石綿健康被害補償・救済状況の検証(安全センター情報より)
安全センター情報18年1・2月号より
全国安全センターは石綿健康被害補償・救済状況の検証を行ってきた。05年夏の「クボタ・ショック」に対応するために国は「隙間ない救済」制度を作ることになった。しかしながら本当に隙間がないのかどうかについての検証を全く怠っているため、全国安全センターがこの10年余の間に9回にわたり検証作業を行った。今回が10回目となる。そもそも必要なデータ自体がなかなか出されなかったり、不十分だったことも大きな問題である。そのこともあり、掲載された文章は極めて難解で分かりづらいので、結論的な部分だけまとめてみる。【川本】
死亡者数について、中皮腫はほぼ全てがアスベストが原因とされるので、人口動態統計に基づくデータがある。問題は肺がんだが、国際的な科学的コンセンサスとされた「中皮腫の2倍」は少な過ぎると最近は言われているが、過少推計になることを承知しつつ2倍とする。救済方法としては、労災保険や船員保険の補償、公務員災害補償、石綿健康被害救済法による救済があり、それらの統計データと死亡者数を比べることになる。
中皮腫の死亡者数は高止まり状態。05年の年間500人から3倍の1500人となっている。救済率も増加してきた。さらに本来、労災補償されるべきものがはるかに金額の低い救済法に流れていたものも、改めて労災ではないかと遺族に周知する事により労災になる事例も少なくない。それでも救済率は、64・4%に過ぎない。
問題は肺がんである。中皮腫の2倍のはずが、16年度末時点での累計数で中皮腫の半分以下。請求自体少なく、認定される率も低く、取り下げ件数も多い。周知が十分ではないことと、労災保険の認定基準が不当に厳しいことも原因だ。肺がんの救済率は11・1%。つまりアスベストが原因で肺がんで亡くなった人のわずか1割しか補償・救済されていないのだ。
もう一つの問題は都道府県別の格差だ。中皮腫救済率は東京88・8%がトップで、兵庫86・89%、大阪85・5%と続く。救済率が最も低いのは沖縄46・3%、鹿児島51・6%、岩手52・0%。全国平均(74・4%)から考えてもあまりにも低い。肺がんはもっと格差が大きい。トップが岡山36・3%、長崎27・9%、香川27・3%と続く。低い方は、秋田3・7%、鹿児島3・9%、鳥取4・1%。アスベスト肺がんとして救済される率が10倍も違うというのはどう考えてもおかしい。
「隙間ない救済」を実現するためにも、目標の再確認と実現に向けた実効性のある諸施策の確率が求められている。