腰痛の労災認定について|労災職業病相談マニュアル

腰痛の相談は多い。絶対数が多く、まじめに医療機関にかかってもなかなか治らないことも理由の一つだと思う。まず、労災認定基準を頭に入れておくことは必要不可欠。それがいくら現実や現代の医学の常識と乖離していようが、そんなことは構っていられない。むしろ、だからこそ認定基準を前提にした対応をせざるを得ないのである。

認定基準では腰痛を「災害性の原因によるもの」と「災害性の原因によらないもの」の二つに分けている。前者は、「ぎっくり腰」のように何かをした時に突然腰が痛くなるケースで、ここでは「災害性腰痛」と呼んでおく。後者は、特にそうした事故的要素はなく、だんだん痛くなるケースで、ここでは「疲労性腰痛」(監督署は「非災害性腰痛」という)と呼ぶことにする。実際にはそうすっきりと分けられるものではない。腰に疲労感がたまっていて、ちょっとした作業が原因で発症する場合がある。あるいは、確かにある作業中に腰を痛めて、その時はがまんして、治るだろうと医者にも行かないでいたが、何日経ってもやっぱり治らないでひどくなってきたといったこともしばしばある。こうしたものを災害性と疲労性に二分することは非現実的だが、監督署はどちらかに決めつける。

A.災害性腰痛の「突発的なできごと」

一般的に災害性腰痛の労災認定は難しくないとされる。重量物を運んだり、腰に負担のかかるような不自然な姿勢で作業中に腰を痛めた事実さえはっきりすれば問題ない。ところが、認定基準の「通常の動作と異なる動作による腰部に対する急激な力の作用が業務遂行中に突発的なできごととして生じた」という表現を、字句通り「厳密に」解釈する監督署担当者がいる。毎日約30㎏のものを運ぶ労働者が、いつもと同じように運んでいる時にぎっくり腰になった場合、「通常の動作でしょ」で片づけられかねない。この幅が、監督署の職員によってかなり違うように思う。

疲労性腰痛の認定が難しいこともあって、「突発的なできごと」をでっち上げてでも、労災認定を勝ち取ろうとする「活動家」がいるが、全く好ましくない傾向である。もちろん、いかに腰に負担がかかったのか、不自然な姿勢を強いられたかを詳細に説明することは重要である。机の上の物を取ろうとして、ちょっとひねったかもしれないという程度では認定は難しいだろう。

B.2種類の疲労性腰痛

①腰部に過度の負担のかかる業務に比較的短期間従事した者の腰痛

腰部に過度の負担のかかる業務としては、「重量物または軽重不同の物を中腰で扱う業務」、「不自然な姿勢の業務」、「同一作業姿勢を持続する業務」、「粗大な震動を受ける業務」が例示されている。また、比較的短期間というのは、おおむね3ヶ月から数年ということらしい。認定基準だけみると、認定はそれほど難しくないのだが、実際には請求する人もあまり多くないし、決定件数は限りなく少ない。

一つは、多くの整形外科医師が協力的ではないことがあげられよう。医師のみならず、労働基準監督署の職員が、「椎間板ヘルニア」などの病名や、骨などに変形があると、労災にはならないと、説明することもあった。わざわざ認定基準の解説に、基礎疾患が悪化した場合も業務上として取り扱うとされ、傷病名にとらわれることなく調査するようにと指示されているにもかかわらず、である。まったくけしからん話だ。

現実には、検査の結果ヘルニアなどの所見があるとされて、基礎疾患がたまたま発症しただけだとして、不支給となることがある。ヘルニアはいつ出来たのかはわからないが、少なくとも、今まで一度も腰痛になどなったことがないのにおかしいと訴えても通らない。近年はMRIなどが発達して、小さなヘルニアまで容易に見つかるそうだ。ところが、それと腰痛のひどさとは、何ら因果関係が見られないというような医学論文もある。

こうなると医学的に何を証明すればよいのかわからなくなる。したがって、災害性腰痛と同様に、いかに腰に負担がかかる作業なのかを、詳細にきちんと監督署に説明するしかない。

②相当長期間にわたって継続して従事した者の腰痛

こちらは、「概ね30㎏以上の重量物を労働時間の3分の1程度以上及び概ね20㎏以上の重量物を労働時間の半分以上取り扱う業務」を「概ね10 年以上」従事したと者と、かなり細かく決められている。こうした数字に何か医学的な根拠があるとは思えない。一言も書かれていないが、ここで想定されているのは、この認定基準を勝ち取った港湾荷役労働者の労働形態であろう。もちろん重量物取り扱い以外の者も、同程度の負担があればよいとされている。

そして何よりも理不尽なのは、「胸腰椎に著しく病的な変性」が「加齢による骨変化の程度を明らかに越え」なければならないとされていること。①で述べたとおり、骨変化などがあるから私傷病とされて、業務外になることがあるのに、今度は骨変化がなければダメなのだ。そもそも加齢による平均的な骨変化などあり得ないので、じん肺の標準フィルムのようなものもない。さらに骨変化が著しくても痛みがほとんどない人もいるし、その逆もある。結局のところ、その労働基準監督署の労災医員の判断に大きく左右されることになる。