脳心臓疾患の労災認定について|労災職業病相談マニュアル
脳・心臓疾患の労災認定は非常に厳しかった。1990 年代半ばには全国で年間約30 件だったのが、95 年の認定基準改正で約70 ~ 90 件に、2001 年暮れの改正を受け2003 年には300 件を超え、現在もその状況は変わっていない。過労死の労災認定は、決して難しくない。むしろ予防対策や、企業の責任追及に積極的に取り組むべき情勢である。とは言っても、歴史的な経過と認定基準の正確な理解は重要である。
A.労働時間の把握が重要に
1987 年の認定基準の時代は、発症直前の「異常な出来事」を見つけることが認定への近道であった。「異常な出来事」とは、「極度の緊張、興奮、恐怖等の強度の精神的負荷」、「緊急に強度の身体的負荷」による「異常な事態」や「急激で著しい作業環境の変化」を指す。こうした事実が発症直前の24時間以内にあることが認定要件とされた。それがなければ、発症直前1週間が、日常業務に比べて「特に過重な業務」であることが求められた。そして1週間以上前のことは基本的に関係ないとされた。「特に過重」とは具体的にどの程度かは明らかにされていなかったが、休みなしで、労働時間が通常業務の2倍程度と言われていた。つまり丸々1週間深夜まで残業していないとダメで、しかも1日でも休みが入るとダメだという考え方もあったようで、マスコミが報道して問題になったこともある。とにかく厳しい認定基準だった。
95 年の改正通達では、発症前1 ヶ月の業務も総合的に判断するという内容であった。大きな仕事のために、ものすごい長時間労働がずっと続いて、その大仕事が終わった数日後ホッとしたところで倒れるケースがいくつか救済されたと思われるが、正直、中途半端な改正だった。
現在の通達は、形の上では旧通達を廃止しているが、内容的にはそれらに追加する形で長期の蓄積疲労を認めて、発症直前1ヶ月の時間外労働時間が100 時間を超える場合は因果関係あり、業務上となった。あるいは発症前6ヶ月の平均時間外労働が80 時間を超える場合も認める。これは半年間にわたる80 時間以上の残業ということではない。発症直前2ヶ月間の時間外労働が計160 時間以上あれば認める。そうでなくても、さらに遡って3 ヶ月間で240 時間、同様に4 ヶ月で320時間、5 ヶ月で400 時間、6 ヶ月で480 時間を超えれば認めるということになった。では95 時間ではダメなのか、平均75 時間ではどうかと言えば、ある程度は認めているようだ。いずれにせよ数字を明記した点が大きい。その根拠は睡眠時間の確保にある。労働時間が曖昧なケースの審査会の公開審理では、睡眠時間がどのように確保できていたかをしつこく尋ねられた。
従って、「異常な出来事」があろうがなかろうが、労働時間の特定が重要である。タイムカード等で管理、把握できる場合は良い。しかしそれが正確な労働時間ではない場合や、そもそも労働時間管理がいい加減な場合が大変やっかいである。往々にして企業は認定してほしくないので、過少なデータや事実を監督署に述べる。それの反証は容易ではないが、同僚や取引先など関係者の発言をうまく得ることや、事実が確認できる調査ポイントを監督署担当者に伝えることが重要である。