アスベスト関連疾患の労災認定について|労災職業病相談マニュアル

大変残念なことに、中皮腫の相談が増えている。我々が1980 年代に運動に取り組み始めてから「原則禁止」に至るまでに20 年以上もかかった責任は、もちろん国や関連メーカーが負うべきだが、残念でならない。それでも、悪性中皮腫というアスベスト特有の疾病があるからこそ、その影響実態が明らかになる。

2005 年の「クボタショック」以降、中皮腫はアスベストが原因であることが一定知られるようになったが、まだまだ労災に結びつかない事例が少なくない。先日も、地方の県庁所在地の市立病院の患者で、何の救済手続きもされていない方の相談があった。

中皮腫の約2 倍とも言われるアスベスト肺ガンの認定事例が、中皮腫よりもはるかに少ないことは、まだまだ被害が隠されていることを示す。例えば県内の大病院で「アスベストでなるのは中皮腫ですから、肺がんは違う」等と説明され、そのまま新聞報道された。被害を明らかにすることは、対策をきちんととらせることの条件でもある。

A.労災認定基準

肺ガンと中皮腫の認定基準が、21 世紀になってからだけで、2003 年9 月、2006 年2 月、さらに2012 年にも改正された。長い目で見ると改正されてきたのは事実なのだが、実は根本的に問題があり、課題が残っているのでまとめて解説しよう。

まず、第一型以上の石綿肺所見のある労働者に肺ガンや中皮腫は、従来通り労災になる。もちろん石綿にばく露した作業に従事したことが前提である。大体石綿肺の所見がある場合は、それなりに作業実態も明らかであることが多いので、問題が生じることはまずないだろう。もちろん、潜伏期間が長いので、何十年も前の仕事の状況を覚えていないこと、アスベストを直接取り扱ったという認識のないことも少なくないので、きちんと職歴、作業内容を尋ねる必要がある。また、実は石綿肺の所見があっても不整形陰影と呼ばれる石綿肺の読影に慣れていない医師も少なくないため、じん肺はないとされることがよくある。神奈川でも、大学病院の医師が第一型だと太鼓判を押した患者さんが、管理1 とされるようなケースなど、不当な決定があった。

石綿肺所見のない人の中皮腫について、かつては胸膜肥厚斑や石綿小体・繊維などの医学的所見が求められてきたが、「1 年以上のばく露歴」があれば、医学的所見は求めないことになった。かつては診断そのものが難しいとも言われてきたが、あまりそこで問題になることは多くない。したがって、ここ10 年ぐらいは、中皮腫の労災認定を求める相談は減っている。もちろん、まだまだ埋もれている患者さんや突然のことで、何十年も前の職歴が必要なことがある労災補償に思いの至らない人は少なくない。

石綿肺所見のない人の肺がんについては、従来どおり10 年以上のばく露歴と胸膜肥厚斑、石綿小体・繊維があれば業務上になる。ばく露歴が10 年に満たないものについて、従来は全て本省協議とされていたのだが、業務上とする石綿小体・線維の量を認定基準で明示した。厚生労働省はこれを改正と発表したのだが、実際には、きちんと職歴やばく露状況を確認しないで、石綿線維や小体の数だけで「労災にはならない」と決め付ける監督署があまりにも多い。白石綿(クリソタイル)は、とくに石綿小体を作りにくい、繊維も検出されにくいとされている。実際にいくつかの行政訴訟があるのだが、ほとんど全てが国側敗訴。本来であればはじめから労災認定されるべきであったという判断が相次いでいる。そもそも中皮腫の2 倍と言われる肺がんの認定件数は、ようやく神奈川などで同数になっている程度。むしろ請求件数が減少傾向にあることが気になる。喫煙歴があればそれが原因でしょうと言うことで、アスベストとの因果関係に思いが至らず、請求しないケースが大量に埋もれていることは間違いない。

