査)の報告「石綿含有建材調査者制度・自治体での活用」でも、自治体が国の補助金制度を活用して、石綿含有調査の公的資格である「石綿含有建材調査者」制度を普及していくことが重要と強調された。

シンポジウムでは、自治体の上乗せ条例の在り方をめぐって自治体の担当者、議員、住民、NPO団体がそれぞれの立場から発言した。既存の自治体上乗せ条例の中で先駆的なモデルとなるのは、川崎市の場合で上乗せ条項が、①レベル3の石綿含有建材の届出義務、②石綿の濃度測定義務、③住民周知、と3つもある(「自治体上乗せ条例―川崎市の場合」 川崎市環境局環境対策部企画指導課の藤田周治さんの発言)。しかし、住民周知の範囲をめぐっては問題がないわけではない。同じ川崎市では、武蔵小杉駅前再開発の伴う日石アパートの解体工事をめぐって周辺住民が石綿入りモルタルを除去させた取り組みが紹介されたが、川崎市の条例では周知範囲が周辺20m以内に居住する住民となっている(「小杉二丁目開発計画予定地の日石アパート解体工事に伴うアスベスト除去の取り組みと問題点について」 小杉御殿団地 潤間かずみさん)。そのため、緊急シンポでは川崎市の上乗せ条例づくりに市議として関与した猪俣美恵議員も「住民周知範囲をアスベスト特性に鑑み広域にするべき」と発言されたのである(「アスベスト対策」川崎市議会議員 猪股美恵さん)。もちろん、自治体上乗せ条例のつくり方としては、行政主導ではなく小金井市のように議員立法でつくればレベル3の届出義務についても「規模要件なし」としているところもある(「議会主導による小金井市のアスベスト条例」小金井市議 百瀬和造さん)。条例をもたない自治体でも、尼崎市のように無届による解体工事を防止するために石綿の有無に関する事前アンケートを実施しているところもある(「尼崎におけるアスベスト飛散防止の取組みについて」尼崎市環境保全課 田村真樹さん)。
これらの自治体の上乗せ条例を参考としながら在りうべき自治体の上乗せ条例として、この緊急シンポを主催した中皮腫・じん肺・アスベストセンターの永倉冬史事務局長から、①濃度規制を1本/L、②規模要件を置かないレベル3の届出義務、③リスクコミュニケーションが担保できる説明会の開催、などが提言された(「自治体上乗せ条例の在り方」中皮腫・じん肺・アスベストセンター永倉冬史)。

この緊急シンポ直後に神奈川県が従来の「アスベスト除去工事に関する指導指針」を改正し、施工者に対して緊急時の対応措置として異常値の基準を従来の10本/Lから1本/Lに改訂。また、横浜市も従来の「横浜市生活環境の保全等に関する条例」一部改正案を市議会で可決し、届出義務を発注者に変更する条例に改正した。マスコミも、今回の改正大気汚染防止法について「石綿規制 実効性に疑問」という見出しで規制を上乗せする独自の自治体もあるとして、東京都や横浜市、鳥取県や川崎市などの自治体の上乗せ条例を紹介している(14年6月7日付毎日新聞)。
私たちは、こうした不十分な規制に終わった今回の大気汚染防止法の改正を受けて、住民の意見を十分に反映し、説明会などに参加し住民がリスクコミュニケーションのできる自治体上乗せ条例が全国の自治体でつくられることをめざして取り組みを進めていきたい。