ほとんどの会社は団体交渉に応じている アスベストユニオン

アスベストユニオン書記長 川本浩之

中皮腫患者のAさん(愛知県在住)が組合員になった。彼は、B社の職人として各地の造船所で働いて、石綿にばく露した。結婚し子供も生まれて転勤続きの生活は避けたいとB社を退職後、愛知県にある会社に定年まで勤めた。Aさんは、B社が石綿ばく露職場ということで、労災認定された。「B社にいた頃は転勤も多くて、いろいろ妻に迷惑をかけたのでね、自分が死んだ後に少しでも残してやれればと思ってね」と、遠慮がちに語る。ユニオンは、損害賠償や、石綿労災認定の実態の情報開示を求めて、団体交渉を要求した。B社は、「決して大きな会社ではないので・・・」と言いつつ労災認定の実態などを開示、現在交渉を継続している。
Cさん(愛知県在住)は、建設関係のD社で石綿にばく露し、中皮腫になった。やはり転勤が多いことから県内の別会社でばりばり働いていたCさんにとって、また家族にとっても晴天の霹靂であった。Cさんは、石綿ばく露したと思われるD社に出向いて労災申請への協力を依頼したが、D社は電話一本でそれを拒否。とにかく治療に専念しようと、Cさんは事業主証明のないまま労災を申請し、結果も見ないまま残念ながら数ヶ月後に亡くなった。妻がユニオンに加入し、団体交渉を要求したところ、会社の代理人弁護士から連絡があった。「団交に応じる立場にないと考えてはいますが、そうはいってもCさんのご遺族に当社の立場をきちんと説明していく必要があると考えていますし、ユニオンとの話し合いに応じていきます」。会社の担当者と弁護士との話し合いを継続している。話し合いには、「父に自分の寿命を分けてあげたい」と語っていた息子さんも参加している。

以上二つの事例に限らず、現在多くの企業が、業種や規模を問わず、遺族だけであろうがなかろうが、団体交渉に応じて問題解決を図ろうとしている。アスベストユニオンは、賠償問題はもとより、情報開示や元同僚への健康診断の通知などを求め、それについても会社は応じることが多い。
一方で、不誠実団交を繰り返し裁判闘争を余儀なくされているのが日本最大のアスベストメーカーであったニチアスだ。相変わらず県労働委員会の命令に従おうとしない。中労委から早急に明確な救済命令を勝ち取りたい。岐阜地裁の損害賠償事件では、判決日が指定される中で和解協議が続いているが、ニチアスは「明確な謝罪」を拒んでいる。