なお、中皮腫で石綿肺もなく1 年以上のばく露歴もはっきりしないものや、肺がんで医学的所見は一定あるのに10年に満たないものも、本省協議となるから、簡単にあきらめてはいけない。もちろん本省協議=認定ではないし、間違いなく時間がかかるので、むしろ本省協議などするまでもなく、きちんとばく露状況を把握させて、速やかに認定させるべきである。

やはり大切なのは職歴、ばく露状況である。アスベスト製品の工場に始まり、造船所、建設に続いて、ガラス工場、自動車・車両整備、ホテル、船員など、さまざまな職場の被災者が労災認定を勝ち取っている。とにかく認定基準では、中皮腫は1 年、肺ガンは10 年のアスベストばく露作業があれば業務上にすることになっている。石綿ばく露作業としては、列挙されているもの以外でも、同程度のばく露があればよいし、直接取扱者の周辺作業ももちろんOK だ。監督署も、細かい医学的所見もさることながら、やはりばく露職歴を重視している。神奈川でも、中皮腫で業務外になるケースがごくまれにある。毎年の監督署交渉でその都度確認するのだが、病名が違っているケースはまれで、ほとんどが職歴がはっきりしないことが理由である。

なお、細かい認定要件はともかく、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水という耳慣れない病名も忘れてはいけない。いずれも呼吸が困難になるので、患者さんは非常に苦しい。

B.患者、家族を支える

中皮腫がアスベスト被害を如実に表すことはいいのだが、その治療法のないこと、自覚症状が出てから、わずかの間に亡くなられることは、大変重い現実だ。肺ガンは、リスクのある労働者がきちんと健康診断をしていれば、初期で発見されて完治することも珍しいことではなくなった。しかし、中皮腫のリスクのある労働者や、余命いくばくもないような病気になってしまった本人や家族にとって、労災認定がどのような意味を持つのであろうか。

仕事が原因で病気になったことをはっきりさせるために、名誉のために、これからの若い人達のために、いろいろな理屈を並べても、空虚に感じるのは私だけではなかろう。私は、労災認定のお手伝いをした5 ~ 6 年お元気だった中皮腫の方が何人かおられたので、そういう人の話をしたりする。労災になれば経済的な補償が得られるのだから、とりあえずそれでいいのではないかと割り切ることも一つの考え方かもしれない。しかし、やはりそれだけでは割り切れない本人や家族、遺族の気持ちを思いやることは、絶対必要条件である。我々は労働基準監督署の下請けでも保険会社でもないのだから。

幸い「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」( 神奈川支部は当センターが事務局、本部はフリーダイヤル0120-117-554)がある。いくつかの地域で、認定後も活動を続ける患者さんや遺族がおられ、各地に支部が次々に結成されている。被災者同士の交流や情報交換、連携を深めて、相談活動に取り組みたい。

C.時効救済について

2006 年3 月に施行された「石綿による健康被害の救済に関する法律」で、中皮腫や肺がんなどの石綿疾患については、死亡後5 年の時効で権利が消滅してしまった遺族に、特別遺族年金や特別遺族一時金が支給されることになった。当初の請求期限は3 年、つまり2009 年3 月27 日までであった。運動の成果で、2008 年には2011 年3 月まで延長することが決まり、さらに2011 年には2022 年までの延長が決まった。

なお、通常の労災遺族年金と異なり、請求した翌月分からしか支給されないので、とにかく早く請求した方がよい。年金額は定額で、遺族が1人の場合は240万円、2人の場合は270万円など。すでに賃金台帳などの資料がないことを理由としており、それはそれでよいのだが、新たな不公平が生まれた。つまり、賃金の安い若い頃に石綿関連作業に従事したために、せっかく労災認定にこぎつけたのに、給付基礎日額が上記年金額よりもはるかに低いケースが少なくない。そもそも30 年も40 年も経過してから発症することを想定していない労災補償制度の欠陥を示しており、早急な改善が求められる。